第12話「交代」
迎えた富士大会。
予選の結果は
10号車 田邊 4位
31号車 松下 15位という結果だった。
「松下、今回は一つでも上の順位でゴールすることを目指せ。いいな?」
「はい。」
自分の中にはあのことが残っていた。
田邊の引退。
それがこの大会なのだ。
本当は1年間一緒に戦いたかった。
でもそれは叶わない。
田邊の目には異常が出ているのだ。もう、レースはできないかもしれない。
「松下、あれだろ。田邊の引退が嫌なんだろ。お前本当に顔に出やすいな。」
「え…。すみません。」
「なんで謝るんだよ。田邊の引退はこっちも辛い。チームタイトルを支えた張本人だからな。」
「そうですよね。」
「だが、世代の交代というものは必ずいつか来る。それが今日来てしまった、ということだ。いずれお前や永野、萩原たちがこの日本のレースを引っ張っていくんだ。その準備だと思えば、どうだ?」
「そう考えれば頑張れそうです。」
「よぉし、じゃあ、お前の本気を見せてみろ。田邊が安心してチームを離れられるようにな。」
「分かりました。」
バシバシと肩を叩かれる。
フォーメーションラップを終え、グリッドにつく。
セルモの2台、萩原が近くのグリッドにいた。
「萩原、根岸、永野。お前と一緒にいずれはレースの世界を引っ張っていく…だとよ。本当にそうなるといいな。」
レッドシグナル点灯。
ブラックアウト。田邊との最終レースも幕を上げた。
迫る1コーナー。
混乱する中を切り抜け、10位にアップ。
1周目
10号車 田邊 1位
31号車 松下 10位
集団がほどけ、レースに落ち着きが訪れる。
前には永野駿。
「永野。九州のリベンジだ。」
OTSで一気に差を詰め、1コーナーへ。
あの時と条件はほとんど同じだ。
だが、同じ過ちはしない。
「松下、またやるなよ?」永野もつぶやく。
2台がサイドバイサイドのまま1コーナーへ。
時速300km/hからフルブレーキング!
「ここだ!」アクセルを踏み込む。
リアタイヤが滑る。
その勢いのまま加速。順位アップ。9位。
「何だよ…ヒロくん。あれは無謀すぎるよ。でもやっちゃうんだな。」
さっきの追い抜きは確かにとてもリスキーなものだった。最悪スピンしかねなかった。
どういうことかというと、2台横並びのままコーナーへ進入。
そのままだとまた永野に抜き返されてしまうところでドリフトを使い、最短のライン取りでクルマの頭をコーナーの出口に向け脱出するというものだ。
これは自分がスピンするか、最悪永野を巻き込んで2台ともレースから離脱する可能性もあった。
レース31周のうちの14周。
『松下、ボックス、ボックス!』
タイヤを変えコースへ。
「今日は調子いいぞ。乗っていて楽しい。」
ぐんぐん追い上げ、また追い抜く。
フィニッシュラインを通過する。
『ポジション12、ポジション12、よくやった。今日のペース良かったぞ。お疲れさま。』
「ありがとうございました。こっちも乗ってて調子良かったです。夏休み明けの大会も頑張りましょう。」
無線での会話を終えると目の前を田邊が走っていた。彼は今日、2位でレースを終えた。
ランデブーで走り、ホームストレートに戻って来る。
そこで田邊はピットのポディウムボードへ。2台が分かれる形になる。
「どうですか、田邊先輩。自分も今日は結果示せましたよね。」そうつぶやき、マシンを降りる。
ヘルメットを脱ぎ、監督に伝える。
「楽しかったぁー!監督、本当に前半戦ありがとうございました!」
「なぁに、最終戦みたいなテンションでいるんだ、まだ夏休み明けたら大会たくさんあるんだぞ。」笑顔で言ってくる。
「はい!」元気に返事する。




