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忘れ潮の灯台守  作者: Tpump6957
はじめに届いた声
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叔母の荷物

セラは、俺の顔を見るより先に、岸の段差へ文句を言った。


「これを桟橋って呼んで船賃を取るの?」


船の男が、満潮ならもう少し低いと答えた。


「そう。じゃあ帰りは満潮に乗る」


叔母は杖を先に渡し、手すりへ体を預けた。俺が腕を出すと、袖より手首を持ちたいと言った。どこを助ければよいか本人に言われるのは、少し安心する。俺は足を広く置き、彼女が傷めた左脚を岸へ下ろすのを待った。


後から、二つの荷が来た。


着替えの包みと、小さな金具の箱。それに、母が持たせた乾いた薬草が、包みの脇へ結ばれていた。湿った部屋で何日も働くなら煮出して飲めという。俺の出生の謎より、寝起きの喉を気にしている便りだった。


俺はそれを鼻へ近づけた。


家の棚の匂いがした。


「リナは元気。カイルは灯台の窓を見てる。ミアは、怪我だけは増やすなって」


セラは言った。


「エルナの家にも寄ったよ。ロイは鳥を机から落としたくないから、端に置くなと何度も言ってた」


エルナの顔が緩んだ。


「今、窓の横へ置いてる」


「窓も端だと思ってるのかもね」


それからセラは、俺を見た。


「で。今度は私のどこを調べる?」


笑って言われたのに、返事が出なかった。


叔母の声は、俺の最期の砂浜へ届いた声だと、長く思ってきた。嬉しそうで、泣きそうな顔。白い布と、風に解ける髪。俺が助けを求めた時に、そこへ現れた人。


その人が、着替えと薬草を持って、汗を拭いている。


「当時、塔を直したんだよね」


俺は聞いた。


「何度も。雨は待ってくれないし、あっちには新しい部品が届かなかったから」


彼女は小箱を指した。


「手紙にあった控えは持ってきた。金具も一つ。捨てなかった人がいて助かった」


セラは俺の顔を見直した。


「先に水、もらえる? 親戚だからって、着いた途端に仕事させないで」


俺は慌てて荷を持った。


宿の席に落ち着くと、セラは靴を脱いだ。靴下の縁が脚へ食い込み、片方の足首が少し腫れている。彼女は傷のない側の脚を先に伸ばし、左側は手を添えてゆっくり動かした。


ダナが低い腰掛けを持ってきた。


「この高さで?」


「もう少し低いと、助かる」


俺は卓の下にあった板を一枚外した。セラが踵を載せ、息を吐いた。


母の家の五脚目の椅子を、ここへ運べればよかった。あの椅子が毎日のために削られた物だということは知っている。それでも、こうして同じ高さを探す度、家に置いてある意味が分かる。


エルナは薄い茶を注いだ。


セラは、一口飲んでから話した。


「最初にあの金具を入れたのは、切り離されてから二度目の雨季だよ。窓の外の支えが抜けた。あの時、白い布で穴を塞いでた」


俺は彼女の胸元を見た。


「白い布」


「干してあった帆の端。風が来ると、こっちへ膨らむから邪魔だった」


海上で見た女の服だと思っていた。


だが、白い布が衣服だったかどうか、俺は確かめたことがない。ただ胸元で膨らみ、髪が揺れていた。


「声を送ったのは、その窓の前?」


「そこでも送った。修繕してる間、明かりの線がよく見えたから」


叔母は茶碗を置いた。


「聞こえたような顔をしたんだね」


俺は頷いた。


「聞こえたというか、意味が分かった。今度は忘れないでって」


「それは、何度も言った」


セラは窓の方へ目をやった。


宿の窓から見えるのは、洗った桶が伏せてある庭だった。白い塔も、隔離された海も見えない。彼女の視線がそこを通り過ぎていることだけ、俺には分かった。


「一度繋がると、みんなが集まるんだよ。次は船が来るかもしれないから。でも切れる。次に繋いでも、向こうには初めての声になってる。何度も名前を言った。同じことを頼んだ。そのうち、頼んでる自分の声が嫌になった」


彼女は茶碗を持ち上げたが、飲まなかった。


「嬉しく見えたなら、線が開いたのが嬉しかったんだと思う。誰かがいるって分かったから」


俺は、あの顔が俺を選んで笑ったものだと思っていた。


都合のいい話だった。俺は、困っていた一人の女の笑顔に、自分の死の意味まで欲しがっていた。


それを言おうとして、止めた。


この人の前でまた俺の反省を始めたら、彼女が十七年待った話の続きを、俺の性格の話で埋めてしまう。


「誰か、返事はした?」


セラは首を振った。


「その時は、しなかった」


彼女の茶はすっかり冷めていた。


俺は湯の残っている器を引き寄せた。替えようとすると、セラは今のままでよいと首を振った。冷めた方が飲みやすい日もあると言った。


小箱を開けたのは、茶を飲んだあとだった。


中には、三角に組まれた古い支えが入っていた。まっすぐな三角ではない。一辺だけが短く、下の角に、少し捻った平たい足が付いている。


「窓の角が潰れてたから、こう曲げた。無理に真っすぐ付けると、硝子の方が割れるって」


セラはその足を指した。


俺は、昨日光へ透かした帯を思い出した。


白い塔の窓の隅に、斜めの黒い線があった。


白い塔と女だけなら、俺の思い込みかもしれない。


この歪んだ三角が同じなら、いつの窓かまで分かる。


俺は金具を持ち上げなかった。


手を伸ばす前に、セラの顔を見た。


「明日、一緒に見てほしい」


叔母は頷いた。


「脚が痛くなる前にね。朝からなら、頭も働く」


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