待てと言われた場所
待機室には、窓があった。
海へ向いた細い窓で、身体は抜けそうになかった。外には石の縁があり、その下に白い波が砕けていた。そこへ足を下ろすくらいなら、今いる床の方がまだましだった。
ダナが窓へ顔を寄せ、声を張った。
向こうの外階段に、男が一人見えた。上から下りてきた塔の番人だった。彼は俺たちを見つけると、腕を上げ、何か叫んだ。
波が声を飲んだ。
次の一波が引いてから、俺たちは同じことをもう一度叫んだ。下の床へ水が入っている。旧い帰り口が閉じた。解除してほしい。
男は上へ走った。
エルナは鞄を窓から離した。布が湿り、紙の端まで濡れかけていた。彼女は修復道具の箱を開き、乾いた包みを出した。肝心の写しより、自分の薄刃を先に拭きそうになって、笑った。
「癖って、こういう時も出る」
「高かったから」
「知ってる。あなた、渡す時に二度言った」
俺は覚えていないふりをした。実際には覚えていた。
ダナが下の床へ戻り、段の上から水位を見た。上がる速さは、潮だけでは説明しにくかった。外波が入るたびに、出口を塞いだ水が戻ってくる。港の外の防波戸を閉めたせいで、古い排水側へ流れが寄ったらしい。
俺たちが入る前の図には、その後付けの戸がなかった。
ラウゼンはしばらくして外階段へ現れた。
「沖の便を先に入れる。中央を切り替えた。いま主口を開けば、向こうの照合をやり直す」
波が引く間を使って、彼は言った。
ダナが水位のことを伝えた。彼は待機室の窓を見上げ、床の高さを確かめるように顔を傾けた。
「そこまで上がったことはない」
「下へ水を寄せた戸が、昔はなかった!」
俺は叫んだ。
彼の顔から、親切な案内役の表情が消えた。怒りではなく、計算を止めない顔だった。
「確認する。勝手に線を触るな。君たちの札は、まだこちらにある」
「古い帰着なら、ここだけで戻せるんでしょう」
「中央を通さず名を返せば、こちらには残る。誰が消す」
「三人とも出てから、僕らが見ている前で」
ラウゼンは首を振った。
「私が認めた順で動いてくれ。港に入っている便がある」
その言い方を聞いて、俺は初めて腹の底から彼に腹が立った。
彼が港を守ってきたことは、見ていた。魚の荷も、薬も、人の給金も知っている。だが、俺たちがいま立っている場所の水は、彼の窓からは見えなかった。
見えない水を、見えている自分の順序より軽くしていた。
ラウゼンは上へ戻った。番人が階段に残った。彼も気まずそうだったが、戸を開ける鍵は持っていなかった。
エルナが俺の袖を引いた。
「見て」
窓の下、古い石を割って新しい金属線が通っていた。行く先は中央の台。旧い帰りの針からも、一筋がそこへ吸い上げられている。
俺は山で写した図を出した。
最初の線は、出発と帰着だけで一周していた。上へ伸びる細い枝はない。三人が通った口に、あとから中央の許可が加わっている。
「この枝を抜けば、元の形にはなる」
俺は呟いた。
「ほかの便は?」
ダナが聞いた。
「混じる所より、こっちで切る。僕らの札から行く線だけを。向こうの主線は触らない」
言葉にするほど、怖くなった。
自分の道だけを見分ける。頭では単純でも、石の中へ消える線を間違えれば、知らない舟の帰りを切るかもしれない。俺はもう一度図を見て、山で逆向きと気づいた三本の斜線を探した。
あった。
古い方の石にだけ、外へ向かう刻みが続いていた。
「試してから、人を動かす」
俺は言った。
エルナが鞄を床へ置き、自分の袖をまくった。
「使う紙、言って。濡らしていいものから渡す」




