第20話 追撃!雑魚すぎる四天王
ゼノがご丁寧に言い残していった「街の北にある洞窟」は、すぐに見つかった。
入り口には朽ちかけた木の看板が立てかけられており、そこには子供が書いたような拙い文字で『絶望の黒泥沼』と記されている。
ちなみに、看板の横には「歓迎!」と小さな文字で追記があったが、すぐに黒く塗りつぶされていた。
「ここがアジトか…なんというか、手作り感満載だね」
姫川麗奈が、ダンジョン攻略を楽しむプレイヤーのようにワクワクしながら言う。
洞窟の中は、ジメジメと湿った空気が漂い、時折天井から滴り落ちる水滴の音だけが響く、何の変哲もない洞窟だった。
「黒泥沼っていうから、もっとこう、足を取られるような沼地を想像してたんだが…」
健太が拍子抜けしていると、洞窟の最初の通路の奥から、カッと見開かれた目と、芝居がかった人影が姿を現した。
◆ ◆ ◆
「来たな、愚か者どもめ!」
通路を塞ぐように、黒い継ぎ接ぎだらけの鎧をまとった男が、大げさなポーズで立ちはだかる。
その手には、見覚えのある神の鎧の『籠手』が、大事そうに抱えられていた。
「我は背教者四天王が一人、『黒き一角獣』のジャキ! この鎧のパーツに誓い、ここから先へは一歩も通さん!」
ジャキと名乗る男が、自己紹介を終えてビシッとポーズを決める。
その横を、フィーリアが「ふーん」と鼻を鳴らしながら、完全な無表情で通り過ぎた。
すれ違いざま、彼女はジャキの脇腹に、肘で軽く、本当に軽く、小突くような一撃を入れた。
「ぐふっ」
という短い悲鳴と共に、ジャキは白目を剥いてその場に崩れ落ちる。
健太は、そのあまりにもあっけない結末に、魂の底からツッコミを入れた。
「なんで鎧のパーツを一個ずつ持って、わざわざ別々に襲ってくるんだよ! 全員で入り口に固まってた方が絶対効率いいだろ!」
健太の叫びも虚しく、一行は洞窟をさらに進む。
すると、次の角から、今度は二人組が飛び出してきた。
「我らは四天王、『黒き巨熊』のゴードン!」
「同じく、『黒き狼』のヴォルフ! 二人合わせて『暗黒の牙』! 覚悟しろ!」
二人は神の鎧の『すね当て』と『肩当て』をそれぞれ持っている。
「あ、私の獲物!」
フィーリアに先を越されて不満だった麗奈が、待ってましたとばかりに前に出る。
彼女は指先を二人に向けると、楽しそうに呪文を唱えた。
「くらえ! サンダーウェーブ!」
麗奈の指先から放たれたのは、銀河を砕くような大魔法ではなく、相手を痺れさせるだけの、本当にただの初級電撃魔法だった。
しかし、ゴードンとヴォルフは「ぎゃあああ!」と大げさに叫びながら、ビリビリと感電して泡を吹いて倒れた。
健太は、もはやツッコむ気力も失せ、こめかみを押さえた。
◆ ◆ ◆
洞窟の最後の通路。
そこには、蛇のようにねちっこい目つきの、ひょろりとした男が待っていた。
彼は神の鎧の『腰当て』を持っている。
「ふ、ふふ…我こそは四天王最後の一人、『黒き海蛇』の…」
「はいはい、邪魔邪魔」
男の自己紹介が終わる前に、麗奈が面倒くさそうに放った小石が、彼の額に「こつん」と命中した。
男は「あ」と一言だけ発すると、そのままゆっくりと後ろに倒れていった。
その光景を見て、麗奈はポンと手を打った。
「なるほどねー、MMOのレイドダンジョンで、ボス部屋の前にいる中ボス的なやつか! 一体ずつおびき寄せて各個撃破するのが定石だもんね! 忠実に再現してるじゃん、このゲーム!」
(違う、こいつらがただのアホなだけだ…)
健太の心のツッコミは、もはや声になることはなかった。
◆ ◆ ◆
こうして、茶番としか言いようのない四天王戦を終え、一行は鎧のパーツを回収しながら、洞窟の最深部、ゼノが待つであろう広間へとたどり着く。
広間の奥には、奪われた神の鎧の『胴体』と『兜』が、祭壇のような岩の上に、後光でも差しているかのように安置されていた。
そして、その前で。
弟との再会を待ちわびるかのように、一人の男が腕を組んで立っていた。




