次に開ける戸
すぐに遠い岸へ出るのはやめた。
サーヴァは外の波が落ち着くまで待ち、俺たちはレンネルの近くの小さな入り江へ移った。港の支配する近道を使わず、見える岸に沿って舟を進める。時間は余分に掛かったが、舷の外の水は、触ればそのまま冷たい水だった。
俺はその分かりやすさに、ひどく安心した。
入り江の宿で、写しを乾かした。
山の四穴から始まった紙が、卓いっぱいになった。建物の印、読み方の逆になった刻み、一度だけ移す太い流路、そのあとに付けた短い知らせの線。どの壁の、どの向きから写したかまで書いてある。
エルナは、古い地域受理所の場所を地図へ移した。
そこはレンネルの市街そのものではなく、沿岸の丘を越えた先にある、閉じられた建物だった。今の荷の倉へ移した保管先も分かった。俺の村の出生を扱った範囲と、古い外受の変換番号が繋がっていた。
「ここへ行く」
俺が指を置くと、エルナはうなずいた。
「二枚の受理痕も、そこで並べよう。こっちの図だけで答えを作らないで」
「分かってる」
俺は指を上げた。
言われなくても分かる、と腹を立てそうになったが、紙の上へ自分の指の汗がついていた。たぶん、言ってもらってよかった。
テムへ行き先を知らせる便を出した。
北から借り受ける二枚の受理痕は、彼が確かめた箱で、沿岸の保管先へ運んでもらう。古い装置の物理的な板で、中に人生が入っているものではない。その扱いの注意を、運ぶ人にもはっきり渡した。
セラへの次の便には、前に書いた相談に加え、合流できる場所を示した。船の乗継ぎと脚の都合は、彼女の返事を待って決める。
それから、十二日をその入り江で過ごした。
前半は外の波が落ち着かず、後半は受理所の閉じた部屋を開ける立会いと、現物の保管先を見る日を合わせた。手持ちの金が減るので、俺は宿の物干しと荷船の金具を直した。エルナは乾かした写しをもう一組作り、サダへ渡す説明も仕上げた。
村にも滞在の延びる可能性を知らせた。ジナへ送った紙の半分を、新しい梯子の金具の寸法が占めた。頼み事だけを書いて送るより、その方が彼女には役立つだろう。
セラからの返事は、港を経由して届いた。脚を置ける席のある客便を選び、南の家の用事を済ませてから来るという。何でも急いで取りに来ると思うな、と、母の字も横に一行あった。
俺たちは先に旧受理所へ入り、数日後に合流する段取りを決めた。北からの二箱も、そこで受け取れる見込みがついた。今度は歩く道だけでなく、待つ日も地図の脇へ書いた。
夕方、ダナは宿の外で靴を洗っていた。
山と海の泥が同じ溝へ入り、落としても次の色が出るという。俺も隣へ座り、自分の靴を水へつけた。革が塩を吹く前に手入れをしろと、船長に何度も言われていた。
「上手く帰れたな」
ダナが言った。
褒められると、俺はすぐに謙遜を探した。半分は、本当はもっと褒めてほしいからだった。
「危ない所はあった」
「あった。だが、線を見つけたのはお前だ」
彼女はそれだけ言い、靴底の石を抜いた。
俺は水の中で自分の指を開いた。いま触っている革は硬く、爪の間には新しい砂が入った。怖かった場所から、使った手を持って帰ってきた。
「昔の道具を作った人、失敗してた」
俺はアデルの直した字の話をした。
ダナは笑った。
「残るくらい、深く刻んだんだな」
「僕の失敗は、もっと目立つ」
「知っている」
早い返事だった。
夜、エルナと浜へ下りた。
潮の引いた砂は固く、足跡が浅くしか残らなかった。海の向こうにレンネルの灯が見えた。イサナはあの高い窓にいるのだろうか。黄色い果実を、今夜はちゃんと食べたのだろうか。
俺は渡された一つを、二人で分けた。
酸っぱかった。
思わず目を閉じると、エルナが笑った。彼女も同じ顔をしていた。甘い物を期待して食べたせいで、余計に舌の横が縮んだ。
「自分で選びたいって、言ってたね」
彼女が言った。
「うん」
果実の皮を、俺は袋へしまった。浜へ捨てればすぐどこかへ行きそうだったが、翌朝ここを歩く誰かの靴に付くかもしれない。
エルナが少し先へ行った。
俺は彼女の足跡を追い、追いついたところで手を取った。次に開ける戸の向こうに、何があるかはまだ怖かった。
それでも、いまは場所が分かっていた。
砂の上へ地図を描くと、エルナが屈んで、俺の引いた道を少し右へ直した。二人ともしゃがんだまま、波が来る前に宿へ戻る道を決めた。




