残した線
石枠は、その日のうちには下りなかった。
元締めは怒り、荷を押していた者たちは冷え、町から来た男は昼飯の場所を気にした。俺も気にした。危険が去ると腹が鳴るのは、勇敢さに欠けるようでいて、案外便利な仕組みだった。
サダは籠を売りに行き、帰りに硬いパンを買ってきた。全員に一切れずつ配り、元締めの分も置いた。彼は食べなかった。俺はもったいないと思ったが、貰うには立場が悪かった。
午後、荷場の持分を持つ二人が、追加の材を入れることを決めた。
元締めは現場の指示から外れ、使った金と残った材を調べられることになった。荷の売買は残った。石枠を欲しがる港も、運ぶ仕事が要る人間も、その場から消えなかったからだ。
俺たちは巻き胴の継ぎ手を戻した。
荷が進む前に、人の道へ覆いを掛け、落ちる小石を受けた。上の線を広げるための材は、いったん遠回りで運んだ。春の高い道は沢と別に残す。図の上のサダの家は、空白には戻らなかった。
その仕事には、何日もかかった。
ダナは自分の印のある古図と、当時どこで何を聞いたかを書いた紙を、住人と町の保管役へ渡した。昔の命令を出した者や、火を使うことを決めた者の記録も辿れるよう、知っている部署を示した。彼女の話だけで全員の責任が決まることはなかったが、本人が運んだ報告の部分は、曖昧にはしなかった。
サダはそれを受け取った。礼は言わなかった。
代わりに、直った鍋へ水を入れて外に置いた。
「明日の朝、減ってなければ払う」
俺は翌朝、彼女より早く見に行った。氷の厚さが邪魔で分かりにくく、縁へ印をつけておけばよかったと後悔した。
エイムの屋根には、二人で板を載せた。
給金の代わりに慈善で与えたものではない。彼は新しい道の杭打ちを受け、板はその賃の一部として買った。俺は運ぶのを手伝う代わりに昼食を頼んだ。
「先に言っとく。料理は下手だ」
彼は胸を張って言った。
実際、芋は鍋の中で大小の差別を受けていた。小さいものは崩れ、大きいものは芯が硬い。俺が鍋をかき混ぜると、彼は昔もそういう男だったらしいと言った。
「誰に聞いたの」
「ダナ。煮えたやつから食って、残りを仲間へ渡してたって」
「嫌なやつだね」
「今の鍋、あんたの大きいやつが先に入ってる」
俺は静かに匙を戻した。
サダには、自分が知っている範囲を別に書いて渡したという。東の縄番だったこと、出入りを止める役を受けたこと、桶を投げた場面を今は思い出せないこと。
「読んで、机へ置かれた」
「うん」
「それだけだった」
エイムは火をかき混ぜた。
「今度、籠を上まで運ぶ。賃は取る。余計な話をすると、仕事までなくなりそうだからな」
窓から、屋根の新しい板の端が見えた。彼は何度もそこを見上げた。前の部隊へ戻るつもりはないと、食べ終わった芋の皮を見ながら言った。
雪がまた一度降った。
新しい通り道の手綱には白い筋が積もり、サダは自分でそれを払った。ダナが手伝いに行くと、半分を任された。二人は並んでいても、あまり話さなかった。
帰り際、サダは俺へ古い板を見せた。
祖父が水路の穴へ栓をする時に使っていたものだという。板の裏には、受け所までの歩数と、二つの曲がり角が刃物で刻まれていた。字の横に、大きな耳を持つ兎の絵があった。
「迷ったら兎を見る、と言ってた。どれのことかは知らない」
「上へ続いてるんだね」
「雪が消えたら、自分で見れば。今度の荷は入口に積んであった石だけ。奥はまだ残ってる」
俺は板へ薄紙を当てた。
ダナは横で、雪解けの沢がどこまで上がるかを聞いていた。サダは指を伸ばし、別の高い道を教えた。その指が示す先を、俺たちは同じ場所から見上げた。




