戸を開ける
「薪を戻せば、こちらの荷を通します」
ヨレスは俺を見て言った。
彼が示した先には、冬市の売り手を連れた係が立っていた。広間の待ち場所から出され、泊まれる所を探している人たちだった。昨日見た、耳まで帽子を下げた子供もいる。
俺は、一瞬言葉が分からなかった。
薪を運び込めば部屋が暖まる。その部屋へ人が来る。どこで、戻すという話になるのか。
ヨレスは表情を変えなかった。
「市は、こちらの荷場を使う契約です。宿の荷を優先しろとは言っていません」
「市の荷なら、いつ来る」
キナが聞いた。
「順に」
彼女は短く笑った。
その笑い方で、俺は彼女が本気で怒ったと分かった。キナは橇の前綱を腰へ回し、運び手に合図した。
「いま通す。あと三つ」
ヨレスの横の男が前へ出た。キナは足を止めなかったが、男も退かなかった。
俺は二人の間へ入った。胸の辺りに手が当たり、新しい外套が握られた。
「押すな」
俺が言うと、男はもっと強く布を掴んだ。
こんな所で殴られたらどうしよう、と思った。鼻は冷えて感覚が薄いが、折れればきっと痛い。誰かが見ているから勇敢になれるなどということもなかった。見られている分、みっともなく後退できず、余計に困る。
「その人に給金を払ってるのは誰ですか」
エルナの声がした。
彼女は子供たちの側から歩いてきた。男へではなく、ヨレスへ聞いた。
「運び出しの妨害まで、頼んだんですか」
「通路を空けてもらっているだけです」
「なら、手を離して」
エルナは男の指を見た。男はヨレスの顔を確かめた。返事がないので、ゆっくり俺の外套を放した。
俺は息を吐いた。襟の内側で、切れかけていた糸が一本、頬へ触れた。
その時、風が向きを変えた。
裏庭の入口から雪が渦を巻いて入り、積み荷の覆いが一斉に膨らんだ。子供が顔を背け、母親の脚へしがみついた。エッダが奥の戸を開けて呼んだ。
「人を先に入れて。薪は壁へ寄せる」
キナが橇の鼻を振った。狭い通路で人と荷を入れ替える。その一瞬、風除け戸の下が塞がった。
ヨレスは戸の脇の男へ手を上げた。
「下ろしてください。風が入る」
「まだ人がいる!」
俺は叫んだ。
男の手が止まった。だが、反対側の鎖を持っていた別の男には聞こえなかった。留め爪が一つ外れる音がした。
厚い戸が斜めに落ちた。
キナが子供の母親を押した。子供はエルナが抱えていた。戸の下端が六つ目の橇へ食い込み、薪がはじけたように崩れた。
止まった、と思った。
次の風が上から戸を叩いた。
反対側で残っていた爪へ重さが偏った。軸が木枠を割り、戸の片端が外へずれた。鉄の滑車が頭上で跳ね、壁に当たって甲高く鳴った。
キナが膝をついた。
橇の綱を腰へ回したままだった。荷が斜めに押され、綱が彼女を戸の下へ引いていた。手袋の指が結び目へかかったが、体重の乗った縄は緩まない。
俺は保持具を握り、残った片を起こした。
白い筋が細く光るように見え、それから消えた。戸がわずかに止まった。柄の中が透明になる。
「切る!」
エッダが刃物を持って寄った。
「縄は、こっちを!」
キナが足元を指した。別の縄を切れば、後ろの荷が人の方へ滑る。
エッダが刃を当てた。凍った繊維は硬く、何度も引かなくては切れない。俺の掌で、保持具の震えが途切れた。
戸がまた動いた。
俺は体重をかけて柄を持ち上げた。二十二歳の男一人が、重い板戸と積み荷へ逆らう。自分の限界は、試すまでもなく腕に来た。
「ノア、退いて!」
エルナが叫んだ。
退けば、キナの腰が下へ引かれる。
保持具の個人用の口へ、俺は手袋を抜いた指を置いた。




