第10話「引退」
九州は大分にある、オートポリス。
予選の結果、2人の順位は以下の通りになった。
10号車 田邊 6位
31号車 松下 12位
「いいか、松下、今回もぶつけずにスタートすることを意識しろ。そしたら自分のペースで行け。いいな。」
「了解です。」
レーススタート。
九州の空に23台のエンジン音が響き渡る。
レースも折り返しに差し掛かったころ、ピットインの無線が届く。
『この周ボックス、この周ボックス。』
「ピット入ります!」
タイヤを交換し、心機一転、再びレースに戻る。
目の前にはセルモの永野。
「負けられないな。これ。」後ろ姿を見ながら呟く。
オートポリス名物のジェットコースターストレート手前のヘアピンコーナーで勝負に出る。
しかし…
ギュワッ!!
ゴムがこすれる音が響き、煙が上がる。
「ロックアップだ…やっちまった…」
止まりきれず、グラベルに飛び出す。
39号車に乗る永野はミラー越しに飛び出していく松下を見ていた。
「大輝…あんな無茶な突っ込み方、そりゃそうなるって。」
ちなみに大輝が起こしたロックアップとは、ブレーキの踏力が強すぎるとタイヤの回転を止めてしまうものでタイヤには大きなダメージを与えてしまう。大きなロックアップだとタイヤにフラットスポットという平らな面ができてしまい、最悪バーストを招いてしまう。
「すみません、さっきのロックでタイヤに結構ダメージが入りました…タイヤ交換お願いしたいです。」
『了解、そのままピットに入ってくれ。』
もう一回タイヤ交換を行う。
『残り5周、やれることをやっていこう。』
「了解。」
結果、前のマシンとも大きな差があり、追いつくことはできないため、残りはマシンを温存するためにペースを落として周回を重ねた。
『チェッカーフラッグ、チェッカーフラッグ。お疲れ様。P22、P22。パルクフェルメで会おう。』
決勝レースは次のような結果になった。
10号車 田邊 11位
31号車 松下 22位
両者ともにポイントを逃すことになった。
マシンを降り、ピットに戻る。
「つっかれたぁ…寝ようかな…」
ウトウトしたところで誰かに起こされる。
「…い…おい大輝!なに休んでるんだ?」
「あ、代表すみません。」
「お前はチームで一番歴が浅いんだ。気づいたら行動して先輩の集中しやすい環境を作れ。新人には毎年そう教えてるんだ。」
「分かりました。」
テントを出てトレーラーの横を通り抜けようとする。
「ん?このトレーラーのプリント、何かを剥がしてその上にラッピングしてある…」
日の当たり加減を変えるとその謎が解けた。
そこには…
「なんでDream racing Projectの名前がこのトレーラーにあるんだ…?」
その何か剥がした跡はDream racing Projectのチーム名のものだったのだ。
驚きつつもガレージへと向かい、撤収作業を手伝う。
すっかり日も落ち、辺りは真っ暗になっていた。
「よし!松下、呑みに行くぞ!俺が奢ってやる!」田邊が後ろから肩を組んでくる。
「はい!」
2人で居酒屋に入る。
ビール、食べ物も届き、小さな宴が始まる。
「それじゃあ、かんぱーい」
ジョッキ同士が軽く当たる。
「どうだ、SFは慣れたか?」
「そうですね…まぁステアリングのスイッチの使い方とか結構慣れてきました。でもマシンパワーにはまだ対応しきれないですね。」
「そうなのか、あんなに走れてるしてっきり慣れたものかと思ったよ。」
「いやぁ…きついっすよ。」
「話が変わるんだが実は相談があるんだ。」
「なんですか?」
「実は俺、今年の前半戦でSFを引退しようと思うんだ。」
「引退…引退!?どうして?先輩は表彰台にも上がってるし、まだ争えるじゃないですか!」
「これを見てほしい。」
そう言われ、目の前に紙が1枚出される。
「実は飛蚊症の診断があったんだ。まだ初期症状ではあるが…」
飛蚊症、それは視界に蚊のようなひらひらしたものが常に映り続けるというものだ。
「そうなんすね…」目の前で起きていることが信じられなかった。




