今更
チキンソテーや味噌汁の良い香りが漂う中、川野は山本をソファーに座らせ、自身も隣に腰を掛けた。
そして、しばらくの沈黙の後、意を決して話し出した。
「実は、この前の飲み会で、恵梨ちゃんが佐渡君に本当の事を言ってしまったの⋯。」
「本当の事?」
「うん⋯。恵梨ちゃんが佐渡君とその、以前⋯一夜を過ごしたって言ってたでしょ?⋯あれは、恵梨ちゃんの嘘だったんだって。」
「えっ!?そうだったの?⋯光はいつから、それを知っていたの?」
「最近。恵梨ちゃんとバディ組んでから、しばらくして。」
「そんなの⋯初耳だよ。」
両手で頭を抱える山本。
「黙ってて、ごめんっ!私も驚いたけど、だからってどうする事も出来ないし⋯。佐渡君に打ち明けるのも止めたんだけど⋯。」
「それって、俺にも関係あることじゃん。すぐに言って欲しかったよ。⋯⋯恵介、相当傷付いただろうな。俺、アイツにすごく悪い事しちゃったな。光の事、本気だったの知ってたのに⋯奪うなんてことして。」
山本は、青ざめた顔を手で覆い、俯いた。
「フゥ⋯。今まで、恵介にも非があるからって、自分を正当化して来たけど⋯。一体、どうすれば良いんだろう。」
ひどく落ち込む山本を見て、川野は咄嗟に彼の膝に手を置いた。
「ごめんっ、今はちょっと⋯。」
そう言って山本は、川野の手を払うように立ち上がり、乱暴にエプロンを脱ぎ捨てた。
そのままサイフと鍵を握り、家を出て行こうとしている。
「待って!」
彼の後を玄関まで追いかけ、目に涙を浮かべる川野。
「⋯どこに行くの?」
「⋯ちょっと出てくる。夕飯は勝手に食べて。」
ガチャンッ―
山本が行ってしまった。
その場で泣き出す川野。
おおよそ、こうなる事が分かっていたから、今まで山本に言い出せなかった。
真相を知ったところで、苦しむだけで他に何が出来るというのか。
2人が別れて、代理デートの前からやり直せば良いのか?
時間は決して巻き戻せないし、今まで積み上げて来たものや、それぞれの感情をリセットする事なんて出来やしない。
川野は、山本が作ってくれた夕飯に一口も手を付けず、寝室の布団に潜り込んだ。
どれだけ泣いただろうか⋯。
泣き疲れて、川野はそのままウトウトと眠りにつこうとしていた。
カチャンッ―
玄関のドアの鍵が、そっと開く音がした。
(哲也君が帰って来たっ!)
目をかっ開き、ベッドから飛び起きる川野。
すると、ドスンッ!と玄関の方から鈍い音がして来た。
「ふふふっ、何やってるんだよっ!」
「へへへっ、お前もコケてるじゃないか。」
山本が、大声で誰かと話している。
どうやら、家に誰かを連れて来たようだ。
嫌な予感がして、恐る恐る玄関を覗き込む川野。
「光!ただいま〜☆」
「川野さん!どうも、今晩はっ☆」
彼女の視線に気付き、陽気に挨拶をする2人。
そこには、靴を半分履いたまま廊下に倒れ込んでいる、山本と佐渡がいた。




