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忘れ潮の灯台守  作者: Tpump6957
山の底の波音
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酸い実を選ぶ人

イサナは、椅子へ浅く腰を掛けていた。


膝に薄い布を置き、その上で黄色い果実を転がしている。皮を剝く前に、何度も指で重さを確かめているようだった。


部屋の三方に窓があり、中央の低い台には細い棒が何本も立っていた。棒の上の輪が、一つずつ違う位置で止まっている。机の端に透明になった片が二枚置かれ、まだ乳白色の筋のある片とは離してあった。


俺がそれを見ると、イサナは果実を持った手で机を指した。


「終わった方へ触って。白い方は今日の帰りに使う」


「触ってもいいんですか」


「触りたい顔だから。触るなと言うと、後で見えない所で触りそうだ」


俺はエルナを見た。彼女は知らない顔をした。


ラウゼンが山の調査のことを説明すると、イサナは途中で話を遮った。


「あの受け所を、まだ荷にして運んでるの」


「使える枠が要る」


「奥を見ずに抜くと、どっちが古いか分からなくなる」


「記録は取らせている」


「では、その記録を私にも見せなさい」


二人は何度も同じ話をしたことがあるようだった。言葉の間に、互いが先の返事を知っている沈黙が入った。


ラウゼンが下の荷場へ呼ばれると、イサナはようやく果実へ爪を立てた。


強い酸味の匂いがした。


彼女は一片を口へ入れ、目を細めた。甘いのか酸いのか分からない顔だったが、次もすぐ取った。


「好きなんですか」


俺が聞くと、彼女は眉を上げた。


「嫌いな物を、この年でわざわざ選ぶと思う?」


卓の果実を一つ差し出された。俺が持ち上げると、彼女は首を振った。


「それは軽い。隣。皮が薄くて、持つと重い方」


エルナが別の一つを取り、彼女の手へ載せた。


「そう。それ」


イサナは嬉しそうに撫でた。


俺は山の写しを広げた。


四穴の規格と、太い溝へ追加された細い溝。逆向きの三本の斜線。イサナは指へ果汁がついていないか確かめてから、紙の下を持った。


「外から読む時代の印だね。いまは塔の内側から読む。同じ形を残したから、向きだけ変わった」


俺は息をついた。自分の発見が、思い違いではなかった。


波音が聞こえたと話すと、イサナは山へ出る古い細線の図を取り出した。今の港の送り線へ、末端が残っていた。港から片を使って合図を送る時に、受け場の音まで一緒に乗っていたらしい。


彼女は届いた時刻を俺たちの控えと見比べ、机の脇の送り控えへ指を置いた。その朝、荷舟の帰着を知らせた時刻だった。


「水の道は閉じて、知らせの方を残した。山で止めた口より、こっちの枝が古い」


イサナは職人を呼び、使われていない山向けの枝を外させた。港の次の送りに、その枝が反応しないことも見た。耳に聞こえた海の正体は分かったが、俺は空の池で音を聞いた時の寒さを、すぐには追い払えなかった。


「初めは、舟ごとに帰りを作った。出た岸と、着く岸。その便が着けば、使った線を抜いた。何本もいつまでも重ねなかったんだ」


彼女は台の上の棒を見た。


「いまは、一人がここから全部合わせる。楽になった所もある。だが、戻っていない輪が一つでもあると、私は先に夕飯へ行けない」


棒の一つが、乾いた小さな音を立てた。


イサナの顔が変わった。果実を置き、輪の高さを確かめ、細い柄へ手を添えた。机の片の白い筋が少しだけ透けた。窓の外で、どこかの小灯が二度点滅した。


彼女の指は迷わなかった。だが、手を戻したあと、しばらく膝の布を掴んでいた。


「あっちの舟が着いた。それだけ」


俺が見ていると、彼女は言った。


「心配するなら、下の果物売りへ、売れ残りばかり上げるなと言って」


「自分で選びに行かないんですか」


聞いた瞬間、エルナの指が紙の端で止まった。


イサナは俺を見た。


「行きたいよ」


いつもの調子だった。それがかえって、逃がしてくれなかった。


「階段は降りられる。足はまだある。ただ、私が戻る時刻まで、全部の帰りを止める人間が要る。ラウゼンは、いつも明日ならと言う」


彼女は机の果実を転がした。


俺は、自分の足で下りてきた港の階段を思い出した。人が途中で座り、靴紐を結び、魚を食べていた階段だった。


古い道を調べたいと言うと、イサナは塔の下に残る受け場を教えてくれた。


「最初の石がある。アデルの名を見たなら、そっちも見るといい。あれを書いた手が、きれいに隠れてる」


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