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忘れ潮の灯台守  作者: Tpump6957
山の底の波音
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兎の耳の下

兎は、近づくとあまり可愛くなかった。


耳に見えていた二本の岩は、片方が途中で欠け、もう片方には黒い水が伝っていた。谷から眺めている時には揃っていたはずの先端が、近くでは随分違う向きに伸びている。世の中には距離のおかげでよく見えるものがある。俺の故郷も、俺の評判も、たぶんそれに近かった。


ダナは岩の下へ杖を差した。


水音がした。山の雪はほぼ消え、泥の下を流れる水だけが冷たかった。


「足を置くのは、この乾いた筋。上に草があっても、向こうは空いている」


サダから教わった高い道を、俺たちはゆっくり登っていた。エイムが荷を一つ担いでついて来ていたが、奥の調査まで頼んではいなかった。


「ここへ下ろす。帰りにまた担ぐなら、二回だ」


彼は岩の下で、袋を丁寧に置いた。


「半分しか登ってないのに」


俺が言うと、彼は後ろの長い坂を指した。


「じゃあ半分を二度やってみろ。俺は見てる」


袋の底には、修繕具と、用途を確かめて買った試験用の片が三枚あった。刻線へ短い動きを通すものが二つ、金具の力を一度逃がすためのものが一つ。いずれもこの調査で使う分だけを選んでいた。


カザの細い先端は返した。代わりに、同じ型を一本買った。値段を聞いて黙った時間まで、彼女には楽しそうに数えられた。


入口に、長い石の窪みがあった。


先に運び出された石枠が載っていた場所だ。土の色がそこだけ薄く、枠に覆われていた小さな文字が残っている。エルナは膝をつき、柔らかい刷毛で砂を払った。


「受ける、じゃない」


彼女は眉を寄せた。


「帰りを……合わせる。字の形が、今と違う」


窪みの横に四つの穴があった。俺は村から持ってきた実寸の薄板を当てた。三つがぴたりと合い、欠けた一つの中心も同じ位置に来た。


穴の下には、太い溝が続いていた。


谷の沢へ下る向きではなく、山の奥へ入っている。俺は油灯を近づけ、壁に並ぶ擦り傷を見た。同じ高さに、何度も何かが当たった痕があった。


ダナが杖で床を確かめ、先に入った。


奥には、浅い池の跡があった。


今は泥と枯れ葉しかない。縁に石の棚があり、棚から下へ梯子の穴が続いている。壁の鉄環は、谷で見たものと同じ高さだった。


エルナが俺の腕を引いた。


「ここ」


壁の低い所に、舟の絵があった。


飾りのような線ではなかった。船底の深さと、ここへ入れる長さを示すため、前後に目盛りが刻んである。その先に、人の足が並んでいた。舟から石段へ上がる足。石段の終わりで、名を記す小さな板。


俺は壁へ近づいた。


山に舟を運び上げたのだろうか。


いや、石の上に引きずった傷はない。水を溜めてから舟が入り、水を抜いたら底が露出する。そんな順序を、この場所の高さが教えていた。


池の端には二重の溝があった。一方が大きく、もう一方は細い。大きい方にだけ、何度も取り替えた金具の穴が連なっていた。


「どこから水を持ってきたんだろう」


俺が言うと、ダナは天井ではなく奥を見た。


「持ってきたのは、水だけか?」


池の正面に、今は閉じた平たい石の面があった。戸の形ではない。周囲だけに細かな刻みがある。


その向こうから、波の砕ける音がした。


一度、二度。


エルナが息を止めた。俺も動かなかった。水音は沢の速い流れと違い、膨らみ、崩れ、砂を引くように遠ざかった。


灯りが、壁の鉄環の内側を橙色に照らしていた。


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