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忘れ潮の灯台守  作者: Tpump6957
山の底の波音
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135/196

削らなかった穴

灯台の古い金具は、外してみると、思っていたより不格好だった。


壁へ向いていた側にだけ、刃の痕が深く残っている。俺はこれまで、取り付けたあとから無理に削ったのだと思っていた。だが、窓の明かりへ翳すと、古い傷の底には黒い錆があり、その上を新しい穴の縁が断ち切っていた。


作った順序が、俺の思っていたのと逆だった。


「うちの方が、後から合わせたんだ」


俺が言うと、エルナは紙の上下を替えた。


山で写した四穴の間隔。村の最初の金具。その脇へ取り付けられた、別の塔から来た替えの品。少しずつ違う線が、明るい紙の上で重なった。


どれも正しい寸法で作られたものを、誰かが別の場所へ合わせていた。


「最初に見た時、削らなくてよかった」


エルナが言った。


「あの時は、削って失敗したら代わりを買えないと思った」


「立派な判断」


「もっと褒める言い方があるだろう」


彼女は俺の頬についた煤を指で払った。金具の裏より自分の顔の方が汚いことに、その時初めて気づいた。


外では晩春の風が吹いていた。


海へ出る小舟が、湾の口を曲がっていく。四年ほど前まで畑の先に水などなかった、と自分に言い聞かせても、いまは波のない景色の方が想像しにくかった。戻った水の向こうで、知らない人間が昼の食事を取っている。


俺は山の受け所を調べることにした。


その先に何があるかは分からない。だが、部材を買っているレンネルの港なら、山から来た物の用途が分かるかもしれなかった。自分の二つの受理を知るために必要なのも、古い入口と、それへ繋がっていた道だった。


旅費の一部には、イェトが金を出した。


港から来た追加の保守具の注文があり、取り付ける相手の寸法を俺が調べる約束になった。道具の仕事と、自分の出生の調査は、同じ鞄で運べても同じ請求にはできない。俺は仕事の日と自分の都合の日を分けて見積り、思ったより少ない残額へしばらく黙った。


「何か言いたい顔ね」


エルナが見積りを覗いた。


「知りたいことが多い人間は、割引にしてほしい」


「私、修復する紙が多い人から、余分に貰ってる」


実に厳しい世界だった。


エルナも同行すると決めた。山の紙と石の扱いを、自分の仕事として記録する。分かった建設の経緯は、個人の受理とは分け、関係した人に見せてから発表したいと言った。


父ロイの家には、いつもの手当の手伝いへ加えて、夕方に来てもらう人を頼んだ。エルナは出発前に、父と木の鳥を卓へ置いて遊んだ。鳥が首を伸ばすたび、ロイは同じように目を上げた。三度目には紐から手を離し、眠そうに窓を見た。


エルナは鳥をしまわず、日が当たりすぎない所へ移した。


灯台の代番は、五週間分を先に決めた。それを超えそうなら途中で便を出す。ジナは俺が戻る日に限って用事を作ってやると言った。父は、留守の間に梯子を替えるので金を置いていけと言った。


旅立つ男へ、もっと夢のある話をしてもよかったと思う。


出発の日、セラは椅子から立ち、外套の裾を俺へ渡した。下の留めを掛け忘れていたのだ。


「海の方へ行くなら、滑る所で格好をつけない」


「叔母さんには言われたくないな」


彼女は笑った。左脚をかばいながら、それでも自分で戸まで送ってくれた。


俺は振り返った。


セラはまだそこにいた。母は台所の窓から、父は薪の向こうから手を上げた。エルナが少し先で待っていたので、俺は靴の紐を確かめてから追いかけた。


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