第八話 スイッチ
最近、宙ちゃんがスキンシップをしてくるようになった。
わたしだけしかいつも甘えてなかったから、少しずつでも甘えてくるようになって、わたしはうれしい。
でも、一つだけ不満がある。
――それは、宙ちゃんがわたしの膝の上に乗ってくれないことだ。
「はぁ……」
どうして乗ってくれないんだろう?
というか、そっちの方がゲームをしやすいと思うんだけどなぁ。
というわけで、今日もお昼休みがやってくる。
わたしは右の席の宙ちゃんを見つめつつ、宙ちゃんに声をかける。
「宙ちゃん!」
「……なんだよ?」
自分の席の椅子を引いて、座り直すわたし。
「…………ほら!」
「あ?」
「き、来て!」
「やだ」
「えーっ!? なんで!?」
「おめー、あたしに膝に乗ってもらいたいんだろ?」
「う、うん……。そうだけど?」
「おめー、絶対ハグしてくるだろ。だからイヤだ」
そ、そっか。そういうことをしてもいいのか……!
「な、なるほどね」
「なんだその言い方?」
「べ、べつに? それより、早く座れば?」
「いや座らねーよ」
「パン、食べさせてあげるよ?」
「いつもやってるだろ」
「か、肩揉んであげるよ?」
「逆にゲームに集中できなくなりそうだからいいわ」
「えーと……それなら、なにしてほしい?」
「…………はぁ、わかったよ。座りゃいいんだろ? おめーが困ってるところは見たくねーからな」
「やった!」
これで、座ってもらえる!
「……よっと」
「へー……これ、思ったより邪魔だなぁ」
「だろ? やめるか?」
「いいや? そのままゲームしてて?」
「おう」
それにしても、背丈は宙ちゃんの方が小さいから、なんか可愛いなぁ。
おんなじ目線で対等になれるのが、少しうれしい。
「可愛いなあ」
「抱きつくなよ?」
「……それ、フリ?」
「ちげーよ! 絶対にするなよ?」
「わかったわかった。じゃあするね?」
「話聞いてたか?」
「ぎゅーっ!」
「ひゃっ……!?」
「……ふふっ、このままでいい?」
「…………いつか覚えとけよ」
宙ちゃんが「ひゃっ」なんて可愛い声を出すのは意外だったなぁ。
でも、後ろから肩に手を回しただけで可愛い声を出すとは……
「宙ちゃん宙ちゃん」
「なんだよ?」
「わたし以外に、そういう声聞かせないでね?」
「…………おう」
「なんか不安だなぁ。宙ちゃんは前例があるからね」
「……前例?」
「ゲームに落とされたでしょ? いまはわたしに夢中だからいいけど」
「そういう言い方するのやめろ」
「だから、ずっと一緒だからね?」
「当たり前だろ。なに言ってんだお前?」
でも、宙ちゃんはわたしの言ってほしいことを言ってくれるから、心配になるんだよなぁ。
「宙ちゃんって、わたしの求めたセリフばかり言うからなぁ」
「バーカ、おめーにだけだっつーの。それに、おめーだってあたしが言ってほしいことを言ってくれんだろ」
「…………例えば?」
「……よし、一位だ!」
「宙ちゃんって、誤魔化し方下手だよね……」
「ほっとけ!」
まあ、宙ちゃんがわたしと同じことを考えてくれるだけでもいいか。
「あとよ、あたしは普段ハグしねーからいま気付いたんだけどよ」
「なぁに?」
「おめーの胸が当たってる」
「えー? 宙ちゃんになら、その……いいよ?」
「ならいいか。当ててるってことだし」
「うん。それより、宙ちゃんの匂いは落ち着くなぁ」
「そういうことを二人きりじゃないときに言うのやめろ」
「二人きりならいいの?」
「状況によるけどな」
「じゃあ、黙って抱きしめるね」
そう言って抱きしめていると、宙ちゃんが照れ隠しで言い放つ。
「そんなことより、昼メシ食わねーと……!」
「あ、じゃあさ! 宙ちゃんが食べさせてよ。机の中にあるからさ!」
「な、なんだって?」
「口開けてるから、ほら!」
「待ってろ! えーと、クリームパンでいいか?」
「うん! あー……」
「ほれ」
「あむっ!! もぐもぐ」
「な? 他人に食べさせられると、どうしても食い方がワイルドになるだろ?」
「なるねー。宙ちゃんだけかと思ってた」
「じゃ、じゃあ……クリームパンはやるよ」
「あ! 間接キス意識してるー!」
「黙れ」
「自分はあんなに平気そうにしてたのに?」
「くっ……!」
「まあ、宙ちゃんらしくて可愛いよ? わたしが全部食べるね」
「おう……なんか、すまねーな」
なんで謝るんだろう?
「……なにが? あ、パンのこと?」
「ちげーよ。あたしはおめーと違って逃げてばっかりだから……」
「そうかな? 自分を追い詰めすぎじゃない?」
「そうか? あたしはピンチだとすぐ逃げるぞ?」
「うーん……ならさ! 役割を決めよう?」
「…………役割?」
「魔法使いとか、僧侶とか勇者とか、ゲームってそんな感じでしょ?」
「お、おう」
「その役割を、非常時とか、普段とか、お昼休みとかさ! 必要なときに入れ替えようよ!」
「スイッチするってことか?」
「そうそう! 勉強中は二人とも勇者で立ち向かう! お昼ごはんのときは勇者と僧侶で、ごはんを食べさせながら、宙ちゃんがゲームをする! ピンチのときは、わたしが勇者! だからそのときは、宙ちゃんは魔法使いで一緒に状況を切り開くか、僧侶になってサポートしてね!」
「……ふっ、おもしれーな! さすが優。いつだっておめーは、あたしの思いつかねーことを思いつく!」
「うん。だってわたしたち、親友だもん」
わたしがそう言うと、宙ちゃんはわたしが宙ちゃんの肩に回した手を握ってくれた。
「だな! マブダチだもんな!」
「うん! じゃあ、今日は蒸しパンだから、宙ちゃんも食べて?」
「…………あー、食べてーけどなー……両手塞がってっからなー!」
「宙ちゃん、逆に恥ずかしいことになってるよ?」
「うるせー。おめーが食わせてくれねーと、あたしは食わねーぞ」
「はいはい」
こうして、相変わらず仲のいいわたしたちだった。




