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忘れ潮の灯台守  作者: Tpump6957
地図の外の家族
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灯台へ続く階段

調査で得た地名を繋ぐと、海という言葉を使わずに海岸線が描けた。


俺だけが知っていた形だった。


入り組んだ縁、その奥にある村々、岬と思われる先端の灯台。


ロスカ市の東の貯水施設は、その縁を埋めた場所に建っていた。


川はそこへ流れ込み、見えない低地へ落ちていた。


オルネは地図を長く眺めた。


「八十六年前の境定めだろう」


初めて聞く名だった。


災害と国境紛争が続いた時代、国は各地の境を固定する事業を行った。


それ以降、地図の改訂が急に減った。


平和が続いたからと教わっていたが、

改訂するべき場所そのものが認識から外れていた可能性があった。


「昔の役人が、海を隠した?」


俺が聞くと、老人は首を振った。


「当時の全ての意思までは分からん。

最初は守るためだったかもしれん。

ただ、今も動いている仕組みがある」


市の揚水施設と境の保持は繋がっていた。


俺たちが検査していた封片も、その共通の回路に入っていた。


生活のための魔法と、消えた土地を消したままにする魔法が、同じ財布から支払われていたのだ。


俺は自分の署名を思い出した。


誰の記憶を何に使うか知らないまま、使えると書いていた。


ベレスに面会を申し込んだ。


彼は話を最後まで聞き、地図を返さなかった。


俺は返してほしいと言った。


彼は少し驚いた顔をして、それから紙を戻した。


「原本は別にあります」


エルナが言った。


ベレスは彼女を見た。


「君たちが懸念する設備は、既に限界に近い。

だから封片の回収を増やした。

悪意で土地を隠していると考えるなら間違いだ」


「理由を知らされずに払っている人がいる」と彼女が言った。


「知らせれば、払わない人も出る」


「払わないと言えることも含めて、自分の記憶でしょう」


ベレスは疲れた顔をした。


それも本物なのだろうと思った。


彼の疲れを認めることと、彼のやり方を認めることは別だった。


彼は施設への限定立入りを許可した。


古い回路の診断が必要だったからだ。


俺たちの発見を封じるより利用するほうが合理的だと考えたのかもしれない。


条件は記録院の監視者が同行すること。


俺たちは写しを工房と立会所とダナの知人へ預け、それから引き受けた。



施設の下には、塩水の溜まる広い室があった。


柱の表面に貝殻のようなものが固着し、天井の輪に錆びた鎖が垂れていた。


水路の奥に扉があり、その上に古い刻字があった。


灯台で見た文の続きだった。


『帰る者の名を、着く前に消してはならない』


エルナは指で文字の形を追った。


「消すための設備じゃなかったんだね」


俺は頷いた。


少なくとも、そう書いた人間がいた。


扉の脇の点検箱には、事故当日の控えが残っていた。


セラ・ベルナ、アルヴェイン標より入域。


局所補修中、帰路喪失。


留置人数、十九。


死亡とは書かれていなかった。


俺が生まれて一年目の事故で、彼女を含む十九人が向こうに残された。


帰路の強制切断の費用は、彼らを待つ人々との関係から取られていた。


俺の家族が彼女を覚えていないのは、単に長い年月が経ったからではなかった。


母の妹は、生きているかもしれない。


その可能性だけで、俺は扉を開けたくなった。


村の境標へ小刀を当てたときと似た熱が、指に戻った。


「まだ触らない」


エルナが言った。


俺は手を下ろした。


できたのは、それだけだった。



調査の三日後、設備の停止勧告を出した。


全部を止めるのではない。


新しい封片の投入を一旦止め、揚水を人力と水車へ振り分け、境の圧を少しずつ逃がす案だった。


ダナが勾配を測り、市の職人が代替の水路を見積もった。


三週間かかるという。


冬の増水は三週間待たなかった。


上流で雪崩が川を塞ぎ、急に崩れた。


市へ向かう流量が増え、境の施設が自動で保持を強めた。


投入庫の封片が次々に割れた。


俺たちの勧告が受理される前の夜だった。


工房の窓が鳴った。


村で聞いた音だった。


エルナと目が合った。


俺は寝台の下から長靴を出した。


彼女は帳面を防水袋へ入れた。


二人とも、何をすべきか説明する必要がなかった。


そういう時間を、俺たちはいつの間にか積み重ねていた。

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