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第13話 勝者たちのリプレイ

『やったああああっ! ブロック一位!! 見て見て、レーザーナイトのスキル演出やばくなかった!? 光がバシャーッてなって、ズドンって!!』


「言語化能力が幼稚園児レベルだな。だが――まあ、出すタイミングは悪くなかった」


『でしょでしょ!? やっぱSSR最高!! 一生ガチャ引いて良かった!!』


「お前のガチャ石消費ログは見ない方がいいと何度言えば――」




 軽口を叩きながら、俺は冷静にリプレイを巻き戻していた。


 この試合の勝因を論理的に分解する。


 毒沼の破壊。ElfMageの詠唱座標の推測。Catの偵察。Gunnerの弾でブレイクゲージを削った配分。そして最後に――詠唱が安全に通せたのは、敵のElfMageをあらかじめ潰しておいたからだ。MAP上で魔法干渉できる駒が消えた盤面なら、俺のElfMageは自由に詠唱できる。




 だが、と俺は思う。


 これは相手が「中堅」だったから成立した戦術に過ぎない。




 俺は対戦表のウィンドウを開いた。


 本戦トーナメント。決勝で当たる可能性が最も高いAブロックの一位通過タッグ――。




 『Viking & Night Hound』




 公式ランキング最上位に君臨するタッグ。


 Vikingのアクション操作は化物級だ。Scarletの反射神経に匹敵する上、盤面把握能力はScarletより上で動きの無駄も少ない、極めてバランスの取れた前衛。だが今の俺にとって、Vikingよりも恐ろしいのはそのタッグ相手の方だった。




 Night Hound。


 後衛――シミュレーション側のプレイヤーとして、このゲームで最も恐れられている男。




 俺はNight Houndの過去のリプレイを片端から再生した。何度も見た映像だ。見るたびに、背筋が冷たくなる。


 Night Houndの射撃の精度は異常だった。Gunnerの〇・三秒の着弾予告――あの一瞬で敵の回避タイミングまで読み切って、別ユニットで正確に追撃をかけている。しかも同時にMAP上の全ユニットへの指示が全く途切れない。敵のElfMageに詠唱をさせる隙がゼロ。地形カードの配置が常に最善手。一手も無駄がない。


 そして何より――Night HoundのパートナーであるVikingが持つSSR『鉄将軍(Iron General)』がいる。あの巨体がマップ上に立つだけで、後方のNight Houndの魔法ユニットへの射線を完全に遮断する『ボディブロック』が成立してしまう。




 ボディブロック。射撃弾はユニットを貫通しない。途中にユニットがいれば、そこで弾が止まる。だから高レアSSRの巨体ユニットが物理的に壁になれば、その後ろにいる詠唱者は誰にも邪魔されない。絶対に魔法が通る。


 それは、このゲームにおいて最も基本的で、そして最も対処が難しい戦術だった。




 今日の試合で俺がやったような――相手のElfMageを先に潰してマップ上の魔法干渉手段を消す、という戦術は、Night Houndには通用しない。なぜなら鉄将軍の後ろで詠唱するElfMageに、俺の射撃は物理的に届かないからだ。




 ……それだけじゃない。


 Night Houndの本当の恐ろしさは、反射神経すらシミュ側に完璧に備わっていることだ。


 MAP上で敵の射撃に対する回避コマンド――Sniperの射撃の予告線が出てから弾が届くまでの間に、被弾するユニットにタイミングよくジャンプ回避を入力する。あのNight Houndは、それをMAP上の全ユニットに対して同時にこなすのだ。


 シミュ側の操作精度が、Scarlet並みの反射神経で裏打ちされている。後衛でありながら前衛レベルの反応速度。そして加えて、盤面全体を完全に掌握する思考の深さ。


 シミュ側で圧倒的優位に立ち、前衛担当のVikingのユニットが、射撃や魔法で弱らされたボロボロの相手前衛をゴミのように蹴散らす。あとは無力な後衛だけになり、ゲームエンド。無敵のアルゴリズムだ。




 俺は静かにリプレイを閉じた。


 後衛対決――シミュ側同士の盤面対決で、俺はNight Houndに勝てるビジョンが、今この瞬間、一つも描けていなかった。




『Zeroー? 聞いてる? 次は本戦だって! トーナメント! すごくない!?』


「……ああ。聞いている」


『もー、暗い顔しないでよ! 予選一位通過したのに!』




 暗い顔、か。画面越しなのに、なぜこいつは俺の表情が分かるのだろう。


「暗くはない。次の対策を論理的に組み立てているだけだ」


『ふーん。じゃあ一つ聞いていい?』


「なんだ」


『まだ勝ち方分かんないんでしょ? アンタ、分かんない時ほど黙るから、バレバレよ』




 図星を突かれて、俺は一瞬だけ言葉に詰まった。




『別にいいわよ、それで。だってアンタ、いつもギリギリで答え出すじゃない。さっき毒沼ぶっ壊した時だって、あれ試合中に思いついたんでしょ?』


「……演算結果が出たのは〇・八秒前だ」


『ほらね。アンタはいっつもそう。追い詰められてから天才になるの。だからアタシは、アンタが「まだ勝ち方が分からない」って言ってても、全然怖くないわけ』




 Scarletの言葉は、理詰めの俺には到底出せない種類の――なんと言えばいいのか。


 信頼、とでも呼ぶのだろうか。根拠のない、非論理的な、だからこそ何かを強く動かす力を持った確信。




「……お前のその自信は、統計的に見て完全に根拠がない」


『根拠とかどうでもいいの! アタシがそう思ってるんだからそうなの!』


「非論理的にもほどがある」


『うるさい! いいから早く二十三パターンのデッキ案送りなさいよ! 今日中に全部見てやるから!』


「お前のその処理能力で理解できるのか?」


『理解しなくていいの! アンタが選んだやつを信じるから! ただ見せろって言ってるだけ!』




 俺は、ほんの少しだけ――本当に少しだけ、口角を上げた。


「……悪くない返しだ、相棒」


『えっ……あ、い、今なんて――』


「聞こえなかったならそれでいい。通信を切るぞ」


『ちょっ、待ちなさいよ! 今絶対いいこと言った――!』




 ブツッ、と通信を切った後も、耳の奥で彼女の騒がしい声が残響のように鳴っていた。


 不思議と、不快ではなかった。




 俺は画面に向き直る。


 Night Houndのリプレイフォルダ。三十二試合分のデータ。


 一つ一つ分解して、隙を探す。たとえ今は見つからなくても。




 ――Scarletが信じている限り、俺が答えを出せない試合は存在しない。




 そんな非論理的な確信が、冷徹であるはずの俺の胸に、小さな熱を灯していた。

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