表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/28

第9話 学校での再接触と違和感 Scarlet / 赤井温 視点

「あーもうっ! どう見ても暗そうなアイツが1位!? アタシが2位!?」


 渡り廊下に張り出された、新学期早々に行われた実力テストの順位表。

 その一番上に燦然と輝く『1位:1年Aクラス 青野冷』の文字を睨みつけながら、私は地団駄を踏んだ。

 私の名前は、そのすぐ下。『2位:1年Bクラス 赤井温』。

 くやしーっ! ケアレスミスさえなきゃ、絶対アタシが勝ってたのに!


「まあまあ温、2位でも十分すごいじゃん」

「そうそう。てか、あのAクラスの青野ってヤツ、ガチのガリ勉らしいじゃん。休み時間もいっつも一人で本読んでるか、スマホいじってるかって噂だし」


 親友のひかりと舞がなだめてくれるけど、負けず嫌いの私としては腹の虫が治まらない。


「ガリ勉だろうがなんだろうが、負けは負けなの! 次は絶対アタシがトップ取ってやるんだから! ……ていうか、その理屈っぽくて暗そうなカンジ、なんか思い出すだけでムカついてきた!」


(そう、理屈っぽくて、上から目線で……)


 私の脳裏に、昨日の深夜にプレイした『Game Nexus』の記憶がフラッシュバックする。

 私の華麗なる初タッグ戦の相棒だった、『ZERO』って名前のヤツ!

 アイツ、マジでムカついたんだよね。私が『Holy Knight』で華麗に突撃してる最中も、ずっと後方から「下がれ」だの「無謀だ」だの、ピーチクパーチクうるさいのなんのって!

 結果的に勝てたのはアタシの圧倒的なアクションセンスのおかげなのに、なんかアイツの指示通りに動いた方が「正解」だったみたいな、あの嫌な後味。


「Aクラスの青野も、ゲームのZEROも、どっちもアタシの華麗な人生の邪魔者よ! 忘れる! 今はアタシのカリスマを学校中に知らしめるのが先!」


 私はブンブンと首を振り、順位表から背を向けた。

 そうよ、私は赤井温! 直感と勢いとノリで生きる女! 理屈っぽくて暗いヤツなんて、私の辞書には存在しないの!


     *


「そこのキミ! そう、キミキミ! 生徒会主催、『校則フリーダム化計画』の先行アンケート、絶賛受付中よー!」


 昼休み。私は中庭のど真ん中に陣取り、お手製のド派手な看板を掲げて拡声器でシャウトしていた。

 秋には生徒会副会長になる私としては、今のうちから生徒のハートをガッチリ掴んでおかなきゃいけないのだ!

 私の両脇では、同じBクラスのひかりと舞が、私が徹夜で作った手書きのビラを配ってくれている。


「目安箱に意見を入れてくれた人には、もれなくアタシのサイン入りポケットティッシュをプレゼント! さあさあ、ドシドシ書いてってー!」

「温、サイン入りティッシュとか誰もいらないから!」

 ひかりが呆れたように笑いながらツッコミを入れる。

「もう、温ったらまた勝手なこと始めて……でも面白いからいっか! ほら、そこの男子もアンケート書きなさいよ!」

 舞は持ち前のパワーで強引に男子生徒を捕まえて用紙を押し付けている。さすが我がBクラスの武闘派!


「ほら、瀬川君も突っ立ってないで配ってよね!」

「はいはい、赤井副会長殿の命令とあらば」


 同じクラスのよしみ(というか、アタシが強引に引っ張ってきたんだけど)で、Bクラスのイケメンリーダー、瀬川陸も巻き込んで、中庭はお祭り騒ぎだ。

 うんうん、やっぱり学校はこうやって活気がないとね!


 その時だった。


「危ないっ!」


 誰かの悲鳴。

 視界の端で、端っこで遊んでいたサッカー部員が蹴り損ねたボールが、ものすごい勢いで私の方へ飛んでくるのが見えた。

 ――けど、私の体は、頭で考えるより先に動いていた。


(……左斜め上、直線軌道。速度、普通)


 昨日の夜、『Game Nexus』で敵のCatが突っ込んできた時の動きに比べたら、こんなの止まって見える。

 私はヒラリと首をわずかに傾け、飛来するボールをミリ単位で回避。

 そして、ボールが私の真横を通り過ぎ、重力に従って落下軌道に入ったその一瞬。


「おっと」


 スカートの裾が翻るのも構わず、私はボールの芯を捉えて、強烈なボレーキックを叩き込んだ。

 ドゴォッ! という快音と共に、ボールは蹴った本人の足元にズドーン! と突き刺さる。


「ちょっと! グラウンド以外での球技は没収って校則、忘れたの!? 次やったら生徒会権限でボールに顔の落書きするからね!」


 ビシッと指を差して笑うと、周囲から「すげえ」「さすがB組の赤井」とどよめきが起きた。

 ふふん、どんなもんだい! 私の運動神経を舐めないでよね!


 ドヤ顔で周囲を見渡した、その時だった。


 中庭の端っこ。日陰のコンクリートの脇を、まるで忍者のように気配を消して通り過ぎようとしている、見覚えのある背中を発見した。

 ゼリー飲料のパッケージを握りしめ、私の華麗なキックを見て、なぜか信じられないものを見るような目で立ち尽くしている男子。

 朝、順位表の1位に名前があった、あのAクラスのひょろいヤツ。


「あ! そこのひょろい男子!」


 私は拡声器をひかりに押し付けると、ダッシュでその背中に回り込んだ。


「昨日の朝ぶりね! なにコソコソ逃げようとしてるのよ。さてはアタシのカリスマ性にひれ伏しに来たのね?」


 ズイッと顔を覗き込むと、青野冷は明らかに「面倒くさいものに絡まれた」という顔をした。ほんっと、腹立つ顔! 1位だからって調子に乗って!


「……ただの通り道だ。用がないなら失礼する」

「あ、待ちなさいよ! アンタ、頭いいんでしょ? ほら、この目安箱のアンケート第一号になりなさい。アタシの素晴らしいアイデアに、論理的な称賛を書き込んでもいいわよ」


 逃がしてなるものかと、アンケート用紙を青野の胸元に押し付ける。

 すると青野は、感情の抜け落ちたような冷たい声で口を開いた。


「断る。強制的なアンケートは生徒の自主性という本来の目的に反する。そもそも、実現可能性の低い要求を無作為に集めたところで、生徒会のリソースを無駄に消費するだけだ。有意義なデータを得たいなら、まずはサンプリングの――」

「あーもう! ストップストップ!」


 出た出た、これよ! この長ったらしい呪文!

 私は両手で耳を塞いで、思いっきり顔をしかめた。


「ほんっと、理屈っぽーい! かわいくないわね! なにその長ったらしいセリフ、呪文か何か? さすがAクラスのガリ勉君は言うことが違うわね!」

「客観的な事実を述べたまでだ」

「それよそれ! そのカンジ!」


 私はビシッと青野の鼻先を指さした。


「アンタさー、昨日アタシがゲームで組んだ、すっごいムカつくヤツにそっくり! アイツもね、こっちの気も知らないで『ああしろ、こうしろ』『下がれ』って、後方からピーチクパーチクうるさかったのよ!」


 ほんと、思い出しただけでムカついてきた! ZEROめ!

 すると、青野の氷みたいな瞳の奥が、ほんの少しだけ揺らいだような気がした。


「……ほう。それは、君がよほど無謀なプレイングをしたから、相棒が注意したのではないのか?」


 カチーン。

 なんだとコイツ!? まるで、その現場を見ていたかのような言い草じゃない!


「はぁ!? なんでアンタがそんなこと言うのよ!」


 私は思わず青野のジャージの胸倉を掴みそうになって、グッと堪えた。


「アタシの動きは完璧だったの! 相手の攻撃、全部ヒラリヒラリってかわして、ザクッてやってやったんだから! むしろアイツはアタシの圧倒的な才能にビビって、後ろで震えてただけよ! ま、最後はアタシが『サポートありがと!』って大人の余裕で言ってから、華麗にログアウトしてやったけどね!」


 フンッ、と鼻息荒く言い返してやる。

 青野は何も言い返さない。ただ、何かを堪えるように奥歯をグッと噛み締めて、無言で私を見下ろしている。

 その視線が、なんだか痛い。まるで、私の未熟な部分を全部見透かされているような、不思議な圧。


「おい、赤井。あんまりAクラスのヤツを困らせるなよ」


 不意に、私の肩にポンと手が置かれた。

 振り返ると、いつの間にか瀬川君が立っていて、私の前に庇うように入った。


「あいつ、いっつも一人で本読んでるような奴なんだから。青野も、Bクラスの俺たちのノリに無理に付き合わなくていいぜ。なんかあったら俺が代わるからさ」


 瀬川君の笑顔は爽やかだけど、青野君を見る目はどこか「俺たちとは違う側の人間」として見下しているような冷たさがあった。現実の強者としての、圧倒的な自信。


「……誰の庇護も必要としていない。失礼する」


 青野は瀬川の言葉を一蹴し、今度こそ踵を返してスタスタと歩き去ってしまった。


「ちょっと、逃げるなー!」

 私が叫んでも、彼は一度も振り返らない。


「まあまあ、ほっとけよあんなヤツ。もやしみたいじゃん。もっと鍛えないとダメねー」

 舞が私の背中をバンバン叩きながら、呆れたように笑う。

「ほんとほんと! Aクラスってだけで気取ってんだろ。なんか暗ぇよな、あいつ」

 瀬川君の取り巻きの石井剛も、ゲラゲラと笑いながら青野を馬鹿にする。


 みんなの言う通りだ。

 あんな愛想のない、理屈っぽい、一人で壁を作ってるようなヤツ。

 私たちBクラスのワイワイした空気とは、住む世界が違う。気にするだけ時間の無駄。


 なのに。


「ねえ温。あんな地味なAクラスのヤツの、どこが気になんの?」


 隣にスッと並んだひかりが、いたずらっぽい瞳で私を覗き込んだ。


「は、はぁ!? 気になんてなってないし! ただ、ムカついただけ!」

「ふーん。温が自分から男子に突っかかってくなんて、珍しいけどねー」


 ひかりの鋭い指摘に、私は上手く言い返せなかった。

 視線の先では、瀬川君のグループの参謀役・桐島尚也が、瀬川君に何かを耳打ちしている。「瀬川、あんなやつ気にしてるんだ?」なんて声が、風に乗って微かに聞こえた。

 瀬川君は余裕の笑みを崩さなかったけれど、空気が少しだけ嫌な感じに淀んだのがわかった。


 遠ざかっていく、青野冷の細い背中。


(なんで……)


 なんで、あんなヤツに何か言われただけで、こんなにムキになっちゃうんだろう。

 なんで、あいつのあの氷みたいな目で見られると、心臓の奥がチクッてするんだろう。


 あいつは「変なやつ」だ。絶対に関わらない方がいい。

 ……でも。


(なんか……ほっとけないんだよね……)


 自分でも説明不能の、小さな『違和感』。

 それが、私の心の中に芽生え始めていることに、私はまだ気づきたくなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ