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忘れ潮の灯台守  作者: Tpump6957
地図の外の家族
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残る人の仕事

オルネは俺の雇用をすぐには切らなかった。


その代わり、客の書類に一人で触ることを禁じた。


俺が検査した封片の控えを全て取り寄せ、何処へ送られたか調べるよう言った。


給金を返せば済むかと聞くと、老人は冷えた目で俺を見た。


「済ませたいのか」


俺は、その一言で口を閉じた。


記録院へ判定の撤回に行った。


ベレスは俺を以前と同じ椅子へ座らせた。


俺の申立書を最後まで読み、筆を置いた。


「技術の判定は間違っていない。

権利書は上の係へ回そう。

ただし、一部の封片はもう設備へ入っている」


「止めてください」


「止めるなら代わりの動力が要る。

今夜、南病舎の揚水を止めるか」


俺は黙った。


彼は指を組んだ。


「君が苦しいのは分かる。

だが街は君の後悔に合わせて止まれない」


正しい部分があることが腹立たしかった。


俺は相手を悪人にできれば、自分が正しい側へ戻れると期待していたのだろう。


「それでも、他の分は止める必要がある」


言うと、ベレスは俺を見直した。


俺が泣いて謝るか、怒って出ていくか、そのどちらかを予想していたらしい。


「全部の取引を見直せば、君の責任も増える」


「知っています」


知らなかった。


だが、知るまで待っていればまた筆を動かす機会を失う気がした。


申立書には俺の名を書いた。


今度は、何の欄かを一つずつ読みながら。



ロイの一つ目の封片は、既に使われていた。


南病舎の地下で、空になった鉱石板を返された。


乳白色の筋が抜け、透明な欠片になっていた。


表の紙には、エルナ、初めて雨に怒る、とあった。


彼女が二歳の頃の記憶だったらしい。


俺は工房へ戻り、エルナの机にそれを置いた。


何か言おうとしたが、どんな言葉も自分を少しよく見せる形になった。


「戻せなかった」


結局、それだけ言った。


彼女は封片を手に取り、光へ透かした。


何も見えない。


分かっているはずなのに、角度を変えた。


何度も。


「私、雨を知らなかったんだって」


彼女は言った。


「外へ行けないのが、お父さんのせいだと思って怒ったって。

母さんが話してくれた。

お父さんの目で見たら、どんなだったんだろう」


俺は隣に立ったまま、手を伸ばさなかった。


「残り二つは、停止できた。

返還の審査がある」


彼女は頷いた。


礼は言わなかった。


俺は自分の中の、礼くらい言ってくれても、という声を聞いた。


その醜さに驚くほど、俺はまだ自分を知らなかった。



審査は冬を越えた。


俺は市の立会所へ何度も呼ばれた。


署名の意味を知らなかったという主張は通らなかった。


説明を受ける機会があり、報酬を受け、異議なしと自分で記したからだ。


記憶を売る人々の側に説明不足があったかどうかは、別の調べになった。


元の持ち主の一人は、死んだ息子の記憶を売った女だった。


彼女は立会人の前で、売ったことに後悔はあるが、契約は自分でしたと答えた。


俺に取り消してほしいとは頼んでいない、とも言った。


俺が正義の味方になれる話ではなかった。


別の一人は、読めない字の書類に印をつけた荷運びだった。


祭りの一日だけを売るつもりが、同じ屋台を開いた五年分まで範囲に入っていた。


彼は家業の顔馴染みを失い、客を追い返してしまっていた。


「返ってきますか」


彼に聞かれ、俺は返せないものもあると答えた。


以前なら、努力します、と曖昧にしただろう。


男は俺の答えを聞いて机を殴り、立会人に止められた。


怒りが正しいからといって、俺にとって痛くなくなるわけではなかった。


賠償は、記録院と質店と署名者の間で分担された。


俺の検査報酬は全額没収され、さらに将来の給金から差し引かれた。


見習いの資格も一年止まった。


村への返済と重なり、俺は朝に市場の荷運びを始めた。


たまに、転生した意味はあったのかと思った。


前世の俺なら、それをやめる理由にした。


今の俺は思いながら、荷を持った。


人格が変わったというより、逃げても残るものの量が分かってきただけだった。



春、母から手紙が届いた。


セラ・ベルナについて調べた結果だった。


母の両親の家には、娘が二人生まれたという産屋の記録があった。


二人目の名がセラ。


母より二つ年下で、灯台の保守員になり、しばらく俺たちの家で暮らしていた。


父の古い帳面には、五人分の冬靴を買った支払いがあった。


俺が一歳の頃だった。


『思い出せません。

知れば戻ると思っていました。

名前を口にすると懐かしい気はします。

でも、その懐かしさが本物なのか、懐かしく思いたいだけなのか分かりません』


母の字は、最後へ行くほど行から外れていた。


『椅子の裏は、私が彫ったそうです。

父の記録に、妹の椅子を区別するため、とありました。

あの子は左の足を傷めていて、低い椅子がよかったようです。

あなたの父が削りました。

私たちはそれを、修理するところでした』


俺は手紙を読み返した。


人を忘れると、その人に合わせて変えた世界まで、間違ったものに見えてしまう。


最後に、俺の失敗をオルネから聞いたとあった。


怒っている、という言葉はなかった。


『帰りたくなったら帰ってきていい。

でも、帰ることと、済ませることを一緒にしないでね』


俺は手紙を閉じ、荷運びへ行った。



エルナとは、必要な仕事の話だけをする時期が続いた。


廊下ですれ違うと互いに半身になり、夕食の塩が遠ければ頼む。


その距離は、喧嘩より長く続いた。


俺は許してもらえる日を数えかけ、途中でやめた。


彼女が何日で許すべきか、俺が決める筋合いはなかった。


ある晩、ロイが工房の外へ出てしまった。


春の雨が降っていた。


若い頃の職場へ行かなければと言い、裸足で階段を下りたらしい。


エルナが追いかけ、俺は外套を持って後を追った。


ロイは記録院の閉じた門の前にいた。


守衛が困っていた。


俺が近づくと、彼は申し訳なさそうに笑った。


「遅刻したんです。

娘が熱を出して」


エルナは門の横に立っていた。


雨が睫毛に溜まっていた。


「今日は休んでいいって。

伝言を預かってきたの」


彼女は言った。


ロイは信じたが、帰り道が分からなかった。


俺は外套を肩に掛け、工房まで付き添った。


帰ってから、エルナは父の足を拭いた。


俺は湯を運んだ。


ロイは何度も礼を言い、俺の名を何度も聞いた。


エルナが眠るまで隣にいると言うので、俺は濡れた外套を干した。


夜更け、彼女が台所へ来た。


「ありがとう」


俺は胸が軽くなり、その軽さに用心した。


「今日の分だけ?」


言ってから、余計なことを聞いたと思った。


エルナは俺を見た。


「今日の分」


俺は頷いた。


その範囲なら、受け取れた。

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