↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
川野課長の憂鬱〜ブルーでライトな横浜凱旋〜  作者: 桃山あんづ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/49

白い光

(ん⋯眩しい⋯)


ゆっくりと目を開けると、そこは沢山の光に包まれた、真っ白な世界だった。


川野は、驚きと不安の中で必死に目を凝らしたが、あまりにも明るくて眩しいため、周りがよく見えない。


唯一目の前に、誰かが立っているのが分かるくらいだ。



「ソレデハ、チカイノKissヲドウゾ。」



聞き慣れない、落ち着いた男性の声が響き渡った。


その言葉を合図に、パイプオルガンの音色が心地良く流れ出し、目の前の人物が川野の視界を広げて行く。


黙って固まり、されるがままの川野。



そこは、真っ白なチャペルだった。


(こっ、これは!結婚式!!)


彼女は、自身のフワフワな腰回りを軽く撫で、白いウェディングドレスを着ていることを理解した。


そして、目をじろりと動かし、辺りを見渡した。


きっと、あの焦げ茶色の重厚な扉から入り、赤いバージンロードを歩いて、祭壇の前まで上がって来たのだろう。


眼鏡を掛けた、穏やかで優しい顔をした牧師の背後には、大きくて立派な十字架。

その周りには窓がいくつかあり、外から日の光が差し込んでいる。


川野の顔を覆っていた柔らかな白いベールを、両手で丁寧に頭上まで上げて、微笑みかける男。


白いタキシードに身を包み、甘い表情を浮かべるその姿は、溜め息が出るほど美しい。


(哲也君⋯)


いつも以上に麗しい彼を目にした川野は、思わず恍惚な表情を浮かべた。



「光、綺麗だよっ。幸せになろうね。」



そう言って、超絶ハンサムな顔を近づけて来る山本に、頬を赤らめながらも、そっと目を閉じて答える川野。



その時だった。



バンッ!―



「ちょっと待ったー!!」



焦げ茶色の扉を勢い良く開け、“ストップ!”と片手の平をこちら側に向けながら、一人の男が駆け込んで来た。


長めの前髪をセンターからふわっと分け、銀色のタキシードに身を包み、片手には赤いバラの花束を持っている。


「⋯佐渡君!?」


こんなドラマみたいな事が起こるのか?

山本との、誓いのキスどころでは無くなってしまった。


佐渡は、赤いバージンロードをズカズカと進み、川野の前で跪いた。



「川野さん、いえ、光さん!やっぱり僕は、あなたを諦めきれません!僕と結婚して下さいっ!!」



彼は、力強く愛の言葉を告げて、50本はあるであろう、大きなバラの花束をバサッと差し出した。



「そ、そんな⋯。」



川野が、佐渡のド直球なプロポーズに戸惑っていると、次は黒いタキシード姿の男が、カツッ、カツッとゆっくり靴音を鳴らし、会場の端から歩いて来た。



「やれやれ、酷い結婚式だな。しかし光、お前は真実の愛を分かっていない。本命はここにいるだろ?」



その男は、テッカテカに黒髪を塗り固めてオールバックにし、ツーブロックを際立たせた湯川だった。


佐渡と同じく、川野の前で立ち止まり、悩ましげな顔をして少し格好をつけている。



(オイオイ⋯何であんたまで出てくるんだ⋯もう、滅茶苦茶!!)



晴れ舞台を盛大に乱され、今にも泣きそうな、情けない顔をする川野。



「湯川次長!私とあなたは以前からも、そしてこれからも、そういう関係にはならないので!!」



佐渡のプロポーズには、返す言葉に詰まったくせに、湯川には容赦なくNO!を突きつける川野。


しかし、怯まない湯川。



「違う、違う!お前は、全然分かっていない。お前を幸せにしてくれるのは、山本でも、佐渡でもない!!」



湯川の、迫力のある低い声がチャペル中に響き渡った。

そして彼は、脇に抱えていた物を川野に押し付けた。



「お前を幸せにしてくれるのは、これだろ?誓え、ここで永遠の愛を誓えー!!」



川野が、湯川の圧力に負けて受け取ったものは、束になった膨大な書類と、自身のノートパソコンだった。



「はははっ!そうだ!お前は仕事と結婚すれば良いんだ!」



仕事道具を渡し切った湯川は、白い歯を見せながら豪快に笑った。



「光と結婚するのは、俺だろ?」


「いいえ光さん、まだ間に合います。僕と結婚しましょう。」


「光!!お前には、仕事一筋が一番お似合いなんだよ!」


「光⋯」


「光さん⋯」


「光⋯」


「あぁぁぁ〜!!!」





ガバッ!!―


チュン、チュン―



川野が飛び起きて辺りを見渡すと、そこはいつものリビングの、ソファーの上であった。

寝間着代わりのTシャツの首元が、ぐっしょりと汗ばんでいる。


「光⋯大丈夫?」


「川野さん、おはようございます。随分とうなされてましたね⋯。」


ローテーブルの向かい側でちょこんと座り、心配そうに彼女を眺めている山本と佐渡。



「どっち!?」



川野の頭の中は、まだ混乱している。

結婚式を無事に挙げられたのか、それとも⋯。


彼女はそれっきり黙り込んで、男前な顔で腕を組み出した。


「ふふふっ、悪い夢でも見たんだね。高い所の夢?それとも、上司に怒られる夢かな?」


川野の険しい表情に、思わず吹き出す山本。


「書類を抱いて寝るなんて、川野さんはよっぽど仕事が好きなんですね。」


山本の隣で、ニヤニヤと笑う佐渡。



そうだ、自分の結婚式なんて、まだ会場も日程も決まっていないはずだ。


きっと、佐渡が家に泊まるというイレギュラーな出来事があったから、こんな夢を見てしまったのだろう。


川野は、2人の笑う姿を見て安堵し、ようやく落ち着きを取り戻した。


「おはようございますっ。」


そう言って彼女は、スタスタとベランダの方に向かい、カーテンとバッと開けた。


今日は快晴だ。


(夢で良かったー!!)


窓を開け、爽やかな外の風を部屋に招き入れた川野は、空を見上げながら、気持ち良さそうに両腕を伸ばした。



「私は、支度が済んだら一足先に出るので、朝ごはんは哲也君と食べて行ってね!哲也君、いつもすみませんが宜しくお願いします。」



「はいはいっ。恵介は、温かい手料理に飢えてそうだから、俺が美味しい朝飯を作ってやるよ☆」



「チッ!世話になっててあれだが、お前は一言余計なんだよ!」



素直じゃない2人の、仲良いやり取りに、川野はクスクスっと笑うのであった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。