↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘れ潮の灯台守  作者: Tpump6957
冬を買う人々
PR
118/196

不機嫌な部屋

人が暖まると、声が大きくなった。


入ってきたばかりの人たちは、唇を結んで焚き口を見ていた。火のそばへ膝を寄せ、手を出し、息をつく。それから少し経つと、向こうの人が場所を取りすぎだとか、靴をそこへ干すと臭いだとか、実にさまざまな不満を言い始めた。


俺は柱にもたれて、それを聞いていた。


靴の臭いについては、双方に言い分があった。濡れたまま履くのは嫌だし、鼻の前で乾かされるのも嫌だ。最終的にはエッダが棒で床を叩き、靴を干す場所を戸の近くへ移させた。


フルナは俺の外套を膝に載せていた。


「ここ、言ったでしょう」


破れた襟を持ち上げる。


「言われました」


「新しい布は、傷む時も勢いがいい」


彼女は切れた糸を抜き、裏へ当て布を差した。たくさん縫えば丈夫になるというものでもないらしく、針を通す位置を少しずつ変えていた。


キナの腰には固い腫れができていた。歩けるが、しばらく重い荷は背負うなと、町の手当てのできる男に言われた。彼女はその男の荷物を見て、帰りに持とうかと聞いた。誰にも笑ってもらえず、鼻を鳴らした。


子供は眠っていた。火が十分に回ると帽子を取り、湿った髪を母親の膝へ押しつけた。俺が見ていると、母親は小さく頭を下げた。それにどう返すか迷っているうちに、子供が寝言で何かを欲しがり、彼女の注意はそちらへ移った。


部屋へ集まったのは、俺を見に来た人たちではなかった。


そのことが、今夜は有り難かった。


俺の指には、麻の圧を思い出そうとする動きだけが残っていた。左の小指を曲げ、掌の横を親指で押す。春にはここが、こんなふうに締まったはずだ。


いや、こんなふう、の中身がない。


指を押せば、今押した感触がする。それが春の感触を追い出しているのか、そこへ新しく置かれただけなのか、区別しようとしても分からなかった。


エルナが隣へ座った。俺が指を動かしているのに気づき、膝へ置いていた自分の手を少し寄せた。


「どの場面を使ったの」


「ジナと窓を直した日。春の。新しい紐に替えた時、僕が板を支えてた」


「あの日は、帰りが遅かったね」


「ずっと、もう少しって言ってたから」


エルナはうっすら笑った。


ジナが笑ったことも、父が根菜を食べたことも覚えていた。古い紐を捨てず、刷毛を掛ける輪にした。給金を追加で払った。覚えていることを一つずつ確かめると、午後は確かに俺のものとして残っていた。


その中で、窓の留めだけが鳴らなかった。


俺は留めを閉じたところを思い浮かべた。ジナの手、板、明るい窓枠。そこで何かを待ってしまう。二つ重なった音があった。そう書くことならできる。耳の奥には、火が薪の割れ目をなめる音しかなかった。


「音も」


俺は言った。


エルナはうなずき、何があった音かを聞いた。俺が説明すると、分かったと言って、その先は尋ねなかった。


彼女の手が俺の指へ触れた。


触れられたところは温かかった。俺はそれを握り返した。さっきから確かめ続けていた小指の曲がり方を、ようやく気にせずに済んだ。


*


吹雪は二晩続いた。


二日目には、宿が自分の倉へ薪を運び終え、余分を買う人も直接来るようになった。ヨレスを通さず取りに来た宿の女将たちは、互いに量を確かめてから持ち帰った。倉番は入口に座り、次にどの荷を出すかを持ち主へ聞いていた。


ヨレスは自分の分の薪を売り始めた。


前日より値が下がっていた。それでも人々はすぐには近づかなかった。乾燥室に暖房があり、取引を急がなくても今夜はしのげる。市の取引卓は、六つから二つへ減った。


戸を落とした件は、その場にいた運び手とエッダが町の見回り役へ話した。ヨレスは庭の鍵を返したまま、市が閉じるまで倉の荷出しを指示できなくなった。俺は聞かれたことへ答え、あの男の説明を延々と聞く席には座らなかった。座ると、きっと途中で立ち上がってしまう。


代わりに、俺は乾燥室の壊れた戸の脇へ仮の板を打った。割れた上枠は、工房から来た二人が直してくれた。俺の保持具を見た一人が「透明になるまで使ったか」と言い、それから何も聞かなかった。


エルナは給金を取りに行った。


戻ってきた時、彼女は少し怒っていた。修復した帳面の三冊目が、途中だと言われたらしい。


「途中だったのは、中身の確認。背は直した」


彼女は鼻を赤くして言った。


「それで?」


「背を開いて見せようかって聞いたら、払った」


俺は彼女の指先を見た。寒さで細かく割れ、糊の跡が白く残っていた。その手で、せっかく直した背を開くと脅したのかと思うと、ヨレスより自分の帳面を心配したくなった。


彼女は北の取引所への紹介を失った。


俺は残りの市で得るはずだった給金を失った。


その日の午後、二人で宿の窓の立て付けを直し、夜は俺が乾燥室の火の番をした。エルナは帳面へ火の番の時間などを書き込まず、裏返した荷札の余白で、歪んだ鳥の絵を描いていた。


それを見たフルナが、何の鳥かと聞いた。


「珍しい鳥」と彼女は答えた。


俺は笑った。エルナが少しだけ、得意そうな顔をした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。