第27話 限界突破のプロジェクトマネジメント
「よし、岩の気持ちが少し分かってきたぞ…!」
「次はあっちの滝壺に飛び込んで、水精霊のフラグ立てなきゃ!」
健太が夢の中で悪魔と重大な契約(?)を交わして目覚めた後も、フィーリアと麗奈の狂気の修行は終わっていなかった。
相変わらず、岩を殴り続ける女騎士と、ずぶ濡れで奇行に走る自称魔王。
荷車の上で、健太は深く、深く深呼吸をした。
冷たい空気を肺の奥まで吸い込み、限界まで達した己の堪忍袋の緒を、自らの手で引きちぎる。
「お前ら……」
健太の、地を這うような低い声が響いた。
普段の情けない彼からは想像もつかない、静かな、しかし絶対的な圧力を伴った声。
その異様な気配に、さしもの二人もピタリと動きを止めた。
「もういい。修行はそこまでだ。今すぐその意味不明な行動を中止しろ」
兜の奥から響くその声は、かつて炎上プロジェクトで修羅場を潜り抜けた、歴戦のプロジェクトマネージャーのそれだった。
◆ ◆ ◆
「な、何を言うか! 私はまだセブンセンスの境地に……」
「そうだよケンタ! まだ隠しフラグが……」
反論しようとする二人に、健太は容赦なく言葉の矢を放った。
「いいから聞け! お前らのやってることは、仕様書も読まずに本番環境のコードをいじり倒してるのと同じだ! バグが増えるだけで何の意味もねえ!」
「し、しようしょ……?」
「要するに、無駄だ! お前らがいくら岩を殴っても、滝に打たれても、教皇には勝てないし世界も救われない!」
健太は、荷車の上で(動けないなりに)ふんぞり返り、ビシッと二人を指差した。
「いいか、これからの行動方針は俺が決定する! 俺の指示通りに動け! 納期(サービス終了)が迫ってんだよ!」
そのあまりの剣幕と、全く意味不明な単語の羅列(仕様書、本番環境、納期)に、麗奈とフィーリアは完全に気圧されてしまった。
「わ、わかったよ……ケンタがそこまで言うなら……」
「……むぅ。主たる貴様がそう命じるなら、従おう」
二人を従え、健太は隣でキョトンとしている神官カインにも矛先を向けた。
「カイン! お前は索敵と回復に専念しろ! 無駄な詠唱と麗奈への称賛はすべてカットだ! リソースの無駄遣いをするな!」
「は、はいっ!」
見事なまでのトップダウン。
健太は、物理的には「荷車に乗せられた鉄の棺桶」のままだったが、精神的には完全にこのパーティのリーダーとして覚醒していた。
◆ ◆ ◆
健太の的確(?)な指示のもと、パーティの進行速度は劇的に向上した。
無駄な戦闘は極力避け、麗奈の無駄撃ちを禁じ、フィーリアには物理的な障害物の排除のみを命じる。
まるで、最適化されたプログラムのように、一行は最短ルートで聖域を目指した。
「右舷前方、ゴブリンの群れ! フィーリア、威嚇して追い払え! 殺すなよ、時間がもったいない!」
「承知した」
「麗奈、そこの怪しい光るキノコに触るな! バグの温床だ! スルーしろ!」
「えー、レアアイテムかもしれないのにー」
健太の容赦ないディレクションが飛ぶ。
(なんだこれ……めちゃくちゃ疲れるけど、仕事してた時より何倍も生きてる実感があるぞ……!)
兜の中で、健太は獰猛な笑みを浮かべていた。
理不尽な世界、バグだらけのシステム、そしてポンコツな仲間たち。それら全てをひっくるめて、自分が「運用」してやるという謎の高揚感が彼を包んでいた。
◆ ◆ ◆
やがて、一行の視界が開けた。
鬱蒼とした森を抜けた先。
険しい山脈の頂に、白亜の巨大な建造物群がそびえ立っていた。
雲を突き抜けるように高く、神々しい光を放つその場所こそが、世界を管理する要衝。
「見えた……あれが、教会の総本山……『聖域』か」
健太が呟く。
荷車を引くフィーリアが足を止め、麗奈が目を輝かせてその威容を見上げた。
「すっご……! ラスボスのお城って感じ! テンション上がってきたー!」
しかし、その荘厳な風景とは裏腹に、上空の雲はドス黒く濁り、時折不気味な紫色の稲妻が走っている。
世界の限界は、もう目に見える形でそこまで迫っていた。
「さあ、行くぞお前ら」
健太は、荷車の上から仲間たちに告げた。
「俺たちの手で、このクソみたいなシステムを、根本から叩き直してやる」
こうして、動けないリーダーと規格外の仲間たちは、ついに最終決戦の地、聖域の門を叩くのだった。




