経緯
「ちょっと!2人とも大丈夫!?」
酒が入り、だいぶ出来上がっていて、立ち上がるのもままならない山本と佐渡。
色々と言ってやりたいことはあったが、川野はとりあえず手を差し伸べた。
「ハァッ⋯。お家まで押しかけてすみませんっ。」
川野の手を両手で握りしめ、薄紅色に肌を染めた佐渡が、ガクッと頭を下げた。
「いえいえ、とりあえず中へ入って。」
そう言って川野は、佐渡の片腕を引き上げて支えながら、リビングのソファーへ案内をした。
「フヌッ⋯はぁ〜〜。結構飲んだっ!」
すっかり上機嫌な山本は、自力で立ち上がり、ニコニコと気持ち良さそうに伸びをしている。
その姿にイラッとした川野は、スタスタと勢い良く玄関へ駆け戻り、彼の片手を掴んで強引に洗面所へ引き込んだ。
「何、何っ!?」
「何じゃないのよっ!何で佐渡君を引き連れて帰って来たの!?」
とぼけた顔をしている山本に、声を抑えながらも、あちこちと手を動かしながら、険しい顔で怒る川野。
「ふふふっ。一度、友達を家に連れて来たかったんだよね〜。恵介も来たいって言うから☆それより光⋯。マスカラが少し、頬に落ちてるよ?」
山本は川野の頬に少し触れ、再びニコニコと笑いながら、リビングへ行ってしまった。
「なんっ!?」
川野が慌てて鏡を見ると、涙で濡れた目の周りの化粧が、だいぶ崩れていた。
(いや、あんた⋯。あんなに深刻そうな顔して出て行ったじゃないか⋯。私の涙を返してくれ。ところで、何がどうなってるんだ?)
彼女は不服そうな顔をして、急いでメイク用品を取り出し、化粧直しにかかった。
そして、なぜ2人が仲良さそうにここまで辿り着いたのか、気になって仕方無い様だった。
「すみませんっ。手を洗いたいのですが⋯。流しをお借りしてもよろしいですか?」
一度はソファーに腰掛けたものの、緊張しているのか、ソワソワとする佐渡。
「洗面所でも、キッチンでもどちらでも良いよっ。俺が肩貸してやるよ。」
そう言って山本は、ニコニコと佐渡の肩を支えながら、洗面所へ向った。
しばらく2人の様子を見ていて間が抜けたのか、川野のお腹がギュウギュウ鳴りだした。
(そうだ、夕飯食べてなかった⋯。)
彼女はこれ以上、音が鳴らないように、お腹を抑えながらキッチンへ向かい、山本の作ってくれたチキンソテーと味噌汁を温め出した。
「ねぇっ!2人はもうお腹いっぱい?一応、食事出しておこうか?」
川野は声を張り上げ、洗面所の方へ問いかけた。
「いるいるっ!俺等、立ち飲み屋で引っ掛けただけだから、まだ食べれる!」
山本が嬉しそうに、早口で返事をした。
「は〜い。」
川野は皆でつまめるように、チキンソテーを包丁で一口サイズにカットし、大皿に盛り付けた。
味噌汁とごはんをよそい、リビングへどんどん運んで行く。
そうしているうちに、山本と佐渡が洗面所から戻って来た。
「うわっ!⋯⋯美味しそうですね。」
目の前の料理に、明らかにテンションが上がった様子の佐渡。
「佐渡君は、ごはんとお味噌汁、普通に盛っちゃったけど大丈夫?」
キッチンから、ひょこっと川野が顔を出した。
「はい、普通に食べれると思います。」
川野の普通盛りは、だいぶ盛り盛りなのだが、佐渡は文句一つ言わず、少し照れたように笑って答えた。
「良かった。飲み物は、冷たいお茶にしておくね〜。」
全てが出揃い、両手を合わせる3人。
「佐渡君、お先にどうぞ!」
川野に促され、佐渡はチキンソテーを箸で取った。
「頂きますっ。(モグモグッ)⋯⋯グスンッ。とても美味しいです!⋯山本は良いよなっ。川野さんに、こんなにも美味しい料理を作ってもらえてっ⋯。」
酔っ払うと、普段より更に感情がストレートに出るのだろうか。
先程までニコッとしていた佐渡が、急に涙ぐんだ。
「そんなに?泣くほど美味いか?ふふふっ⋯これはね、俺が全部作ったんだよ☆」
佐渡の勘違いを、少し意地悪な顔をして笑う山本。
「えっ!?そうなのか?川野さんが作った様な雰囲気で、台所で用意してくれてたから、てっきり⋯。いや、めちゃくちゃ美味しいけど⋯。お前、凄いなっ!」
溢れそうだった涙を引っ込めて、素直に感心する佐渡。
「あ、あのね佐渡君!私もちゃんと作る時は作るんだよ?たまたま今、忙しい時期だから哲也君に任せてるけどっ。」
何だか居心地が悪くなった川野は、そう釈明をした。
「知ってますよ。⋯川野さんの炒飯は絶品ですからっ。」
佐渡が、余計に頬を赤らめながら言った。
「そうそうっ!さっきから恵介が、俺にマウントばかり取って来るんだよ!“川野さんの家に先に上がったのは僕だ”とか“川野さんの手料理を先に食べたのは僕だ”とか。ウザいんだけどっ!」
山本は、悔しそうな表情で佐渡を横目で睨みつけ、口を尖らせた。
その姿を見て、優越感に浸る佐渡。
一体、佐渡は山本にどこまで話したのだろうか?と、1人ヒヤヒヤする川野。
「大体、今日はどこで2人で落ち合ったの?」
話を逸らしつつ、川野は気になる事を尋ねた。
「チッ!川野さん、聞いてくださいよ。山本がしつこくて⋯」
佐渡は、軽く舌打ちをして、長めのサラッとした前髪を怠そうにかき上げた。
話をまとめると、こうだ。
山本は家を出た後、佐渡に鬼電をしたらしい。
何回掛けても繋がらないので、増岡に連絡をして、佐渡はまだ残業をしているのでは?という情報をゲットした。
電車に飛び乗り会社へ向かうと、確かに企画・営業部の事務所の明かりが点いていた。
佐渡がまだ残業していることを信じて、山本がビルの入口でしばらく待ち伏せをしていると、とうとう彼が会社から1人で出て来た。
「恵介っ!」
山本が声を掛けると、佐渡がビクッ!と驚き、そのまま全力疾走。
逃がすまいと、後を追いかける山本の方が足が速く、佐渡はほどなく後ろから抱きつかれ、確保された。
「チッ!何だよっ!」
山本の腕の中でもがきながら、悪態をつく佐渡。
「恵介⋯ごめんなっ!本当にごめんっ!」
目を瞑り、何度も謝りながら、心を込めて佐渡をバックハグする山本。
「たっ、頼むっ!腕だけは外してくれっ⋯もう逃げないから!」
山本に力強く抱き締められ、息苦しくなった佐渡は、眉間に皺を寄せながら、ついに観念した。
そして結局、佐渡はそのまま山本のペースに巻き込まれ、自分の家とは逆方向の、品川駅近くの立ち飲み屋で呑まされたという理由だ。




