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川野課長の憂鬱〜ブルーでライトな横浜凱旋〜  作者: 桃山あんづ


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38/49

感情が迷子です

華の金曜日


湯川の思い付きで、これから飲み会が開かれる。


川野は気が乗らなかったが、増岡もとても楽しみにしている様子だったので、言われた通りに本島と山口を誘って来た。


山口はともかく、本島があっさりOKするとは思わなかった。

佐渡と再会するのが、気不味くはないのだろうか⋯。


まぁ、本人が行くというのだから、これ以上心配しても仕方ない。


横浜支社組の最後尾で、自分にそう言い聞かせながら、川野は両頬をパンパンッと叩き、店へと足を踏み入れた。



「お疲れ様でーす!」


店員に案内をされて、奥の方へ進むと、そこには既に増岡と佐渡が席に着いていた。

増岡がニコニコと片手を振り、こちらに挨拶をした。


「おうっ!お疲れ〜。佐渡〜!久し振りだなぁ。何だか顔付きが大人になったな〜。はははっ!」



湯川が嬉しそうに、佐渡に声を掛けた。



「湯川次長、ご無沙汰しております。お元気そうで何よりです。さぁ、こちらへどうぞっ。」



佐渡は立ち上がり、湯川に上座の方へ座る様、案内した。


「本島さんも、お久しぶりです。よろしければ、湯川次長の隣へ。⋯山口君は、僕の事覚えてますか?今日は色々と意見交換が出来れば嬉しいです。よろしくお願いします。」


意外にも佐渡は、本島に普通に声を掛けた。

あの、辛辣で嘘が付けない佐渡が、これほど穏やかでいるとは。

本島は、彼に無視をされるのも覚悟していたようで、何だか拍子抜けしている様だ。



佐渡は、さりげなく山口を本島の隣に座らせ、姿勢を正し、落ち着かない様子でサワサワと両手をこすり合わせた。




「はぁ⋯川野さん⋯。とても会いたかったです。こちらへどうぞっ。」


「佐渡君、久し振り!元気そうで良かった。」



川野は懐かしい彼の顔を見て、嬉しそうにニッコリと笑った。


嘘が付けない佐渡は、照れたように前髪をサッとかき上げ、川野を増岡の横に座らせ、その隣にちゃっかりと着席した。



「なんか、雰囲気が良い店だな〜。」


湯川が、周りを見渡しながら言った。


「俺も思いました。実は今日は、佐渡が店を探してくれたんですよ。なんでも、焼酎がたくさん置いてあるようで、海鮮や焼き物が美味しいらしいです。」


増岡が、声を弾ませた。



先日、川野が気まぐれで言った言葉を、ちゃんと覚えていた佐渡は、彼女に喜んでもらえるように、必死になって良い感じの店を探したのだ。


さすが営業マンの鑑、佐渡。

こういう事に関しては、彼の右に出る者はいない。


川野は、そんな忠実な佐渡に、一言お礼を言いたかったのだが、今この席でそんな言葉を発すれば、何かが勃発しそうなので、あえて黙った。



「すごいなっ。こんなに種類があったら、光は潰れるまで飲みそうだな。明日は休みだから、いっそのこと飲み明かすか?はははっ!。」


湯川はメニュー表を眺めながら、川野をからかって笑った。


「いやっ、それは駄目ですよ〜。コイツのフィアンセが“くれぐれも、飲ませ過ぎないで下さいよっ!”って、口酸っぱく言ってたんで。遅くなると、俺達が怒られますから。なっ?佐渡。」


増岡がニヤニヤしながら、佐渡に視線をやった。


山本は、この飲み会の話を川野から聞いた時“ふ〜ん、楽しんで来てね”などと、余裕をかましていたのだが、実際はやはり気が気でないようだ。


「チッ!久々に会えたのだから、ゆっくり、じっくりと飲みたいものですよ、全く。だいたいアイツは、独占欲が強過ぎるんです。川野さんが横浜に異動になってから、一度も飲み会に呼んでくれないし。川野さんは皆のものなのに。ケチですよ、ケチッ!」


山本の顔を思い浮かべながら、眉間に皺を寄せて悪態をつく佐渡。


その姿に苦笑いをしつつ、佐渡の舌打ちが何だか懐かしくて、少し嬉しい川野。



「はははっ!相変わらず佐渡は、品が良いのか悪いのか、分からねぇ男だなっ!さて、そろそろ始めるぞ。皆、生で良いか〜?佐渡はグラスビールで⋯。恵梨〜、恵梨はビールで良いのか?」


「えっ?は、はい⋯。」


本島に、メニュー表を見せる湯川。


佐渡の、どストレートな川野光愛を目の当たりにし、どこか悔しそうな顔をしていた本島だったが、隣の湯川に体を傾けられ、一気に頬を赤らめた。


「本島さんは、ビール好きですよね?いつも結構、飲んでますもんね。」


彼女の反対隣の山口がそう言って、ニッコリと笑った。


まだ、乾杯すらしていないのに、本島の感情がすでに迷子になっている。


至って真面目な彼女にとって、こういう些細な異性の仕草や気遣いは、非常に刺激が強いのであった。






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