手に残る仕事
採用された八本を揃えるのに、一週間余りかかった。エルナと靴を見に行ったのは、それを荷へ載せた翌日だった。
俺は相変わらず、靴の裏を見ても値段を当てられなかった。彼女は店の端から端まで歩き、坂の方へ爪先を向け、踵を何度も踏んだ。その間、俺は椅子へ座って待った。
待つ男の見本のように座っていたが、気持ちの中では、もう二足目で十分ではないかと思っていた。
六足目で、彼女が決めた。
「これ」
柔らかい茶色の靴だった。飾りは少なく、左の踵の縫い目が少し外へ逃がしてある。
俺が財布を出すと、彼女も自分の財布を出した。
「一緒に出す。先に言ったでしょう、自分で選びたいって」
「払う方も?」
「今回は」
俺は少しだけ見栄を持て余したが、机の上へ自分の分を置いた。全部払ってやったという物語は短くなった。その代わり、帰る道で、彼女は本当に歩きやすそうだった。
少し先まで行き、振り向いて俺を待った。
「どう?」
俺が聞くと、彼女はその場で小さく踵を回した。
「前の靴より、ずっといい」
「六足も試した成果ですね」
彼女は笑い、腕へ手を添えた。
大通りの端には、冬の職人便りが吊られていた。紙が風で鳴る。エルナの報告は載っていなかった。彼女はそちらを見たが、立ち止まらなかった。
フェルドとは、出発の前にもう一度会った。
工房の外で、戸の留め具を直していた。人の出入りが多い時間は疲れるので、朝の静かなうちにしているのだという。上着の袖をまくり、手首には細い布を巻いていた。
「眠れました?」
俺が聞くと、彼は、昨日は、と答えた。
「一昨日は駄目だった。隣が夜中に何か落としてな。目が覚めたら、またあの足場にいた」
道具を置く音は、もう平気そうだった。ただ、ときどき戸口へ顔を上げる。俺は、よくなったかどうかを一言で受け取りたがる自分の癖を、今日は使わずに済んだ。
エルナが、少し後ろで待っていた。
フェルドは彼女を見た。
「あの台の閉じ方は、他の工房にも知らせてくれ」
彼女はすぐに返事をしなかった。
「あなたの話は、入れない形で?」
「板の裏を見せれば分かるんだろ。あんたが見つけた印と、こいつが外した線。そこは見せろ。俺みたいなのが、また来るかもしれない」
エルナは頷いた。
「書いたものを、渡す前に持ってくる」
「来月でもいい。明日までに俺を説明するな」
彼女は、分かった、と答えた。
仕事を終えたフェルドは、腰の小袋を叩いた。新しく買った物だった。俺が見ていると、欲しいのかと聞かれた。
「少し」
「値切れなかった。あんたなら出来たか」
「僕は欲しい時、先に顔が買うので」
フェルドが笑った。
その声を、俺は昨日まで知らなかったような気がした。
山を下りる日、カザが荷場まで来た。
渡された包みには、細い金具が一本入っていた。先の丸い、紙を起こすための刃だった。エルナが驚くと、カザは代金を俺に請求すると言った。
「そこは贈り物では?」
俺が聞くと、彼女は首を振った。
「あんたが頼んだでしょう。勝ったら買うって」
そうだった。
欲しい物を聞いた男は、その答えまで覚えていなければならない。俺は財布を取り出した。エルナが横で、今度の分は受け取るね、と言った。
イェトは少し遅れて来た。
試用の保守具を俺の荷へ入れ、道具を持つ側を上にしろと言った。谷を下りるまでに留めを緩めてしまえば、試用の前に修理になる。
「村の者にも触らせろ。使いにくい所を、まとめて送れ」
「褒められた所も送っていいですか」
「紙が余ったらな」
彼は外套の中で指を開き、また握った。俺はその手を見てから、自分の手を出した。
イェトは、面倒そうな顔で握った。
握力は、思ったより強かった。
帰り道の途中から、風に海の匂いが混じり始めた。
山の湿った木の匂いに慣れた鼻には、魚の脂を焼いたような、濃い匂いだった。懐かしいと感じた途端、靴の中の足が重くなる。帰り着いた後の寝床を身体が先に想像したらしい。
村へ着く頃には、朝の水桶に薄い氷が張っていた。
灯台では、父が油の缶を運んでいた。俺の荷を見るなり、重そうだな、と言った。俺は代番の礼を伝え、残りの勤務の話をした。父は聞き終えると、缶を足元へ置いた。
「で、何を持って帰った」
俺は箱を開いた。
全部説明すると長くなる。だから、先端を外して見せた。柄を交換し、閉じた小窓を開けた。父は腕を組まず、黙って手を出してきた。
「持っていいか」
俺は渡した。
彼は道具を重くしたり軽くしたりするように、手の中で返した。俺とは違う位置へ親指を当てる。試作の時なら、ここを持って、とすぐ教えただろう。今はそのまま少し待った。
「面白いな」
父が言った。
俺は、もう一度言ってほしいと思った。
言わなかった。
午後には、トマが水車小屋から来た。
割れかけた金具を持ち、まだ頼んでいない、と念を押してから俺の道具を見た。噂を聞いて、どうせ自慢されるなら壊れた物を持っていく方がいいと思ったらしい。
「僕は、そんなに自慢したそうだった?」
「箱を開けた時から、何も聞いてないのに説明してる」
俺は口を閉じた。
トマは金具を差し出した。
「これは、直る?」
手に取ると、継ぎ目の片側が痩せていた。無理に狭い所へ戻すより、外して板から直した方がよい。
「これは普通に外す。道具は使わない」
「え、見たかったのに」
俺も見せたかったので、少し悲しかった。
翌日、灯台の上の窓へ、新しい留めを入れた。
枠は父が支えている。俺は手の入らない奥へ薄い金具を差し、灯台の修繕用に買ってある小片の残りを確かめた。使う部分の筋が、窓の冷たい光に白く浮く。
父が、もう少し上、と言った。
俺は先を上げた。
「そこ」
釘が入った。
止め目を閉じると、金具は動かずに残った。父が手を離した。窓板が、きちんと開いた角度に留まっている。
海から風が入った。
父は道具を見て、次に俺を見た。何か言いそうになったが、結局、俺の肩を一度叩き、下の道具を取ってくると階段へ向かった。
俺はその背を、窓越しの明るさの中で見送った。
二十一歳になって、父と作ったものが一つ増えた。
箱を閉じようとして、棚の脇に鞄があるのに気づいた。中には出生の二つの索引と、テムに聞いて書いた必要な物の控えが入っている。これから確かめることは、少なくなかった。
窓の外で、エルナが坂を上ってきた。
新しい靴を履いていた。途中で海の方へ顔を向け、何かを見つけて手を振る。俺にも見えると思っているらしい。
身体を乗り出しかけ、留めたばかりの窓へ肘をぶつけた。
彼女が下で笑った。
俺は道具を箱へ戻し、窓を閉めずに階段を下りた。




