火の置き場所
夕方、俺は検査を終えた分の給金を受け取った。
硬貨は思っていたより重かった。指先で袋の底を持ち上げると、昨日までなら嬉しかった重さが、掌の中で行き場を失った。
広間の外へ出ると、列は短くなっていた。
人が減ったのではなく、皆が肩を寄せ、間を詰めていた。小さな息が幾つも重なって、庇の下を白く曇らせている。子供を連れた女が、寝かせる場所はないのかと係へ聞いていた。子供の帽子は耳まで下がり、鼻水だけが光っていた。
今夜は市の内側へ入れない。取引前の人と客を一緒にすると、売る範囲をその場で勧める者が出る、と係は答えた。それを防ぐための仕切りは確かに要るのだろう。だが、戸は暖かな空気も一緒に止めていた。
路地の奥で、煙が横へ流れた。
エッダの仕事場だった。俺は彼女の小屋へ入ったことはなかったが、キナから場所を聞いていた。布を洗い、湯を使って形を整え、干す仕事をしている女だという。
戸を叩くと、内側から「引く」と声がした。
俺はすでに押していた。引き直したところで、湯気が顔を包んだ。
エッダは太い棒で布を持ち上げていた。湯が床の溝へ落ち、白い布が重みで細く伸びる。広い肩を一度回すと、彼女はそれを横木へ掛けた。
「入ったんなら閉めて。湯が冷める」
俺は戸を閉めた。
梁には細長い布が何枚も吊られ、背の高い棚へ順に張られていた。棚の一つが傾いている。窓の雨戸は片方だけ新しい留めを付けていたが、肝心の板が反って隙間を残していた。
薪は壁から離して積んであった。床の湿りを吸わないよう、下には短い材が噛ませてある。
「薪を買いたいんです」
俺が言うと、エッダは露骨に顔をしかめた。
「ここ、薪屋に見える?」
「見えないです」
「いい目だね」
帰ってほしい、という意味は十分伝わった。それでも俺は、売り手の列と子供のことを話した。エッダは布の皺を伸ばしながら聞いていた。目の前の小さな皺の方が、俺の話より大事そうだった。
「その子たち、ここへ入れるつもり?」
「入れられる所があれば」
「この棚に触らせたら、一人ずつ追い出すよ」
彼女は棒を置き、奥の戸を開けた。
続きの部屋は、思ったより広かった。昔使っていた乾燥室だという。今は荷籠と外した棚が壁へ寄せられている。中央には低い鉄の焚き口があり、煙の通る管が石壁へ伸びていた。乾かす布を掛けていないせいで、天井が高く感じられた。
「秋にはここも使う。煙道は先月掃いた。火を入れるなら、まず籠を動かす」
「使っていいんですか」
「雨戸、二枚とも見た?」
俺は見たと答えた。
「春に直して。あの斜めの棚も。私が腰を曲げずに使える高さで。これで薪を三束出す」
俺はつい、三束、と聞き返した。
エッダは口を閉じた。振り返った顔を見て、俺はすぐうなずいた。
「やります。雪が解けたら」
「直す人間がいない間、窓は勝手に直らないからね」
彼女は棚の脚へ靴を当てた。少し動かしただけで、上の横木が大きく揺れた。
俺は材の向きと、雨戸の反った箇所を見た。春に必要な道具が頭に浮かんだ。それを考えると、数か月先まで自分の身体がこの町へ結び付けられたような気がした。
部屋の外は、薪倉へ向かう東の裏庭に続いていた。低い通路の端に重い風除け戸があり、市の荷運びもその庭を使っている。エッダはヨレスへ冬の間だけ庭の一部を貸しているが、奥の乾燥室まで明け渡した覚えはないと言った。
「こっちの戸から入れる。表は布の出し入れに使うから、塞がないで」
俺は通路を歩き、戸の滑車と上枠を見た。古いが、普段通り動いている。風の強い時には下ろす厚い板戸で、上げた状態を留める爪も二つあった。
乾燥室へ戻り、炉も調べた。煙道を受ける金具の片側だけが、古い差込みの中へ沈んでいた。管を無理に外すと継ぎ目の詰め物が崩れる。俺は小さな保持具を出し、管を支えたまま金具だけを上げる線を刻んだ。
持ってきた作業用の封片は二つだった。短く荷を支える体験を術用に買ったものを、一つ差し込む。爪を起こすと、柄の中の白い筋が端から細くなった。
「この隙間に、薄い方を」
エッダが鉄の詰め材を渡した。俺は片手でそれを押し込み、もう一枚を重ねた。筋が消え、透明になった片の向こうに、炉の赤錆が透けた。
術を切っても管は沈まなかった。俺は残る一片を箱の内側へ戻し、使い切った方は別の小袋へ入れた。エッダは煙道の継ぎ目を指で押し、何も落ちてこないのを見届けてから、焚き付けを運んできた。
俺が道具をしまう間に、エッダは三束の薪をまとめた。太い薪だけを寄越して、火をつけられずに困らせるような女ではなかった。細い焚き付けまで混ぜ、縄をきつく締めている。
俺は手を出した。
「それは置いて。先に籠」
結局その夜、俺は薪を一束も運ぶ前に、乾燥室から十五の籠と六枚の棚板を出した。
新しい外套を脱ぐ場所に困り、最後には空の籠へ押し込んだ。暖かい冬を買ったつもりが、汗をかく冬になっていた。




