届いたのは昨日
比較まで、あと三日だった。
俺たちの道具は、先端を交換すると、斜めへ強く捻った時だけ留めが緩んだ。イェトは朝からそれを直していた。俺は刻線を変え、また元へ戻し、食べ損ねた朝のパンを顎だけで噛みながら、表示帯を切っていた。
どうして締切は、人が眠らない程度の忙しさを狙って近づいてくるのだろう。もっと早い日に来てくれれば、初めから断れたのに。
カザが来たのは、昼前だった。
手に、二本の空の枝線を持っていた。フェルドに使った装置と同じ長さで、末端には誰の受理番号も刻まれていない。
「こっちを使って」
俺が受け取ると、彼女は目の下をこすった。
「昨日の台を、同じに作り直した。人へ行く側は、全部ここで終わる」
枝の端には小さな表示帯がついていた。
「道具の方は」
「あんたに見せる必要ある?」
「ないです」
彼女は笑わなかったが、肩の力だけが少し抜けた。
テムは窓辺へ台を寄せさせた。足元を踏まないよう、イェトが線を床から持ち上げ、棚の細い棒へ順に掛ける。昨日までは箱の下で重なっていたものが、一本ずつ見える形になった。
フェルドは来ていなかった。
今日は自分の家で眠ると言っていた。外の足音を待たずに済むよう、結果を届ける時刻だけ先に伝えてある。
テムは照合板を開き、元の共通線を指した。
「手を置いて受け口を照合する間、ここを通して本人へ短く繋ぐ。手を離して板を畳む時には、そちらの線が閉じる。この台は、その後にも線が残っていた」
彼女は板の裏を見せた。継ぎ足した部材の下へ、古い刻線が一本潜っている。
俺は細い刃の背で、その先を辿った。
山の保持具に残っていた余計な枝は、戻す動きを邪魔していた。こちらの枝は、閉じるはずの場所を脇から回っていた。古い部品の形に合わせて、後の継ぎ手が覆いかぶさっている。
「閉じたように見える」
俺が言うと、テムは頷いた。
「受け口の照合を使わない人には、何も起きない。本人の外部受理端が閉じていれば、そこから先へも入らない。彼には、もう一つ開いた端があった」
カザは口を固く結んだ。
「だから、セドには出なかった」
「セドが最近受け取ったのは職人の一場面。この人の、幼い頃に繋いだ外の人生とは口が違う。同じ道具を使っただけでは、同じ道を通らない」
テムは言ってから、古い板を下ろした。
俺は二つの表示帯を見た。
開始の印を受ける帯と、フェルドへ向いていた旧枝の代わりにつけた帯。誰の指も触れていない。ここへ送るのは今作る短い合図で、人の場面を覗く道は全部外されていた。
「一度目、元の繋ぎ方」
俺は声をかけた。
試験用片の残りを確かめ、長く一度、短く一度、鈴を鳴らした。
隣の帯へ二本の印が入った。
少し遅れて、旧枝の帯へも、同じ長短が残った。
誰も喋らなかった。
俺は脇を迂回している線を外し、布で端を包んだ。
「二度目」
また鳴らした。
開始の帯だけに印が入った。
旧枝の帯は白いままだった。俺はそれを持ち上げて裏を見た。何もない。窓の向こうから、荷を引く男の掛け声が聞こえた。
カザが、長く息を吐いた。
俺は小片を取り出した。使ったところは筋が消え、そこを通して指の腹が見えた。残った部分には印をつけ、試験の箱へ戻した。
昨日どこを通ったかは、これで分かった。
怖くなかったかと聞かれたら、怖かった。だが、白いままの表示帯を何度見ても、そこに過去へ続く深い穴が開いている気はしなかった。閉じれば届かない、目の前の線だった。
午後、俺とテムはフェルドの家へ行った。
彼は雨戸を一枚だけ開けていた。部屋は暗かったが、炉の上の湯は温かかった。椅子の背には着替えが掛かり、床には底を直しかけた靴がある。俺たちが調べている間も、彼の家にはこういう物が置かれていたのだと、妙にはっきり感じた。
テムは二枚の帯を机へ置いた。
フェルドはそれを見てから、俺を見た。
「昔へ届いたんじゃないのか」
「昨日、あの台のそばにいたあなたへ届いた」
テムが答えた。
「幼い頃に受け取った体験の、一番終わりへ通じる端が開いている。そこから入ったので、あなたは足場から落ちる場面の続きに感じる」
彼は眉を寄せた。
「でも、俺には、落ちる前に聞こえる」
「そこに聞こえることを否定してない。音を作った時は、昨日なんだ」
テムは二つの帯の間へ、実際に使われた旧枝を置いた。
フェルドは指を出したが、触れなかった。
「あっちの足場を、こいつが落とした?」
「それは起きていない。この音があなたへ入った時、向こうから来た体験は、もう何年も前からあなたの中にあった」
長い沈黙の後、フェルドは片手で顔を覆った。
俺は湯へ目を落とした。誰かの背をさすることより、まだ余計な返事をしないことの方が難しい時がある。
やがて彼は、手を下ろした。
「俺はあの時、誰かの手を離したんだ」
掠れた声だった。
「昨日の音が聞こえた途端、あれも違ったのかと思った。助けなかったのも、助からなかったのも、後から入れられたことだったのかって」
彼は帳面へ手を置いた。
「その方が、楽かもしれない、とも思った」
俺は顔を上げた。
フェルドは俺を見ていなかった。
「閉じてくれ」
彼はテムへ言った。
「昨日の音より前まで、信じられなくなるのは嫌だ」
テムは頷き、必要な道具を明日の朝に持ってくると答えた。装置の枝はもう外してある。今度は本人の側に残った端を閉じる。
帰る時、俺は戸口で靴を履いた。
フェルドが後ろから声をかけた。
「あんたも、向こうを覚えているんだろう」
「はい」
「なら、あんたの音も調べた方がいい」
言われて、俺は靴紐を結ぶ手を止めた。
彼はそれ以上聞かなかった。俺もその戸口で、灰色の海の話はしなかった。




