第11話「雨」
VERTEX racing事務所。
書類仕事を進めていたが、やはり昨日の田邊の引退が頭から離れなかった。
「…き、大輝、どうした、ボケっとして。」
「あ、いや、すみません。」
止まっていた手を動かし始める。
「実はな、合同テストの話が来た。セルモ、TOM'sの2チームと合同だ。」
「まじですか!ぜひ行きたいです!」
「すでに開催は決定している。場所は鈴鹿だ。来週だから、早めに荷物準備しておくんだぞ。」
「分かりました!」
翌週の鈴鹿。
「あいにくの雨っすね〜。」
ピットの外ではシトシトと雨が降っていた。
「そうだな。そういや、何気に松下、雨のSFは初じゃないか?」
「そうですね、確かに今までの大会全部晴れか曇りでしたね。」
「じゃあ、SF初のレインコンディションでのセッションか。いつもとは挙動が違うぞ?」
「そんなにですか?」
「あぁ、ハイパワーだからな。マシンもガラッと性格が変わる。」
「分かりました。気をつけます。」
3チームのメンバーが全員集まり、挨拶を交わす。
「さぁ、早速テストやっていきましょう!」
6人がマシンに乗り込み、エンジンを始動させる。
観客のいない鈴鹿サーキットに6台のエンジン音だけが響き渡る。
「うおっ。ウォータースクリーンエグすぎだろ…前見えねぇ。」
最高時速300km/hに迫る空力の化け物が巻き上げる水しぶきは恐ろしい。
うっすら奥の方でレインランプを光らせた誰かがいるのがわかる。
ブレーキング!
マシンが少し滑る。恐怖を感じる。
「ひぇぇ。怖いよぉ。」
『松下、無線ダダ漏れだぞ。お前本音漏れまくりだ。』
「す、すいません。」
雨の中周回を重ね、6台のうち3位タイムまで上がってこれた。
その時、
ブオンッ!
エンジンの方から異音が聞こえてくる。
その瞬間マシンの加速が鈍くなる。
まさか、と思い、ギアを2速から上げてみようとする。
「やっぱり…ギアが死んだ。」
コースサイドにマシンを止める。
『松下、何があった!?』
「ミッションブローです。ギアが上がりません。多分ピットまで戻れません。すみません。」
『そうか。とりあえずエンジンを切ってマシンを降りてくれ。マーシャルと一緒にパドックまで来てくれ。』
「分かりました。」
その会話を最後にマシンから離れた。
「だぁ〜、んでギアがここぞというとこで壊れんだよ〜。最悪すぎ…」
ピットに戻って来ると5台が整備を受けていた。
「あ!大輝戻ってきた。大丈夫?」
「うん、マシンは壊れたけどね。」
「何があったん?」
「多分ミッションブローだと思う。全然加速しなくなってギアが上がらなかった。」
「そうなんだ。じゃあ、交換?」
「すまんな大輝、予備のトランスミッションは持ってきてないんだ。交換はできない。」
「そうなんですね、分かりました。じゃあ、片付けちゃっていいですか?」
「そうだな。もう走行はできないだろうからな。すまんな。」
「大丈夫です。」
トレーラーの中で着替え始める。
「はぁー、まさかギアが壊れるとはな…もっと走りたかった。雨の中。」
ドアを叩く音が聞こえる。
「はい?どうぞ?」
「あ、いた、松下、ちょっとさ、みんなの走り見てくれない?」
「ここからなら鈴鹿の前半区間が見れるから、それを見て感じたことを書き留めといてほしい。それをあとで5人に伝えてくれ。」
「分かりました」
「う〜ん、萩原はコーナーで膨らみすぎだな。もうちょっとエイペックス(コーナーの頂点)に寄れそうだな。」
「これ…楽しいぞ。」
「ただいま戻りましたー」
「ざっとこんな感じでした。」
「おうありがとうな。」
「そういえば代表、うちのチームのトレーラーあるじゃないですか。」
「あるね。」
「あれのサイドにDream racing Projectのプリント跡みたいなのがあったんすけど、あそこと何か関係あるんですか?」
「あぁ、気づいたんだ。実はこのチームはもともとDream racing Projectのスーパーフォーミュラチームだったんだ。だが、あっちが財政的に苦しくなってな、そこを譲ってもらったのがこのVERTEXなんだ。」
「そうなんですね。じゃあ、去年のDRレーシングってチーム名は?」
「それは向こうからのお願いでね、2つのチーム名を合わせたような名前にしてほしいって言われてね、DreamのDRとVERTEXracingのレーシングをとって作ったチームだ。」
「チームの歴史みたいなの知れてよかったっす。ありがとうございます。」
「おう。さぁ、切り替えて次の富士に向けて頑張るぞ!」
「おぉぉ!」ピットにいたメンバー全員で叫ぶ。




