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第三話 真面目でおバカ


 今日も昼休みがやってくる。

 だが、優が持っている菓子パンに違和感を覚えたあたしは、思わずそのことを尋ねた。


「あれ? 優」

「なに? メロンパンは嫌い?」

「いや、昨日はクリームパン食ったよな? なんでクリームパンとメロンパンなんだよ?」


 あたしがそう言うと、あたしの膝に乗ってる優がドヤ顔で口を開いた。


「わたし側からも一口もらうためだよ!」

「あー……そういえばおめー、つぶあんダメだったっけ?」

「そうなんだよね。だからメロンパンにしたの!」

「ほーん。じゃあ、あたしはメロンパンを選ぶぞ」

「はぁ? なんで!? わたしもメロンパンがいい!」

「なんでだよ? クリームパンの方がうめーだろ」

「だからだよ! 美味しいものは分け合いたいの!」

「それなら素直にクリームパン食えよ」

「クリームパンは宙ちゃんに食べてほしいの!」

「ぐっ……!」

「ぐぬぬ……!」


 こいつ、結構頑固なんだよなぁ……。

 でも、こいつにはいい思いをしてほしい。

 あたしはこいつの……優の努力を知っているから。


「しょうがねーな。ジャンケンだ」

「勝った方が王様……いや、女王ね!」

「いいぞ?」

「「最初はグー! ジャンケン……」」

「ポン!」

「ポン!!」


 あたしはグーでもチョキでもパーでもない。

 完全な禁じ手、「グチョパ」を出した。


 ――だが、やはりマブダチ。

 同じく優のやつも「グチョパ」を出す。


「そこまで汚いやつだったとはな」

「それはこっちのセリフだよ。宙ちゃんなんて大っ嫌い! クリームパンはあげるね!」

「なんだと? だったらあたしも嫌いだ! クリームパンはおめーにやるよ!」

「分からず屋!!」

「真面目バカが!」

「「ふん!」」


 こうして、あたしたちは喧嘩した。

 それと、どっちがクリームパンを食べるのかはうやむやになった。


 昼休みも終わり、授業が始まる。


 にしても、喧嘩なんていつ以来だ……?

 優を見つめながらもそう思う。

 が、優がこっちを見ようとすると目を逸らすあたし。

 

 もっとも、席が隣だから、見られてるかどうかは丸わかりなんだけどな。

 

 なんかムカつくから、嫌味言ってやるか。

 もちろん、授業を阻害しないように小声でだが。


「…………真面目バカ!」


 そう言うと、真横から視線を感じた。

 先生に注意されるのはどっちになるか……チキンレースだ!


「…………ど、毒舌ちゃん!」


 毒舌ちゃん……?

 そこは毒舌女でいいだろうが。


 優は真面目だがバカだ。

 そして、名前のとおり優しい。

 だから、大抵の場合あたしから謝る。


 ――はぁ、仕方ない。


「……優、右手出せ」

「…………わかった」


 小声で会話するあたしたち。

 普通は握手するところなんだろうが、


「…………一、二、三、四、五、六、七、八……!」


 あたしたちの場合、指相撲なんだよな。


「……九、十! はい、あたしの勝ちな! よって、今回の喧嘩は、あたしの勝ち!」

「くっ……! でも、ルールはルールか。さっきはごめんね? 宙ちゃん」

「おう。いいってことよ。次は楽しみにしてる」

「次はわたしが勝つもん!」

「はっはっは、そいつは無理だな」



 この直後、二人して先生に注意されるのだが、それはそれ。



 そうして、いつもどおり放課後になる。


「よう、優」

「うん。帰ろっか」


 あたしは席を立ち、優に仕掛けてみる。

 これはあまりやらないイタズラだ。


「ふっ! ふっ!!」


 いつまでも優の手を握ったままのあたしに、優は口を開いた。


「…………なにしてるの?」

「パントマイム」

「ふふっ……久しぶりに見た!」

「じゃ、帰るか」

「うん!」


 それから、下校するあたしたち。


「それにしても、指相撲で負けたのは久しぶりだったなぁ」

「そもそも、喧嘩したのも久しぶりだったよな」

「うん! そんで、大抵の場合は宙ちゃんが謝るんだよね」

「…………あの頃は……おめーが不意打ちの指相撲とか、色々仕掛けてきたからだ!」

「言い訳はどうでもいいけど、わたしが負けたのは本当に久々だなぁ」

「じゃあ、ルール追加な」

「いいよ? なになに?」

「おめー、気持ち悪いと思うことを教えろ」

「な、ナメクジとか、ウジ虫とか……?」

「そんなこと知ってるわ! おめーがイヤがることをしようかなってな」

「宙ちゃんにされるなら、なんでもいいよ?」

「それって、チューとかも? もちろん場所は任意だが」

「…………うーん……」


 しまった、気持ち悪かったか……?

 いや、だが罰ゲームだ。それでいいんだ。

 まあ、あたしも若干傷つく前提だけどな。


「うーん…………」

「なげーよ。イヤならいいんだぞ?」

「えっとね……気持ち悪がらないでね?」

「おう」

「……宙ちゃんは親友だから、どんなことをされても傷つくよ?」

「おう」

「でもね、結局は許しちゃうと思うんだ。だって、それが親友でしょ?」

「ほー……」

「宙ちゃんは?」

「あたしか。あたしは……」


 正直あたしは、こいつがどこまでエロいことを知ってるかとか知らねーんだよな。

 だから、言うのを拒みたくなることとか、こいつの前で言っていいのかもわかんねー……

 てか、あたしも優と同じかもな。

 やられたとして、ショックを受けたとして、嫌いになるわけねーし…………。


「あたしも、どんなことをされても平気かな。おめーはマブダチだ。嫌いにはなんねーよ」

「じゃあ、手を出して?」

「おう」


 あたしが右手を差し出すと、優は右手でギュッと握ってきた。


「はい、これで仲直り!」

「はっ……さっきまでは喧嘩してたのかよ」

「うん! 罰ゲームのこと考えてたでしょ?」

「おう……」


 さすがに一緒にいるだけあって、鋭いな……。


「だから、罰ゲームは握手! わかった?」

「はいよ。覚えておくよ。それで、なんで罰ゲームなんだ?」

「『罰になってない』っていう罰だよ。お互いに気を許してるから、罰ゲームは成立しないってこと!」

「なるほど……!」


 こいつ……バカのくせに面白いこと考えるんだよな。

 たまにだけど。


「やっぱ、おめーは嫌いじゃねーわ」

「わたしだって、宙ちゃんのことは好きだよ?」

「おう。それより、ウチ寄ってくか?」

「うん! ゲーム見るの好きだから、楽しみ!」

「そうか。じゃ、行くぞ!」

「うん」


 こうして、あたしたちは今日も仲良しだった。

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