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第17話 起死回生(ただし加減を知らない)


「いくよ、ケンタ! 起死回生の一撃だ! ギャラクティック・ノヴァ・エクスプロード!」


麗奈の元気な叫び声が、熱狂する闘技場に響き渡った。


彼女の右拳に、再び宇宙を崩壊させるほどのエネルギーが、眩い光となって収束していく。

その矛先は、ぐったりと意識を失った健太の、無防備な背中。


リングサイドで見ていたギデオンが、血相を変えて絶叫した。


「やめろぉぉぉっ! 今度こそ死ぬ! 原子レベルで消滅するぞ!」


先ほど岩山が消滅した光景を目の当たりにしている観客たちも、さすがにこれから起きるであろう惨劇を察し、悲鳴と怒号を上げた。


(終わった……今度こそ、ループもできずに原子レベルで消滅する……さらば、俺の短い異世界ライフ……)


健太は、かろうじて残った意識の片隅で、静かに死を覚悟した。


麗奈の拳が、健太の背中に叩き込まれる――その、寸前。


リング上を、黒い一陣の突風が吹き荒れた。


◆ ◆ ◆


観客の誰一人として、その動きを正確に捉えることはできなかった。


ただ、気づいた時には、リングの中央――健太の背中と麗奈の拳の間に、黒鎧の戦士、フィーリアが立っていた。


彼女は、健太の背後から回り込むようにして、麗奈の必殺の拳を、自らの左手で、ただ静かに、受け止めていた。


派手な爆発は起きない。


ただ、ゴッ、という鈍い音と共に、フィーリアの足元のアスファルトが蜘蛛の巣状に砕け、凄まじい衝撃波がリング全体を激しく揺らした。

麗奈の拳から溢れ出た宇宙的なエネルギーが、火花となって虚空に霧散していく。


「なっ…!?」


麗奈は、信じられないという顔で目を見開いた。


「あたしの必殺技を、素手で…止めた!?」

「それ以上、こいつに触れるな」


フィーリアは、麗奈の拳を掴んだまま、兜の下から氷のように冷たい声で言い放った。


「殺すぞ」


その声に宿る、本物の殺気。

麗奈は、ゲームの中では決して感じることのない、現実の「死」の匂いを肌で感じ、ゴクリと唾を飲んだ。


◆ ◆ ◆


フィーリアは、健太がピクリとも動かない仮死状態であることに気づくと、麗奈の拳を掴んだまま尋ねた。


「貴様、こいつを蘇生させると言ったな。どうやる?」

「え…あ、ええと…」


麗奈は、フィーリアの気迫に完全に気圧されながらも、女神から与えられたヒントを正直に伝えた。


「せ、背中から、同じくらいの衝撃を与えろって、声が……」

「同じ衝撃……なるほど」


フィーリアは、その無茶苦茶な理論を、数秒で理解(?)した。


「理屈は分からんが、やってみる価値はある」


彼女は掴んでいた麗奈の手を放すと、おもむろに腰に差した大剣のつかの底で、健太の背中を、まるでドアをノックするかのように、


「コツン」と軽く小突いた。


その瞬間。


(演出が台無しじゃないのよ!)


という女神アスタルトの心の叫びと共に、健太の身体に直接、神の力が流し込まれた。


「ゲホッ、ゴホッ! ごふっ……!」


健太は激しく咳き込み、止まっていた心臓の鼓動と呼吸を、無理やり再開させた。


その一部始終を、観客席の片隅で、腕を組んで見ていた男がいた。

レグルスだ。

その口元には、せせら笑うかのような冷たい笑みが浮かんでいる。


(フン、力だけか。あの小娘、力の制御が全くできていない。それに引き換え、あの鎧女……最小限の動きで、力の流れそのものを断ち切ったか。面白い。実に面白い…)


◆ ◆ ◆


健太は蘇生したものの、気絶したままだ。

それを見たギデオンが、震える声で勝敗をコールした。


「しょ、勝者、姫川麗奈ァッ!」


何が何だか分からないまま、とりあえず勝者とされた麗奈の手が審判によって高々と上げられる。

会場は、よく分からないがすごいものを見た、という興奮で「おおー!」と盛り上がった。


しかし、麗奈の視線は、勝者の栄光ではなく、リング下に降りたフィーリアの後ろ姿に、悔しそうに注がれていた。


健太は、係員によって担架で運ばれていく。

その顔は、なぜかとても安らかな表情をしていた。


ギデオンは、これ以上胃に穴が開きそうな試合はごめんだと、震える声で次の対戦カードを発表した。


「こ、これより、第二回戦の組み合わせを発表する! ……第二回戦、第一試合! ……ただ今の勝者、姫川麗奈! 対! ……一回戦を相手の棄権により勝ち上がった、レグルス!」


その声に、会場の反対側から、レグルスが優雅に一礼して見せる。


麗奈は、フィーリアから視線を外し、新たな好敵手(と彼女が認識した)レグルスを、挑戦的な目で見据えた。


次なる戦いの火蓋が、今、切られようとしていた。

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