霊魂の魔法使い
「第五級魔術師試験、ですか?」
「ああ、受けてもいいんじゃないかと思ってな。第五級魔術師試験は"試験"と銘打ってはいるが、実態は戸籍のようなものだ。この世界は、10歳まで生き残れる確率が終末を迎える前と比べて大きく落ちている。そして、10歳くらいになれば、初級魔術を使えるようになるし、教えても特に問題は無い。だから、この試験で各地域の人数などを把握してるんだ。合格すれば、身分証明書として使える登録証が与えられる。これがあれば、街の出入りや医療を受ける時とかに便利だ。綾芽ならほぼ確実に受かるから、受けてみないか?」
「なるほど...。なら、受けてみたいです!どんな試験内容なんですか?」
「簡単だ。自分の名前を名乗って、好きな属性の初級魔術を一つ発動させるだけだ。合格率はほぼ100%だな。まぁ、稀に緊張で魔術どころじゃなくなって失格になる場合があるらしいが、何度でも受けられる物だからな。結局、誰もがこの資格は持っていると言っても過言ではないな。」
「次の試験はいつ頃ですか?」
「受けようと思えば、今日にでも受けられる。僕たちの住んでいる東北は人が少ないからな、地方統括長の魔法使いが直々に試験を監督してるんだ。だから、東北に関して言えば、魔法使いとの初顔合わせの意味合いも持ってるな。アレでも、一応僕の上司にあたるから、弟子の紹介もそろそろしなきゃいけなかったし、丁度いいだろう。そしたら、十分後に出発するから、準備をしてくれ。」
「はい!」
試験、と聞くと難しそうなイメージを持ちましたが、簡単そうで良かったです!
師匠の箒は速いですが、その分寒いので、防寒着とかも入りますね。あと、地上よりも太陽が近いから、サングラスも要りますね。それから、帽子も...。
「よし、それじゃあ行くぞ。しっかり掴まっておけよ。」
師匠の箒は、静かに空高くまで上がると、一気に加速し、空を飛び始めました。
「どこに行くんですか?」
「東北最大の都市にして、"霊魂"の魔法使いの拠点。杜の都、仙台さ。」
仙台。東北唯一の政令指定都市だった、宮城県の県庁所在地。現在も、東北地域で最も人口が多く、彼らを守るために、極度に要塞化された要塞都市。外周には大きな壁が地上からの魔獣の侵入を防ぎ、間子師匠が張った大規模都市結界が空からの襲撃を拒むそうです。
「霊魂の魔法使いは種族特性の関係上、あまり太陽光に晒されることを好まない。だから、基本的に日中は仙台駅の地下街に籠っている。まぁ、そのおかげで、仙台は地下からの襲撃事案が全く発生してないんだがな。ほら、着いたぞ。後は、降りていってアイツに会うだけだな。」
「意外と、明るいんですね。"霊魂"なんて言われてるから、もっと暗くて、おどろおどろしい感じを想像してました...。」
「本人はとても明るくて、親しみやすい奴だからそこまで緊張しなくても大丈夫だ、綾芽。ほら、この扉の先にアイツはいる。僕は試験中は部屋に入れないけど、扉の前で待ってるから。安心して、受けてこい。」
「はい...!」
周りは自動ドアばかりなのに、一つだけ両開きのドアが佇んでいます。
「この扉は、中と空間を区切るための門だ。頑張ってこいよ。」
「行ってきます!師匠!」
扉を開け中に入ると、一人でに扉は閉まっていきました。
中は、大量の本が側面に並んでいて、正面には机があり、黒いローブを羽織った男の人が座って、書類に何かを書き込んでいます。そのさらに後ろの壁には、大きく、恐ろしい鎌が架かっていました。
「初めまして、こんにちは!"霊魂"の魔法使い様!第五級魔術師試験を受けに来ました!」
「こちらこそ、初めまして。俺は東北一帯を統治する元人間の幽霊。"霊魂"の魔法使い、峯岸黎だ。じゃあ、早速試験を始めようか。まず、キミの名前を教えてくれないかい?」
「はい!わたしの名前は、空木綾芽です。」
「空木?もしかしてキミ、結界の魔女の親戚なのか?」
「いえ、わたしは間子師匠の弟子です!記憶喪失で彷徨ってたところを保護されて、名前までいただきました!」
「そうか、じゃあ次に魔術を見せてくれ。何が得意なんだい?」
「火属性が得意です!」
「なるほど。じゃあ、実際にやってごらん。」
「はい!」
『指先に灯るは、世界を照らす小さな篝火。』
『揺めき、闇を払え。』
『小さな炎!』
小さく、しっかりとした赤い炎が指先で踊る。
「上出来だ、合格でいいよ。お疲れ様。証明書は後で家に届けるから、安心していいよ。さて、空木!入ってきて大丈夫だぞ!」
「そうか、入るぞ。久しいな、峯岸。改めて、紹介しよう。彼女が僕の弟子、空木綾芽だ。」
「久しいな、ってお前が山奥に引きこもってるから、お前の仕事も俺がやっているせいで毎日忙しいんだよ!いい加減にしてくれ。」
「仕事?魔獣はちゃんと全て狩っているが?」
「魔女としての仕事の話だ。要人警護、貨物護衛、結界の点検、書類、書類、書類、書類、書類、書類、書類、書類、書類、書類、書類、書類、書類、書類、書類、書類、書類、書類、書類、書類、書類、書類、書類、書類...。」
「もういいよ、分かったよ、悪かったよ峯岸。僕としてはそんな仕事があることすらも知らなかったよ。」
「全く、だからもっと集落とかの連絡のしやすいところにいてくれればいいものを。いくら俺が既に死んでいて、過労死しないからといっても、疲れはするんだぞ。」
「既に死んでるって、どういうことですか!?」
「ああ、俺は終末が訪れたその瞬間に会社の上司のパワハラで死んじゃってな。でも、魔力によって"幽霊"って
いう種族に姿を変えてこの世に留まり続けているんだ。死体は今も峯岸家の墓の下だよ。それに、俺の魔法が【魂を操る魔法】だから、存在を安定させられてるんだ。」
「そうだったんですか...。その上司さんはどうなったんですか?警察に捕まったんですか?」
「いや、会社に飛び込んできた飛行型の魔獣に襲われて死んだ。俺は"幽霊"だからさ、この体も実体の無い霊体なんだよね。だから、物理攻撃は効かないんだ。その代わりに、こっちからそっちに触れることもできなくなちゃったんだけどさ、ポルターガイストみたいな感じで物を動かすことはできるから、こうして仕事もこなせるんだよね。」
「なるほど...。」
「峯岸の羽織っているローブや衣服は僕が作ったんだ。僕はこの東北で一番魔道具を作るのが得意だからね。霊体が着れるようにするのは骨が折れたよ。」
不思議な魔法使いさんもいる物なんですね。ともかく、試験に合格できてよかったです!
こんにちは、こんばんはbea-yaです。
第六話いかがでしたでしょうか?最後まで読んでいただきありがとうございました。
では、また次話でお会いしましょう!お楽しみに!




