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忘れ潮の灯台守  作者: Tpump6957
覚えている道
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知らない男の癖

町へ戻る道で、エイムは俺の歩幅に合わせた。


合わせるために余計な一歩を入れるので、橇がときどき踵へ当たった。苛立つたび、彼は橇を悪く言った。作った職人を悪く言い、最後には雪の薄さを悪く言った。自分の歩き方だけは、なかなか候補に上がらなかった。


その分かりやすさに、少し気が緩んだ。


「軍にいた時の記憶を、全部?」


俺が聞くと、彼は首を振った。


「全部出したら、靴の手入れも覚え直しか。面倒だな」


彼は笑おうとして、笑わなかった。


徴取されたのは、いくつかの区間を行軍し、部隊の帰着を確かめた体験だった。退役の手当と同じ席で片を取り、署名のあとに食事が出たことは覚えている。腹が減っていて、煮肉の脂を最後まで掬ったことも。


その前後は、ところどころ道が切れていた。


「行ったのは分かる。靴が一足駄目になった。仲間の名も、顔も、大抵分かる。でも、あそこの家の話をされると、煙の匂いが出ない」


エイムは鼻の下へ指を当てた。


「今だって、煙なら分かるんだ」


前を行くダナの歩みが遅くなった。エイムは彼女へ追いつく前に、声を落とした。


「あの人、俺がどんな顔してたかも覚えてるかね」


「分からない」


「聞きゃ分かる。でも、聞いて、笑ってたって言われたらどうする」


俺には、うまい返事がなかった。


エイムは俺の顔を見て、少し肩をすくめた。


「あんたも、ない所がある?」


「ある」


「じゃあ、まあ」


続きは出てこなかった。だが、その中途半端な言葉のあとで、彼の歩幅は少し普通になった。


町の口で荷の検めが始まっていた。軍道用の綱を結んだ男たちが、古い歯車や石枠を積み直している。指揮していた元締めは、頬に細い傷があり、上等な革手袋の片方を帯へ挟んでいた。


ダナが図を見せろと言うと、彼はすぐに出した。初めから隠す気がなかったのが、俺にはかえって嫌だった。


「あの家を越せば、下は一直線だ。春の緩む前に上を片づけたい。石枠が重いから、曲がりを二つ削る」


「湧水への道は」


「荷のない時に使える」


「人は荷のない時だけ水を飲むのか」


元締めはダナの顔を見た。


「文句を拾う仕事なら、先に言ってくれ。俺は道を通す人間を頼んだ」


ダナは図を返さず、平たい所へ広げた。沢側の線を爪で押さえた。


「この幅は実地で取っていない。外へ一人逃げると落ちる」


「荷役人を立てる」


「一日中か」


「その賃を誰が出す」


声が重なる前に、エイムが縄の束を置いた。


「まだ受けた印は押してねえ。俺の賃に入れるなよ」


元締めは彼を睨んだ。エイムは目を逸らしたが、束を肩へ戻した。


俺は荷台に載った部材を見た。黒くなった金属の枠に、四つの穴があった。すぐに鞄の紙を出したくなった。しかし、ここで自分の知りたいことへ飛びつけば、ダナたちの話を置き去りにする。


迷っていると、元締めが俺の目を追った。


「刻線の人か。あれを読めるなら、別に頼みたい仕事がある」


報酬の話が続いた。


俺は最後まで聞いてしまった。しかも、なかなかよい額だった。こういう場で金額だけは正確に覚えられる自分の能力を、誰かが買ってくれればいいのにと思った。


「道を見てから、返事をします」


やっとそう言うと、元締めは笑みを薄くした。


「二人揃って同じことを言う」


その言い方が、少し嬉しかった。


嬉しかったことをダナへ知られたら、いまの彼女には重いだろうと思い、俺は鞄の口を閉めた。


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