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K ―背番号89―  作者: K2MA


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22/34

第22話 最終戦

 レギュラーシーズン、最終戦。

 残った三チームが、一つの二位と、一つの三位を争っていた。


 フェニックス。

 バイソンズ。

 オーシャンズ。


 そして今日、フェニックスはバイソンズをホームに迎える。

 二位を賭けた最終戦。


 勝った方が二位。

 クライマックスシリーズのファーストステージを、本拠地で戦える。


 負けた方は、オーシャンズの結果を待つ。

 オーシャンズが負ければ三位。

 オーシャンズが勝てば四位。


 四位になれば、今季は終わる。


 負けられないのは、フェニックスだけではなかった。

 バイソンズも、オーシャンズも同じだった。


 打撃コーチの相沢征司は、ベンチの奥で打順表を見ていた。


 七番、指名打者に、Kの名前がある。

 今日は、投げない。


    *


 フェニックス先発は、高梨だった。

 緩急のある投球が持ち味で、気持ちの強い男だ。

 真壁の信頼も厚く、二年連続で先発ローテーションの先頭に名を連ねている。


 相沢は、相手の先発の欄をもう一度見た。


 土屋。

 制球に定評のある投手だった。

 瀬戸とのバッテリーは、多くの勝ち星をバイソンズにもたらしてきた。

 打つ側から見れば、一番やりにくい組み合わせだった。


    *


 一回表。

 高梨は、先頭の坂口に四球を与えた。

 続く沢井に、右前へ運ばれる。

 藤崎にも四球。

 アウトが一つも増えないまま、塁だけが埋まった。

 無死満塁。


 竹田がマウンドへ行った。


「一個ずつでいいです」


 高梨がうなずく。


「まだ一回ですから」


 竹田は戻った。


 四番、神崎。

 前の対戦で、Kを最後まで苦しめた男だった。


 初球、外。

 ボール。


 二球目、内角。

 ファウル。


 三球目、低め。

 神崎が振った。

 打球が左中間へ伸びる。

 外野が追う。

 届かない。

 二人が還った。


 0対2。


 二塁へ滑り込んだ神崎が、立ち上がってバイソンズのベンチへ拳を向けた。

 ベンチが沸く。

 まだ、無死だった。

 長谷部の右犠飛で、もう一点。

 村井が中前へ運んで、また一点。


 0対4。


 バイソンズのベンチから、声が飛び続けていた。


「よし!」

「もう一本!」


 村井も、一塁で手を叩いていた。


 勝てば二位。


 それは、向こうも同じだった。

 最後の一試合を譲る理由は、どこにもない。


 高梨は、そこから二人を抑えた。

 一回、四失点。

 ベンチへ戻る高梨を、竹田が待っていた。


「まだ八回あります」


 高梨は、スコアボードを見なかった。

 相沢は見た。

 最初の枠に、四という数字が灯っていた。


    *


 一回裏、フェニックスの上位打線は土屋の前に三人で終わった。

 相沢は、土屋を見ていた。

 圧倒的な球を投げているようには見えない。

 それでも、打球の先には必ず野手がいた。


 二回、高梨がゼロを取った。

 高梨は、立ち直っているように見えた。


 二回裏、フェニックスは凡打が続き無安打、三人で終わった。


 三回も、神崎に安打を許しながら、ゼロで並べた。

 初回とは、違っていた。

 それでも、四点は残っている。


 三回裏、ようやく下位打線が土屋を捕まえた。

 Kは遊ゴロに倒れた。

 だが、竹田が出て、岩瀬が続く。

 早川が倒れ、二死一、二塁。

 日下部が外角の球を右へ運んだ。

 一、二塁間を抜ける。

 竹田が三塁を回った。


 1対4。


 ベンチへ戻った竹田は、すぐに防具を手に取った。


「あと三つ」


 誰に言うでもなく、そう言った。

 その回は、一点で終わった。


    *


 四回裏、Kの二打席目。

 捕手の瀬戸がサインを出す。


 初球、内角。

 見送る。


 二球目、外角。

 ストライク。


 三球目、また外。

 ファウル。


 四球目は低い。

 Kは振らない。


 五球目、高め。

 Kが振った。

 空振り三振。


 ベンチへ戻るKを、相沢は見ていなかった。

 見ていたのは、瀬戸だった。

 ノートに書く。


 最後の球。

 その一つ前。

 さらに、その一つ前。


 ページを戻す。

 別の打者。

 また戻る。

 相沢のペンが、一度止まった。


    *


 五回表、高梨はまた走者を背負い、それでも点はやらなかった。

 初回に四点。

 そこから、四つのゼロ。


 五回裏、岩瀬が出た。

 早川が送る。

 日下部が左前へ運び、岩瀬が還った。


 2対4。


 スタンドの音が、少し変わる。

 片瀬も続いて、一死一、二塁。


 大島が打席に入った。

 初球、外。

 ボール。


 二球目、外角低め。

 ストライク。


 三球目、内角。

 大島が身体を引く。


 四球目、外。

 振った。

 中飛。

 走者は動けない。

 次の打者も倒れた。

 二人、残塁。


 バイソンズの内野が、声を掛け合いながら戻っていく。

 瀬戸が、土屋の背中を叩いた。

 追われている。

 向こうも分かっている。

 だから、二点差で止めた。


「二点だ!」

「まだある!」


 フェニックスのベンチから声が飛んだ、そのときだった。

 他球場速報が更新された。


 オーシャンズ、4対1。


 ベンチの声が、一瞬だけ小さくなる。

 フェニックスが負けて、オーシャンズが勝てば、四位。


 今日で、終わる。


 相沢の視界の端で、大島が一度だけその表示を見た。

 それから、グラウンドへ戻っていった。


    *


 六回表、バイソンズの下位打線が高梨を捕まえた。


 安打。

 四球。

 送りバント。

 一死二、三塁。


「一本!」

「ここだ!」


 九番打者が中前へ運び、三塁走者が還る。


 2対5。


 なお一死一、三塁。


 打順は、坂口へ戻っていた。

 右前打。


 2対6。


 バイソンズのベンチが沸いた。

 神崎も前へ出て、手を叩いている。

 ようやく二点差まで詰めたところで、突き放された。

 向こうにとっても、大きな二点だった。

 真壁がマウンドへ出て、高梨からボールを受け取った。

 相沢は、その背中を目で追った。


「初回のあと、よくここまで持たせた」


 高梨が唇を噛む。

 マウンドを降りる背中に、拍手が起きた。

 応援歌も鳴っていた。

 高梨は、下を向いたまま歩いてきた。


 2対6。


 オーシャンズは、勝っている。


 残りは、三回。

 大島が、またスコアボードを見ていた。

 六。

 二。

 その横に、他球場の数字。

 長くは見ていなかった。

 一度見れば十分なことを、大島は知っている。


    *


 六回裏、Kがこの日初めて安打を打った。

 一塁でリードを取る。

 一度、ベンチを見た。

 そのまま、動かなかった。

 点にはならなかった。


 安打は出ている。

 四球もある。

 まったく打てていないわけではない。

 それなのに、二点だった。

 相沢はノートを閉じ、立ち上がった。

 真壁のところへ行く。


「真壁」

「ん?」

「これ、見てくれ」


 ノートを渡す。


「投手側から、どう見える」


 真壁がページを開いた。

 少し見て、ボールペンを、二度ノックする。

 相沢は黙って待った。

 この男がそれをやるときは、答えが出る。

 相沢が指す。


「ここ」


 打った球ではない。

 その一つ前だった。


「こっちも」


 別の打者。

 また、一つ前。

 真壁がページをめくる。

 目が止まった。


「……なるほどな」

「偶然じゃないよな」

「違う」


 真壁が指した。


「ここ。内を見せてるだろ」

「ああ」

「ただ内に投げてるんじゃない。身体を起こすところまで入れてる」


 次の打席は、高め。

 そのあと、低め。


「高めを意識させて、落とす」


 別のページでは、順番が逆だった。

 先に低め。

 そのあと、外。


「やってることは、打者ごとに違う」

「ああ」

「でも、思考は一緒だ」


 相沢が真壁を見る。


「次に打たせたい球を、その前で作ってる」

「そういうことか」


 真壁は、ノートを閉じなかった。


「しかも、打たせる球だけじゃない」

「見せ球も?」

「ああ」

「瀬戸、か」


 真壁は、ページをもう一度戻した。


「だが、土屋だから成立してる部分もある。見せ球まで、全部厳しい」


 相沢は、少し考えた。


「継投に入っても、同じ設計で来るかな」


「瀬戸は、代わらないだろうからな」


 真壁は、一瞬だけスコアボードを見た。


 2対6。


 六回。

 残された攻撃は、三回。


「そういうことなら急げ」


 相沢はうなずいた。


    *


 二人は、打者ごとの組み立てを拾い始めた。


「これは内で起こしてから外」

「こっちは高めから低め」

「これは逆だ。低めを見せて、目線を残してる」


 長く話す時間はない。

 次の打席が来る。

 相沢は、ネクストへ向かう選手を一人ずつ呼び止めた。


「球を決めつけるな」


 ノートを見せる。


「向こうが何を打たせたがってるか。それだけ頭に入れろ」


 答えは、渡さなかった。

 渡せるのは、見る場所だけだった。

 選手がうなずく。

 次。

 また、次。

 七回が始まった。


    *


 相沢は、ベンチの前から打席を見ていた。

 フェニックスの打者が、打席の中で確かめている。

 内を見せられる。

 次は外。

 来た。


 別の打者。

 高めを見せられる。

 次は低い。

 それも、来た。


 分かっていても、打てなかった。

 外なら、外へ投げ切る。

 低めは、低めから浮かない。

 見せ球も、甘くない。


 七回裏、走者は出た。

 大島も安打を打った。

 それでも、無得点。


 2対6。


 読みは当たっていた。

 それでも、打てない。

 その向こうで、土屋がベンチへ戻っていた。


 七回、二失点。

 瀬戸が迎え、二人が拳を合わせる。

 十分な仕事だった。

 ブルペンから、中継ぎ投手が出てくる。

 相沢は立ち上がった。

 真壁も、その投手を見ていた。

 何も言わなかった。


    *


 八回表、フェニックスの救援陣がゼロを取った。


 攻守交代。

 他球場速報が更新される。


 オーシャンズ、7対2。


 相沢は、それを見なかった。


 八回。

 スタンドのあちこちから、ため息が漏れた。

 残る攻撃は、二回。


 2対6。


    *


 八回裏。


 先頭は成瀬。

 ネクストへ向かう前に、相沢が呼び止めた。


「成瀬」


 振り返る。


「内を見せられても、そこで終わるな」

「外まで一組?」

「ああ」


 相沢が続ける。


「ただし、決めつけるな。違ったら捨てろ」

「分かった」


 バイソンズの中継ぎが、セットに入る。


 初球、外。

 見送る。


 二球目、内角。

 ここまでは、七回までと似ていた。

 ただ、少し遠い。

 先発の球ほど、身体を起こされない。

 成瀬がファウルにする。

 瀬戸が外へ構えた。


 三球目。

 ミットより、ボール一つ内へ入った。

 七回までなら、バットの先だった球だった。

 成瀬が振る。

 芯。

 左中間を抜けた。

 二塁へ。

 無死二塁。


 スタンドが沸いた。


 相沢は、打球ではなくマウンドを見ていた。

 真壁も、同じだった。

 設計は、変わっていない。

 精度だけが、少し違った。


    *


 Kが打席へ向かおうとする。

 伊丹がサインを出した。

 送りバント。

 Kの足が、一度止まった。

 伊丹を見る。

 伊丹は、同じサインを出した。

 Kは、すぐには動かなかった。

 打席を見る。

 もう一度、伊丹を見る。

 ほんの少しだけ、間があった。

 それから、小さくうなずいた。


 相沢が言う。


「ここでバントですか」

「まず一点だ。圧をかける。取れれば流れができる」

「Kのバント、僕は見たことありません。できるのですか」

「なんだと。先に言え」


 伊丹は相沢を見た。

 だが、もう遅かった。


 打席に入る。

 普通に構えていた。

 バットは、寝かせない。

 ベンチで、大島が身を乗り出した。


「……バントだよな?」

「そう見えねえな」


 黒田が言った。

 投手がセットに入る。

 二塁を見る。

 前を向く。

 足が上がった。


 そこで、Kが動いた。

 バットを寝かせる。

 三塁手が前へ出る。

 打球が転がった。


 強い。


 三塁手が走る。

 拾う。

 一塁へ。


「アウト!」


 成瀬は三塁。

 一死三塁。

 Kが一塁を駆け抜けた。


「危っぶな……」


 大島が苦笑した。


「下手だな」

「よく決まったな」

「向こうが下がってたからだ」


 相沢は、三塁を見た。


「Kが普通に構えたまま、投手が動いてから出した。三塁が一歩遅れた」

「それでか」

「長打も警戒して、下がっていた」


 瀬戸も、三塁手を見ていた。

 三塁手が、小さく首を振る。


 Kがベンチへ戻る。


 伊丹と目が合った。


 伊丹は何も言わない。

 Kも、何も言わない。


 入れ替わりに出ていく竹田が、Kの肩を一度だけ叩いた。


    *


 一死三塁。


 竹田。

 初球、内角。

 見送る。

 土屋ほど、厳しくない。


 二球目、外。

 今度は、少し高い。

 竹田が振った。

 右前。

 成瀬が還る。


 3対6。


 竹田が一塁で拳を握った。

 ベンチの声が、大きくなる。

 まだ、三点差。


 岩瀬が追い込まれ、低い球を一つ捨てた。

 次の外角。

 狙った場所より、少し高い。

 岩瀬が振る。

 左中間を抜けた。

 竹田が二塁を蹴る。

 三塁も回る。


「セーフ!」


 4対6。


 岩瀬は二塁。

 一死二塁。

 スタンドで、立ち上がる人が増えた。

 四点差が、二点差。


「切れ!」

「一個だ!」


 バイソンズのベンチからも、声が飛ぶ。

 まだ、向こうが勝っている。

 早川が右前へ運んだ。

 岩瀬が三塁を回る。


 5対6。


 一点差。

 球場の音が、一段上がった。

 瀬戸がマウンドへ向かう。

 投手コーチも出てきた。


「気づいたな」


 相沢が言った。


「ああ」


 投手交代。

 左腕が出てくる。

 瀬戸も、組み立てを変えた。

 フェニックスが読んだのなら、その読みを外す。

 バイソンズも、ここで終わるつもりはなかった。


    *


 日下部が打席に入る。

 もう、七回までの答えは使えない。

 新しい投手。

 新しい配球。

 日下部は粘って、最後は浅い外野フライ。

 走者は動けない。

 二死一塁。


「あと一人!」

「切れ!」


 フェニックス側の声が、一瞬だけ小さくなる。


 片瀬。

 初球を見送る。

 二球目を振った。

 一、二塁間を抜ける。

 早川が三塁へ。

 二死一、三塁。


 まだ、5対6。


 四番の大島がバットを持った。


 相沢はベンチの前に出た。

 一瞬だけ、マウンドを見る。

 瀬戸を見る。

 もう、さっきまでの読みはない。


「大島」


 大島が振り返る。


「行ってこい」

「おう」


 伝えることは、それしかなかった。


    *


 二死一、三塁。


 5対6。


 大島が打席に入る。

 バイソンズのベンチからは、声が飛び続けていた。

 瀬戸がマウンドへ行き、短く話して戻る。


 初球、外。

 ボール。


 二球目、外角。

 ストライク。

 大島は振らない。


 三球目、低い。

 ボール。


 四球目、外角。

 振った。

 ファウル。

 二ボール二ストライク。


 大島が打席を外した。

 バットの先で、土をならす。

 顔を上げる。


 大島の目が、順に動いた。


 照明。

 ベンチの手すり。

 土。

 スコアボード。


 相沢には、大島が何を見ているのか分かった。

 長くやってきた打者は、最後にああやって確かめる。

 毎日見てきたものを。


 打席へ戻る。

 瀬戸が構える。


 ここまでとは、もう違う。


 フェニックスが読んだから、バイソンズが変えた。

 大島は、その変わったあとを待っているように見えた。


 投手が足を上げる。

 投げる。

 外へ投げ切るはずの球が、わずかに中へ入った。

 大島が踏み込む。


 振った。

 乾いた音がした。

 左翼手が振り返る。

 走る。

 フェンスへ。

 まだ下がる。

 大島は、もう走り出していた。

 左翼手が跳ぶ。

 届かない。


 その向こうへ、消えた。


 一瞬、球場から音が消えた。


 次の瞬間、揺れた。


 三塁走者が還る。

 一塁走者も還る。


 8対6。


 フェニックスのベンチでは、全員がベンチの前まで出ていた。


 竹田が両腕を上げる。

 高梨も、ベンチの一番前まで出ていた。

 相沢は、手を叩いていた。

 その横で、真壁も叩いていた。


 大島が二塁を回る。


 瀬戸がマスクを外し、打球の消えた左翼席を見ている。

 神崎は、腰に手を当てて立っていた。

 唇を結ぶ。

 七回まで投げた土屋は、ベンチの手すりを強く握っていた。


 まだ、九回がある。


 大島が三塁を回り、ホームへ向かう。

 仲間が待っていた。


 8対6。


 この日初めて、フェニックスが前に出た。


    *


 記者席で、榊原も立っていた。

 気づいて、座る。

 ノートを見ると、今日のページには試合の経過ばかりが並んでいた。

 榊原は、そのまま続きを書いた。


    *


 九回表。

 柴崎がマウンドへ向かう、その途中だった。

 他球場速報が、最終結果に変わった。


 オーシャンズ、勝利。


 スタンドがざわめく。


 竹田は、速報を見なかった。

 マスクをかぶり、ホームへ走る。


 柴崎の投球を受けて、返す。

 もう一球。

 返す。

 最後に立ち上がり、ボールを柴崎へ投げた。

 勝てばいいだけ。

 そういう背中だった。


 先頭の坂口が、左前へ運んだ。

 無死一塁。

 バイソンズのベンチが立つ。


「まだある!」

「つなげ!」


 坂口も、一塁からベンチへ手を叩いた。

 二点差。

 走者一人。

 終わっていない。


 沢井を、柴崎が追い込む。

 外の直球。

 空振り三振。


 藤崎は、右へ打ち上げた。

 二死。


 あと一人。

 神崎が、ベンチを出た。

 バイソンズ側の声が、さらに大きくなる。

 一発なら、同点。


 神崎が打席に入る。

 竹田が構える。


 初球、直球。

 ファウル。


 二球目、外。

 ボール。


 三球目、変化球。

 ファウル。


 一ボール二ストライク。


 神崎が打席を外し、バットを握り直した。


「神崎!」

「一本!」


 打席へ戻る。

 竹田がサインを出す。

 柴崎がうなずいた。


 投げた。

 神崎が振る。

 バットの下を、ボールが通った。

 ミットが鳴る。


「ストライク! バッターアウト!」


 柴崎が拳を握った。

 竹田が立ち上がる。

 バイソンズのベンチから、声が消えた。

 一塁の坂口が止まる。


 神崎は、しばらく打席に立っていた。

 それから、ゆっくりベンチへ戻っていった。

 フェニックス側から、選手が飛び出した。


 8対6。


 試合終了。

 東条フェニックス、二位。


    *


 高梨も、輪の中へ入っていった。

 初回に四点を失った投手だった。

 真壁が、その背中を押していた。

 相沢は、ベンチの前に立ったまま、それを見ていた。

 大島は、少し離れたところにいた。

 スコアボードを見る。

 八。

 六。

 その数字は、もう変わらない。

 その先に、Kがいた。

 輪の少し外。

 何も言わず、仲間を見ている。

 大島もKを見た。


「K!」


 紅い頭部が向く。

 大島が、顎で輪の中を示した。


「こっちだ」


 Kが見る。

 竹田たちが騒いでいる。

 少しだけ、止まった。


 それから、歩いた。


 輪の中へ入る。

 大島も、そのあとを歩いた。


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