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第13話 クエスト完了報告(ただし証拠は消滅)


ゴブリンの巣があった場所が巨大なクレーターと化した後、一行は街へと帰路についていた。


しかし、その道中は、来た時とは比較にならないほど重苦しい沈黙に包まれていた。


先頭を歩くのは、ギルドマスターのギデオンだ。


彼は時折、まるで未知の爆弾でも見るかのような目で後ろの健太たちを振り返り、その度に深いため息をついている。

その顔には疲労と苦悩が深く刻まれ、数時間前よりも十年は老け込んだように見えた。


最後尾を歩く健太は、生きた心地がしなかった。


(どうしよう……これからギルドで報告が待ってるんだぞ……『ゴブリンを倒しすぎて証拠が消滅しました』なんて報告、誰が信じるんだ……?)


胃がキリキリと痛む。

隣では、麗奈が信じられないほど呑気なことを呟いている。


「あのクレーター、マップにちゃんと記録されたかな? あとでスクショ撮りに行こ」


健太にはもうツッコむ気力すら残っていなかった。


◆ ◆ ◆


冒険者ギルドに戻ると、酒場で飲んだくれていた冒険者たちが、ヒソヒソと噂を始めた。


ギデオンの死人のような顔色と、その後ろをお通夜のような雰囲気で歩く一行を見たからだ。


「おい、マスターの顔色、やべえぞ」

「あいつら、一体何をやらかしたんだ…?」


突き刺さるような好奇の視線の中、一行は再びギルドマスターの執務室に通された。


ギデオンは、執務机の椅子に、崩れ落ちるように深く沈み込んだ。

そして、机の上の水差しからなみなみと水を注ぐと、薬でも飲むかのように一気にそれを飲み干した。


「……報告を、聞こうか」


絞り出すような、地獄の底から響いてくるような声だった。


健太は、パーティで唯一の常識人として、代表して一歩前に出る。


「は、はい…。ええと、ご依頼のあったゴブリンは、その…全員、討伐、いたしました…」

「証拠の右耳は?」


ギデオンの問いに、健太が「それが、その……」と言葉に詰まる。


その時、沈黙を破るように、麗奈が「てへっ」という効果音が聞こえそうな仕草で、悪びれもなく答えた。


「それがさー、あたしの魔法が強すぎて、耳どころかゴブリンも洞窟もぜーんぶクレーターになっちゃった! ドロップアイテムも全ロスだよ、マジ最悪!」


ギデオンのこめかみに、青筋がピクリと浮かんだのを、健太は見逃さなかった。


◆ ◆ ◆


ギデオンは、天を仰いで長大な、あまりにも長大なため息をついた。

世界の全ての苦悩を一人で背負ったかのような、深いため息だった。


やがて彼は、覚悟を決めたように口を開いた。


「……分かった。クエストは達成と認めよう。証拠は、この俺のまなこだ」

「あ、ありがとうございます!」


健太は、心から安堵の声を上げた。


ギデオンは、引き出しから数枚の銅貨と、安っぽい木製の札を四枚取り出し、乱暴にテーブルの上に置いた。


「これが依頼の報酬と、お前たちの仮のギルド登録証だ。約束通り、これで街への滞在を許可する」

「本当ですか!?」


希望の光が見えた。

だが、その光を遮るように、ギデオンは鋭い目で一行を、特に麗奈を真っ直ぐに睨みつけた。


「だが、三つの条件を課す。いや、これは禁止事項だ。もし破れば、俺が責任を持って、お前たちを叩き出す。いいな?」


その声には、一切の冗談も含まれていなかった。

ギデオンが突きつけた条件は、以下の三つだった。


一、姫川麗奈は、街中での一切の魔法使用を禁ずる。


二、お前たちの依頼は、当面の間、すべて俺が直接管理する。勝手な行動は許さん。


三、問題を起こすな。特に、衛兵に『魔王』と名乗るのは二度とやめるんだ。


「えー、街中でのスキル使用禁止とか、クソゲー仕様じゃん!」


麗奈は、案の定、不満の声を上げた。

しかし、健太が人生で何度目か分からない完璧な土下座を披露したことで、なんとかその場は収まった。


「必ず! 必ず守らせますので! なにとぞ!」


こうして、一行は厳しい監視付きという条件つきではあるが、正式に街への滞在を許可されたのだった。


◆ ◆ ◆


ギルドを出て、夕暮れの街を歩きながら、健太は報酬として受け取った数枚の銅貨を、震える手で見つめていた。


(これだけじゃ、馬小屋同然の安宿に一泊するのがやっとだ。飯だって、カチカチの黒パンが買えれば御の字か……)


健太は、この狂ったパーティを、順番に見回した。


現実をゲームだと思っている、歩く戦略兵器。

主君のお菓子を守るために国を売った、一騎当千の脳筋元王女。

その魔王(?)に心酔する、現実が見えていない美少年神官。


(この狂ったパーティを、俺が食わせていかなきゃならないのか……?)


健太の背中に、冷たい汗が流れる。

そして、彼は固く決意した。


その瞳には、かつて終電間際に仕事をやり遂げた時と同じ、悲壮な光が宿っていた。


(世界を救う? 教会と戦う? 冗談じゃない……!)


健太の心の声は、街の喧騒に溶けていく。


(俺たちの当面の目的は、明日のパン代を稼ぐことだ……!)

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