回想-白狼-
その身を大きく駆動させ、捕食者は野山を駆け巡る。
ー逃げるために。
その付近の頂点捕食者として君臨していた彼にとっては屈辱以外の何者でも無い。
しかし、既に彼の仲間は殺し尽くされ、リーダーである彼しか残っていない。
捕食者である彼を喰らおうと、黒き獣は獰猛に白き狼を追い続ける。
矜持など死への恐怖を前にすれば、ちっぽけなものだった。
白き狼は木々の間を縫うように走り抜ける。
周囲の音を聞き追跡者との距離を正確に測定する。
反撃のために。
その頭に浮かべたイメージは白銀の世界!
「アウォーーーーーーン!!!!」
一気に反転し、遠吠えと共に氷の魔術を発動する。
巨大な氷柱が黒き獣へと飛翔し、反撃などされるはずがないと驕っていたその胸に突き刺さる。
だが、無情にも氷柱は獣に当たった途端にヒビが走り、砕け散ってしまう。
狼がその現実を目の当たりにし、驚きで固まったその瞬間に、黒き獣は一気に距離を詰め、丸太のごとき腕を大きく振るい、周囲の木々ごと狼を薙ぎ払う。
狼の体は大きく吹っ飛び、木に叩きつけられる。
異能『衝撃軽減』により、大きく威力を落とされているはずのその攻撃は骨を砕き、内臓をも傷つけた。
口の端から、紅き血が滴り落ちる。
歯を剥き出して、精一杯目の前の理不尽に向かって威嚇をする。
黒き死神はそんな物を全く気にせず、ズカズカと近づいてくる。
意を決して、目の前の巨体に向かって牙を剥き出し、飛びかかる。
身を空中で捩り、黒の肩あたりにガプリと噛み付く。
せめて骨を噛み砕いてやろうと、必死に顎に力を込める。
しかし、骨が砕けるどころか、牙は皮膚に傷をつけることさえできずに押し返される。
噛み付いたことで、避ける事ができなくなった狼の左後ろの太ももに向かって、凶爪が振り下ろされる。
ズシャ、という肉が裂ける音と共に鋭い痛みが体を走る。
悲鳴をあげながら、黒き獣からよろけるように離れる。
機動力を失い、逃げることもできなくなった狼は、じっと自分を殺すであろう敵の眼を見続けていた。
黒き獣は、ゆったりとコチラに近づいてくる。
あと数歩の距離まで迫った、次の瞬間、黒き獣が踏み出した地面が爆ぜた。
突然の爆音にパニックを起こし、黒き獣はあっさりと逃げていってしまった。
狼はしばらく呆然としていたが、どこからともなく食べ物の香りが漂ってきたことで、自分が怪我をしていて、腹が空いていることを思い出した。
香りに釣られて、どんどんと山を降りる。
山を抜けると、そこにはニンゲンの集落があった。
「起きたか。」
目を覚ますと、自分を圧倒した狩人の姿があった。
「内臓、骨、左足、お前の怪我は全て間子が治した。まだ、どこか痛むか?」
状況が理解できずに、固まってしまう。
「腹減ったろ、魔鹿の肉だ。食え。」
差し出された肉の匂いを嗅ぎ、ゆっくりと警戒しながら食べる。
「さて、お前のこれからの話をしようか。お前は人里に降りてしまった。だからこのまま山に帰すことはできない。そこで、お前には二つの道がある。一つ目は私にこのまま殺されることだ。」
わずかに放たれた殺気に、心が恐怖で竦む。
「そして、二つ目の道。それは、私の使い魔になることだ。仕事内容は、物資と人の運搬、そして私の射撃の補助だ。報酬は食と住の提供と私の加護だ。お前は、どうしたい?」
ニンゲンに従うというのは矜持が許してくれはしない。
だが、強き者に従うというのならば、それは自然の絶対の法則である。
ならば、コイツの使い魔になるというのも良いのではないか?
白き狼は、狩人に向かって伏せた。
「使い魔になるということでいいんだな?なら、これからよろしく頼む。」
こうして、主人と使い魔の契約は締結された。
「そうだ。お前にも名を与えなきゃな。そうだな...。氷牙にしよう、氷の私の牙だ。」
氷牙...。オレの名前...。
名を与えられた狼は大きく尻尾を振っていた。
「さて、これからはお前にも狩りを手伝ってもらう。早速明日から行くぞ。」
新しい主人はだいぶ厳しい人物のようだった。
こんにちは、こんばんは、bea-yaです。
第五話、いかがでしたでしょうか。今回は少し短くなってしまったので、この分次話を少し長くしようと思っています。ぜひご期待ください。初めての小説ということで、文章が拙く、とても読んでいられた物ではないでしょうが、最後まで楽しんでいただけたら幸いです。
遅くなりましたが、ここまで読んでいただきありがとうございました。また、次話でお会いしましょう。




