燃え残った床
サダは俺たちへ茶を出さなかった。
代わりに、桶から引き上げた枝束の端を持てと言った。水を吸った枝は見た目よりずっと重く、捻れて逃げようとした。俺の袖へぬるい水が流れ込み、肘を伝って腰まで濡らした。
「回して。そっちへ」
「そっちは、僕から見て?」
「水が落ちる方」
実に分かりやすい指示だった。俺は自分が濡れる側を避けようとして、かえって二倍濡れた。
枝は熱い湯で曲げ、冷たい水で締める。春に使う苗籠を今から作っておかないと、畑の人間が同じ週に買いに来て、皆が今日中にできないかと言うらしい。
「皆、自分の苗だけは待てないのよ」
サダは束を棚へ載せた。
家から細い踏み道が三方へ出ていた。町への石段、上の湧水、沢を越えた畑。再開する軍道は斜面を横に切り、そのうち後の二つを断つ。道の下へ新しい荷場を作るため、沢側の狭い渡りも外す予定だという。
代わりの通路は、図の上では軍道に沿っていた。荷車一台に会うたび、人が待避する幅は描かれていなかった。水桶を持つ女や、苗を背負う老人には長い遠回りになる。
ダナは窓から斜面を見た。
「図は見せられたか」
「向こうの指で隠れた所が、うちだった」
サダが棚の下から丸めた紙を出した。購入予定の土地と、従来の通り道が違う色で描かれていた。端には北東岸レンネルへの塔部材輸送とあり、買付の責任者としてラウゼンという名が記されていた。
俺はその名を知らなかった。海沿いの仕事が、なぜ山の奥の古い部材を欲しがるのかは気になったが、今はその紙の真ん中にある台所の方が近かった。
サダは話を終えると、俺たちを家の裏へ連れていった。
新しい建物の十歩ほど先に、苔のついた低い石の列があった。雪を払うと、途中だけ黒く焦げた床板が見えた。そこが前の家の土間と居間の境目だった。
「母は、この隅に寝てた。移すのに人を呼んで、戸板を借りた。そうしてる間に、上から来た」
サダは低い方の石を指した。
「家を明ければ、道ができたら戻せると聞いてた。燃やすとは聞いてなかった」
ダナが膝を曲げた。石の高さと、斜面の上の軍道を見比べていた。
「私は、ここを退いたあとで材を除くと聞いた。火を使うと知ったのは、その後だった」
「じゃあ、驚いた?」
「ああ」
「そこで止めた?」
風が家の裏へ回った。雪の粉が石の上を細く流れた。
「止めなかった」
ダナは答えた。
「通れるという報告を渡して、次の区間へ行った。戻った時には焼けていた。あの時の図に、私の印がある」
サダは彼女を長く見てから、足を返した。
「母はここを出た。弟も。私はこの水が要るから戻った。それだけ」
母親は数年前に亡くなり、弟は南で桶を作っているという。その話をする時の彼女の声には、少し速くなる所と、途切れる所があった。俺はその差を、勝手に一つの物語へまとめないよう黙って聞いた。
家の前へ戻ると、橇を引く男が立っていた。
毛皮の帽子を被り、口元だけに髭を残している。橇には縄と杭の束が載り、上へ一足の靴が裏返して括りつけてあった。男は俺たちへ愛想よく片手を上げたが、ダナを見て手が途中で止まった。
「測り手」
「エイム」
ダナが名を呼んだ。
男は帽子を取り、もう一度被った。耳を出すか隠すか決めかねたような、妙に長い動きだった。
「道、やるんだってな。俺にも来た。縄張りと荷の番で、冬場の三倍だ」
サダが束の縄を見た。
「あの時も、あんたは縄を持ってた」
エイムの愛想が引いた。
「そう書いてある」
「私は見た」
「うん」
男は鼻をこすった。指が赤く荒れていた。
「そこを、思い出せない」
サダは彼の横を通り、家へ入った。戸が閉じても、男は橇を引き直さなかった。靴底についた雪を、片方ずつ、いつまでも石へこすりつけていた。




