オススメの焼酎
「川野〜。横浜に戻ってから、調子はどうだ?相変わらず、皆は元気にしてるか?」
増岡が、川野の方を向いてニコッと笑った。
「うん、皆元気にしてるよ☆そうそう!夏季はね、恵梨ちゃんと一緒に盆踊り大会を担当してるんだよ。ほら、花火が上がる所の。山口君は、7月の夏祭り担当。ねっ?」
川野は久々に会った増岡や佐渡に、話したいことが沢山あるようで、横浜支社の話を元気良く話し始めた。
「花火かぁ~。とても素敵ですね。横浜支社は、そういう夏祭りのイベントが多いのですか?うちの方の夏季イベントは基本、本社の手伝い止まりなので、一から企画出来るのが羨ましいです。盆踊り大会というのは、櫓を組んだり、提灯をぶら下げたり⋯」
佐渡は、川野の話を興味深そうに熱心に聞いては、質問を返している。
「姉さんは、夏祭りが得意なんですよねっ。先方からの信頼も厚いんですよ。」
山口が、何気なく口を挟んだ。
「姉さん?⋯⋯へぇ~。もしかして、山口君も川野さんの弟ポジって感じですか?」
佐渡が、目の前の山口に鋭い視線を向けた。
「あぁ、あはは⋯。何か、いつの間にか、姉さんって呼んでたんだよ。ほら、川野課長って頼りになるでしょ?だから、僕は川野課長の舎弟みたいなものだよ。」
山口は、佐渡から滲み出る、静かな嫉妬心を察知して、そう弁解した。
「そうですか⋯。まぁ、山口君の方が、川野さんと過ごした時間が多い事は承知していますので、僕が言うのも何ですが。川野さんを慕ってる気持ちは負けませんからっ。」
「ねぇ、ちょっと!佐渡君、もう酔ってるの?」
佐渡の、周りに全く遠慮が無い発言に、冷や冷やする川野。
目の前の本島の顔が、どんどん曇って行く。
「はははっ!佐渡は光の事が好きなのか?好きなら好きって、はっきり言っちゃえよっ!まだ入籍してないみたいだし、ワンチャンあるんじゃねえか?」
そこら辺の複雑な事情を知らない湯川が、佐渡を煽り出した。
悪ノリをする湯川を見て、さすがに慌て出す増岡。
「湯川次長!そろそろ焼酎いきましょうよっ。串焼きに合うのは〜。何がいいですかね〜?」
ドリンクメニューを湯川の顔の前に差し出し、無理矢理、鎮火させようとしている。
湯川の発言を受け、顔から首筋まで薄紅色に染まった佐渡は、俯き黙り込んでしまった。
すると、今まで冴えない顔をしていた本島がフッと息をつき、肩まで下ろした黒髪をそっと片耳にかけ直し、湯川の方にそっと体を寄せた。
「私、今日はとことん飲みたい気分です⋯。芋焼酎って、何がありますか?」
普段は真面目で、人をあまり寄せ付けない様なオーラを漂わせている、本島の予想外の色気に、湯川は思わず目を丸くした。
「⋯恵梨は、芋焼酎が好きなのか?オススメがあれば、教えてくれっ。」
口ではそう言うものの、どう対応して良いか分からず、少しずつ後退りをする湯川。
「えっとですね⋯。これなんて、どうでしょう?芋ビギナーには飲みやすと思いますよ。」
そう言って本島は、湯川にニコリと笑いかけた。
「じゃぁ、それで⋯。」
久し振りに異性から寄って来られた湯川は、ドキドキが止まらない。
しかし部下に囲まれている中、うっかり鼻の下を伸ばす訳には行かず、頑張って平静を装っている。
そんな上司の姿を、ニヤニヤと悪戯な目をして眺める増岡。
「湯川次長も、まだまだモテますね〜。さてと、川野は次は泡盛で良いか?」
「いや⋯、待って!恵梨ちゃんて芋焼酎好きなの?そうなら、めちゃくちゃ嬉しいんだけど!焼酎好きの子、なかなかいないからさっ。」
湯川と本島がイイ感じになっている事より、焼酎仲間を見つけた嬉しさが勝ってしまった川野は、つい尋ねてしまった。
「えぇ⋯。結構好きです。川野さんは泡盛なんですね。」
本島も、川野が生粋の焼酎好きだと分かり、あまり邪険には出来ないようだ。
「そうなの!奄美大島の黒糖焼酎も好きだよっ☆よーし!こうなったら、私も芋焼酎行こうっ!」
ここに来て、まさか川野と本島が焼酎で仲を深めるとは思ってもみなかった。
川野が横浜に戻って来て、険悪の状態から始まった本島との関係をずっと見ていた山口は、どこか安心したように、静かに微笑むのであった。




