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第23話 夜の電話 準決勝(前編)

スマホの液晶画面を虚ろな目で見つめながら、赤井温は休日の自室のベッドで丸まっていた。

画面には、親友たちからのメッセージが並んでいる。


『ひかり:あんたも意地張ってないで、自分から話しかけなよ。どうせゲームやりたくてウズウズしてるんでしょ?』

『舞:あいつのチキンっぷり、昨日壁に押し付けて叩き直してやったから。もし連絡来たら、出なさいよ』


「……分かってるよ。悪いのはアタシなんだから」

温は小さく呟いた。

青野の大舞台のプレッシャーを一番分かっていたのは自分だ。それなのに、強い力(UR)を手に入れたことに浮かれて、彼の負担も考えずに直感で勝手な動きを押し付けた。

一緒に勝ちたかったのは、他ならない自分の方だったのに。


ピリリリリ、とスマホが震えた。

画面に表示されたのは『青野冷』という無骨な文字。

温は大きく深呼吸をし、震える指で通話ボタンをタップした。



「……もしもし」

『……』


スピーカーの向こう側からは無音。だが、微かな息遣いだけが聞こえる。やがて、絞り出すような不器用な声が、静寂を破った。


『……俺が、悪かった』

温の目がわずかに見開かれる。あの絶対に自分の非を認めない理屈の塊が、論理抜きで謝罪の言葉を口にした。


『お前の直感バグを排除しようとしたのは、効率のためじゃない。……ただ、これ以上傷つくのが怖くて、お前を自分の手の中に閉じ込めたかっただけだ。お前を失って、また一人に戻るのが……怖かった』

吐息混じりの、正直すぎる自己開示。

温は瞳に涙が浮かぶのを感じながら、口元だけでふっと笑った。


「ばぁか……。アタシの方こそごめん。ゲームでも現実でも、青野ならなんの文句も言わずに合わせてくれるって、甘えすぎてた」

『……』

「でもさ、青野」

温はベッドから立ち上がり、窓の外の星空を見上げた。

「アタシ、もう鳥かごに入って戦うのはごめんだからね。アタシの直感、全部カバーできるわけ?」


『――当然だ』

電話の向こうで、青野の声がかつての揺るぎない、絶対的な『ZERO』のそれに切り替わった。

『これからはお前の直感のすべてを、俺が完璧なロジックでカバーする。だからもう一度、俺の横で飛んでくれ。……温』

「任せなさい、冷!」


その瞬間、切れていた二つの歯車が、かつてない完璧な精度で噛み合った。



( 準決勝 ── Tempest & Raven)


翌日。本戦トーナメント・準決勝。

実況席のテンションが最高潮に達する中、俺(ZERO)とScarletは仮想アリーナの転送ゲートをくぐった。


『さあ、Dブロック王者 "Tempest & Raven" 対 Cブロック王者 "ZERO & Scarlet" の準決勝がいよいよ開幕します!』


対面に立つ二人のアバターを、俺は冷静に分析していた。

Tempest――重厚な両手剣を背負った機動騎士型のアバター。Dブロックを圧倒的な前衛火力で勝ち上がってきた近接の猛者だ。SSR『ブレイドダンサー』を核にした超攻撃型デッキの使い手で、トーナメント中の前衛撃破率は堂々のブロック一位。

相棒のRaven――漆黒のロングコートを纏った射撃型アバター。冷静沈着な狙撃手で、SSR『ストームアーチャー』による長距離精密射撃と、SSR『ゲイルメイジ』の風系魔法サポートを組み合わせた制圧型後衛である。


(前衛火力と後衛精度のバランスが取れた、隙の少ないタッグだ)


配信画面の向こう側では、おそらくNight HoundとVikingもこの試合を観ているだろう。「ZEROとScarletは崩壊した」という噂が流れている中での、復帰戦。

俺たちの最適解アンサーを、ここで示す。


【 MATCH START 】


    *    *    *


「Scarlet、序盤は無理に前に出るな。まず布陣を――」

『了解! でも、あんまり縛らないでよね? 今のアタシたちは鳥かごじゃないんだから』

「……ああ。分かっている」


俺はSSR『ミストメイジ』を自陣後方に展開し、魔法『アンノウンミスト』を発動した。三×三マスの濃霧が自陣を覆い隠し、SSR『マッハガンナー』をその中に潜ませる。R『アーチャー』を右翼の岩場に配置して偵察態勢。

対するScarlet側は、SSR『レーザーナイト』とSSR『ホーリーナイト』を中衛に並べ、本命のUR『大天使ミカエル』は――まだ出さない。相手の出方を見てから切り札を出す。以前の温なら「とりあえず最強出す!」と言っていたところだ。昨夜の和解が、彼女のプレイスタイルにも明確な変化アップデートを与えていた。


対面では、Tempest側がSSR『ブレイドダンサー』とSR『シールドナイト』を前線に並べ、Raven側がSSR『ストームアーチャー』を後方高台に配置。さらにSSR『ゲイルメイジ』が中衛に展開されていた。


(敵の合計コスト四十。SSRが四枚。火力の厚さでは、UR一枚の俺たちと互角かそれ以上――)


開幕から三十秒。偵察フェーズが終わり、両陣営が激突する。


    *    *    *


Tempestが先手を打った。ブレイドダンサーが、凄まじい突進速度でScarletのレーザーナイトに斬りかかる。

三連の斬撃――速い。トーナメント前衛撃破率一位は伊達ではない。レーザーナイトの光剣で受け止めるが、ブレイドダンサーの連撃はSSR同士の正面衝突において明確に有利を取っていた。


同時に、Ravenも動いた。後方高台のストームアーチャーから、長距離の矢が飛んでくる。

その矢の目標は――俺の霧ではない。レーザーナイトだ。


「全火力をScarlet側に集中してきた――!」


Tempestの前衛突破力と、Ravenの長距離精密射撃。その両方が、Scarletの前衛ユニットに集中する。TempestとRavenの連携は極めて洗練されていた。ブレイドダンサーがレーザーナイトの受けを崩した瞬間に、ストームアーチャーの矢が正確にレーザーナイトの隙間を貫く。


「まずっ――SSRレーザーナイト、やばいっ!」

Scarletが叫ぶ。見る見るうちにレーザーナイトのHPが削れていく。このままでは、Scarlet側のSSRが一方的に壊滅する。


「Scarlet。ミカエルを出せ」

『もう出していいの!? 相手の出方を見てからじゃ――』

「相手の出方は見えた。全火力集中型だ。ミカエルでなければ受けきれない。出せ」

『了解! ―― UR 大天使ミカエル、展開!!』


白銀の甲冑と六枚の翼。基礎HP一三〇〇、常時エアリアル――空の女王が戦場に降臨する。


瀕死のレーザーナイトに代わってミカエルが前面に出た瞬間、戦場の質が変わった。

Tempestのブレイドダンサーが斬撃を叩き込む――ミカエルが無限ジャンプで空中に逃れる。ストームアーチャーの精密射撃が追いかける――空中機動で軌道を外される。ゲイルメイジの風魔法が展開される――ディヴァインチャージの光速突進で範囲外に離脱。


「……当たらない」

Tempestの呻きが、観客席のどよめきに呑まれる。UR大天使ミカエルの常時エアリアル――ジャンプ回避のクールダウンがゼロ。SSRの攻撃では、空を自在に舞うこのユニットを捉えきれない。


『当たらないわよ、アタシのミカエルには!』


四人が注ぎ込んだ全火力を、たった一体のURユニットが空中機動だけで完璧に翻弄していた。


    *    *    *


だが、敵も馬鹿ではない。


Tempest:「Raven、作戦変更だ。ミカエルは俺が抑える。お前はZEROの後衛を潰せ」

Raven:「了解。風を送る」


――前衛は前衛に。後衛は後衛に。

作戦を切り替えたRavenの狙いが、Scarlet側から俺の霧へと移った。


ストームアーチャーの長距離矢が、霧の中へ射ち込まれてくる。

最初は霧に隠された位置が分からず、適当な方角への牽制射撃だった。

だが――三射目で、矢が俺のマッハガンナーのすぐ横を掠めた。


(……読まれている。マッハガンナーの射撃軌道から、俺の座標を逆算されている)


ゲイルメイジの風魔法『ウィンドブラスト』が展開される。突風が霧の端を薄く吹き散らし、一瞬だけ霧の中の視界が開ける。その一瞬の隙を逃さず、ストームアーチャーの矢がマッハガンナーの肩を貫いた。


「っ――!」

HP七五〇のマッハガンナーが、一撃で二割削られる。

(この精度……。Ravenの射撃技術は、Dブロックで磨き上げられた本物だ)


ミストメイジのホーリーミスト(毎秒十五回復)でマッハガンナーのHPを回復しつつ、俺は霧の中で細かくポジションを変えた。だがRavenは執拗に矢を送り込んでくる。風で霧を薄め、軌道を逆算し、一発、また一発と確実に俺の後衛を削っていく。


マッハガンナーが反撃の連射を返すが、ストームアーチャーは射程四マスの高台から射ってきている。マッハガンナーの射程三マスでは、そもそも届かない。


(一方的に撃たれている。射程差と高度差で、俺のマッハガンナーでは撃ち返せない角度だ)


ミストメイジの霧のおかげで即死は免れているが、ジリジリとHPリソースが削られていく。SSRユニットしか持たない俺の後衛は、敵のSSR射手に対して「霧による生存」以上のことができない。

これが、UR未所持という絶対的なステータス差の限界だと痛感する。


(……正直に言えば、きつい。だが、ここで俺が耐えきれば――)


俺は歯を食いしばりながら、霧のクールダウンを緻密に管理し、マッハガンナーの位置を一マスずつずらし、ミストメイジの回復で綱渡りのように後衛ラインを維持し続けた。

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