日付が変わる頃
立ち飲み屋で山本は、佐渡に向かって両手を広げ“不平不満を何でもぶち撒けてくれ!”などと、言ったらしい。
佐渡は、始めは黙って烏龍茶をチビチビと飲んでいたそうだが、山本がひたすら熱い視線を送って来るので“貸せっ!”と、彼の飲んでいたジョッキを奪い、グビグビと一気にビールを煽ったらしい。
そこからは、言わずもがな。
酒が入った佐渡を誰も止められはしない。
出てくるわ出てくるわ、川野への未練や山本への恨み辛み。
話はエスカレートして、自分と川野の2人きりの思い出(仕事中も含む)まで語りだした。
山本は散々、佐渡から毒を浴びせられたが、ずっと彼から目を離さなかった。
隣でただ、ひたすら優しく相槌を打ち、彼が涙ぐめば、そっとハンドタオルを差し出したのであった。
そして、佐渡が気の済むまで話し終えた後、彼の肩をポンポンッと叩き、ビールを2杯注文した。
「色々あったな、俺もお前も。⋯光の事は、ちゃんと幸せにするからさ。」
「クッ⋯⋯。そんな事、俺だって分かってるんだよっ!⋯川野さんを泣かせたら、承知しないからなっ。乾杯っ!!」
カチャンッ―
こうして2人は、無事に仲直りをしたのだったが、事の詳細は男同士の秘密と言う事で、川野には話されなかった。
夜食を食べ終えた3人。
気が付けばもう、日付が変わる時刻だ。
「さてと、そろそろ僕はお暇させて頂きます。川野さん、今日はまさか、あなたの顔を拝めるとは思ってもみなかったので、とても嬉しかったです。そこは、山本にも感謝してます。」
佐渡はソファーから立ち上がり、綺麗なお辞儀を見せた。
「何だよっ、帰るのか?せっかくだから泊まって行けば?」
食事中も、ずっとハイボールを飲んでいた山本は、かなり酔っ払っている。
「ちょっと、無茶な事言わないの!佐渡君は潔癖症だし、他人の家に泊まる訳ないでしょ?だいたい、どこで寝てもらうのよ!」
川野は、その場の気分で物を言う山本を、叱り飛ばした。
「えっ?良いじゃーん!寝巻きと明日のYシャツは、俺のを貸してやるから。寝床だって、何とかなるよ〜!」
山本は口を尖らせ、駄々をこねだした。
両腕を組み、佐渡が眉間に皺を寄せている。
「佐渡君だって、迷惑だよね?ごめんね、この人がワガママ言って。」
機嫌が悪くなったと思い、川野はペコペコと頭を下げた。
「⋯⋯じゃぁ、お言葉に甘えて。」
佐渡の意外な言葉に、唖然とする川野と、両手を上げて無邪気に喜ぶ山本。
「イェーイ☆お泊り会だっ!じゃあ、恵介は俺と一緒にベッドで寝ようなっ。シーツ替えてくる♪光はお風呂入れておいてね!」
すっかりルンルンな山本は、そう言って寝室へと入って行った。
(待て待て待て⋯。)
川野は山本のその背中を、何とも言えない表情で見送った。
リビングに残された川野と佐渡。
「⋯⋯川野さんは、嫌でしたか?」
佐渡がポツリと呟いた。
「いえいえ、元はと言えば、哲也君が強引に連れて来たんだから。この時間だと終電も過ぎてるし⋯。でも、潔癖だけど大丈夫?」
川野は、心配そうに佐渡に視線をやった。
「大丈夫です。⋯以前の川野さんのお宅より、ずっと整ってる様子なので。」
「オイッ!!」
バシッ!―
佐渡のボケなのか本音なのか分からないが、とても失礼な事を言われた川野は、彼の肩に思い切りツッコんだ。
「痛たたっ⋯。フフッ、相変わらず川野さんは、力が強いんですからっ。何だか酔が覚めてきました。お皿洗い、やらせて下さい。」
佐渡は、怒りで鼻息を荒くした川野を見て、自身の肩を擦りながらニッコリと笑った。




