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第11話 絶体絶命と、第三者の介入


「魔王だと!?」「悪魔の手先だ!」「かかれ!」


衛兵たちの怒号が飛び交う中、健太たちの周囲を槍の穂先が幾重にも取り囲んだ。

警鐘がけたたましく鳴り響き、街の入り口はパニック寸前の様相を呈している。


しかし、その渦中にいる姫川麗奈は、この状況を「最高のイベント」だと認識していた。


「おー、敵の数増えてきた! 経験値うまそー!」


彼女は嬉々として腕をまくり、戦闘態勢に入る。

その口元が、健太が最も恐れる言葉を紡ぎ始めた。


「よし、いっちょ派手にかますか! 万象凍てつく絶対零度の息吹! くらえ! エターナ――」


「やめろバカあああああっ!」


詠唱が終わるよりも早く、健太は絶叫しながら麗奈に飛びついていた。


ブラック企業で鍛えた瞬発力で、ラグビーのタックルのように麗奈に組みつき、その口を両手で力任せに塞ぐ。


「街ごと氷河期に叩き込む気か!」

「んぐぐーっ! んぐぐぐぐっ!(何すんだよケンタ! 詠唱妨害とかPK案件だぞ!)」


麗奈が必死にもがく。

その、じゃれ合いにも似た光景を見て、衛兵の一人が好機と判断した。


「今だ! あの男ごと突き殺せ!」


鋭い穂先が、麗奈を抑え込む健太めがけて突き出される。


ガキンッ!


しかし、その槍が健太に届くことはなかった。


間に割り込んだフィーリアが、鞘に納まったままの大剣の腹で、槍をたやすく弾き飛ばしていた。


「こいつに指一本でも触れたら、斬る」


氷のように冷たい声が、戦場に響く。

フィーリアの兜のスリットから覗く瞳は、本気の殺意を宿していた。


麗奈を羽羽交い締めにする健太。

健太を衛兵から守るフィーリア。

主人の武威に感動し、祈りを捧げ始める神官。


事態は完全に膠着し、いつ誰が死んでもおかしくない、極限の緊張感がその場を支配した。


◆ ◆ ◆


「ええい、構わん! 悪魔の手先は一人残らず串刺しにしろ!」


衛兵隊長が、ついに総攻撃の命令を下そうとした、その時だった。


「――そこまでだ!」


野太く、しかしよく通る声が、戦場の喧騒を切り裂いた。


声の主は、衛兵たちの人垣をかき分けるようにして現れた。

年の頃は四十代。顔には歴戦の傷跡が刻まれ、その鋭い眼光は、一行の実力を一瞬で見定めるかのように鋭い。


だが、その佇まいはどこか飄々としていた。


男の登場に、衛兵隊長が「ギ、ギルドマスター殿…!」とたじろぐ。


男――この街の冒険者ギルドのマスター、ギデオンは、目の前の混沌とした状況を一瞥し、やれやれと頭をかいた。


「衛兵さんたち、ご苦労だが、こいつらは俺が預かろう。あんたたちじゃ、どうせ手に余る。街の中で大暴れされるよりはマシだろう?」


その言葉には、有無を言わせぬ凄みがあった。

衛兵隊長は不満そうだったが、街の顔役であるギデオンの言葉には逆らえず、渋々槍を降ろすよう合図した。


◆ ◆ ◆


一行はギデオンに連れられ、街の大通りを抜けて、冒険者ギルドの一室に通された。

屈強な冒険者たちが、遠巻きに珍妙な一行を眺めている。


ギルドマスターの執務室で、改めて尋問が始まった。


「さて…単刀直入に聞く。『魔王』とはどういう冗談だ?」


ギデオンの真っ直ぐな視線を受け、健太は(まともな人が来た! この人なら話が通じるかもしれない!)と一縷の望みをかけた。


「すみません! こいつは、その…ちょっと夢見がちな魔術師見習いでして、大げさな『二つ名』を自称してるだけなんです! 決して悪気はなくて…!」


健太の必死の弁明。

しかし、その努力は、当の本人によって無に帰された。


「はあ? 冗談じゃないし! 私は正真正銘の魔王だってば! あんたこそ、ギルドマスターのNPCでしょ? いいから早くクエストちょうだいよ! 初心者向けのやつ!」


麗奈が、テーブルをバンと叩いて言い放つ。


健太の胃に、激痛が走った。


ギデオンは、悪意なく言い放つ麗奈と、頭を抱える健太、そして沈黙を貫くフィーリアを順番に見比べ、ますます表情を険しくした。


◆ ◆ ◆


ギデオンはしばらく黙って考え込んだ後、一つの結論を出した。


「分かった。口で言っても埒が明かんなら、実力で示してもらうしかあるまい。冒険者として仮登録し、依頼クエストを一つこなしてみせろ」


その言葉に、麗奈が「お、いいね! チュートリアルクエストだ!」と目を輝かせる。


「ああ、そんなもんだ」とギデオンは続ける。


「内容は、この近くの森に住み着いたゴブリンの討伐。お前たちが、ただのイカれた連中なのか、それとも本当に街に仇なす危険な存在なのか、この依頼の首尾で判断させてもらう」


「無事に達成すれば、街への滞在を特別に許可しよう。ただし、俺の監視付きだ」


「ゴブリン……」


健太は、あの炭の味と死の記憶が蘇り、顔面蒼白になった。

しかし、街から叩き出されるか牢屋に放り込まれるよりは、千倍マシだった。


こうして、半ば強引に、一行はギルドマスター監視のもと、初の「公式クエスト」に挑むことになった。


「やれやれ、とんでもない厄ネタを拾っちまったな…」


ギデオンが、誰にも聞こえない声でそう呟いたのを、健太の耳だけが、確かに捉えていた。

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