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忘れ潮の灯台守  作者: Tpump6957
山の底の波音
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波が入らない戸

波音は、少し待つと消えた。


俺は耳を石へ近づけ、エルナに外套を引かれた。聞こえるものへ顔から寄っていくのは、魔法のある世界で長生きする方法として、あまり感心できない癖だった。


「触ってない」


「そういう言い方をする時が危ない」


彼女は怒っていなかった。自分も聞きたい顔で、俺の少し後ろへ耳を寄せた。


ダナが外の空気の通り方を確かめた。石の継ぎ目から風は出ていない。床も乾いたままだ。波の重さは来ず、音だけが時々届いている。


正面の石へ触れる前に、俺たちは横の細い溝を調べた。


途中で金属の板が外れ、土の下に残っていた。板の大きさは掌ほどで、片側に三本の斜線がある。俺が刻みの通りに置くと、溝の深い方が端で行き止まった。


返して置くと、繋がった。


「逆だ」


俺は指を浮かせた。


「今の刻みと、読む向きが逆になってる」


エルナは紙の上へ矢印を二つ描いた。分かったつもりでどちらかを消さず、古い方へ石の番号を添えた。


ここで三枚のうち一枚を使った。


人へ繋がる口は外れたままにし、細い線の終わりに空の表示帯を置く。持ってきた小さな試験具で、短い一動作だけを通した。片の乳白色の筋が端から透け、最後まで消えた。帯の隅に細い線が現れた。


石の向こうで、かすかな鈴が鳴った。


俺はすぐに止め目を閉じた。


「遠くへ繋がってる」


エルナは表示帯を見た。そこに人の体験は残っていない。いま通った短い動きの形だけだった。


大きい溝は、何かを一度受けて渡すために、途中で広がっていた。細い溝は、その脇からあとで付け足されている。石の削り方も、埋めた金属も違った。


一つの装置だと思って覗くと、読めない。


何度も別の目的を重ねたものとして見ると、どこが先にあったか分かり始めた。


エルナは泥に埋まった銅板を、無理に引かなかった。周りを少しずつ落とし、板が曲がらないよう布を差し込んだ。そこには池から別の場所へ伸びる道が描かれていた。今の地図の方角とは違い、中央を海にして周囲へ岸を並べている。


北東の一つに、レンネルの古い綴りがあった。


ダナが紙の角を押さえた。俺は港の注文書で見た名を、古い銅の上でもう一度読んだ。


「山へ登る水路じゃない。岸と岸の間を縮めて、同じ水位の池へ着く」


エルナは、舟の絵の横の説明をゆっくり読んだ。


「使わない時は、池の水を沢へ落とす。だから、その下に大きい排水がある」


俺たちは足元を見た。


海の水を山の高さへ永遠に支えていたのではない。道が繋がる間だけ、向こうの岸とこの池が近くなる。切ったあとに残った水は、谷を流れて下りる。そのための溝が、いまは人の歩く棚になっていた。


どれほどの記憶を使って道を近づけたのかは、この池だけでは分からなかった。だが、そこへ舟を入れた人の足跡は、想像できた。舟が擦らないよう手を伸ばす者。水が抜けるまで上で待つ者。高い方から荷を呼ぶ者。


池の隅に、削り直した文字があった。


『帰る者の名を、着く前に消してはならない』


見覚えのある言葉だった。


ただし、ここでは二文字分が深く削り取られ、その上へ別の字が刻まれていた。初めは違う書き方をし、石工が直したらしい。壁の下に、使いかけの練習石まで残っていた。


祈りのように読んだ言葉の下へ、仕事でしくじった誰かの手が見えた。


その脇に小さく、アデル、とあった。


ダナは奥の足場が先へ続くのを見つけたが、そこで引き返すことにした。正面の石がどこへ繋がるか知らないまま、人の通り道まで起こす気にはなれなかった。


帰り、俺は一度だけ振り返った。


また波の音がした。


古い池は空だった。音の向こうに、今の海がある。そのことが怖いのと同じくらい、見に行きたかった。


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