↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
川野課長の憂鬱〜ブルーでライトな横浜凱旋〜  作者: 桃山あんづ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/49

不穏な約束

本社会議で、上部からバチボコに怒られた川野。


反論なんてしようものなら、会議が長引くだけだ。

そう割り切って、何度も頭を下げながら、同じく隣に立って怒られる湯川が、暴れ出すのを必死に抑えていたので、彼女はもうボロボロだ。


(先月も酷かったけど、連続で怒られるのはキツかったな⋯)



川野は、両手で真っ青になった顔を覆い、スッーと深呼吸をすると、さっさと荷物をまとめて会議室を出ようとした。


その時だった。


「スカっ子ちゃん。」


後ろから呼び止められハッと驚き、振り向く川野。

そこには、ニコニコとした表情の社長が立っていた。


以前、少し触れたが、社長は川野の出身地である横須賀を、とても気に入っている。

そのため、川野のことも印象深く残っているらしく、こうして会う度に声を掛けてくれる。


「社長、この度は申し訳ございませんでした!」


売上の事で何か言われるのかと思い、川野は条件反射で、勢い良く頭を下げた。



「いやいや、今日の会議も大荒れだったね〜。お疲れ様。ところでスカっ子ちゃん。企画コンペを勝ち取って行くって言ってたけど、僕はね、横須賀エリアのイベントが見たいな〜。よろしく頼むよ!」



社長はそう言って、川野の肩を優しくポンポンと叩いた。


確かに、今まであまり手を付けていない、横須賀・三浦エリアのイベントに、切り込むのも良いかも知れない。


「ご助言、ありがとうございます!ぜひ取り組んでいきたいと思います!」


何度も頭をヘコヘコさせる川野。


「はははっ、そんなに力まないで。楽しんで行こうよ!」


「ありがとうございますっ。頑張ります!」


川野は頭を上げ、ニコッと微笑んだ。


「うん、それで良いよ!スカっ子ちゃんは、そうやってニッコリしててね。楽しんで仕事しなきゃっ。頑張ってるのは、全部知ってるから。妻もね、よく頑張ってるって言ってたよ。」


社長も、うんうんと頷きながら微笑んでいる。



(妻⋯⋯?)


「あっ!社長〜、お疲れ様でございます〜。」


増岡が、慌てたようにすっ飛んで来て、2人の間に入った。


「東京第二支社も、益々頑張ってまいりますので〜。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。」


「うん、頑張ってね!じゃぁっ。」


社長は、増岡の肩もポンポンッと優しく叩き、会議を去って行った。



「お疲れ様です!⋯⋯⋯社長、妻って仰ってたな⋯。妻⋯妻⋯。」


社長の背中を眺めながら、ブツブツと呟く川野。



「あっ、あれ?湯川次長、もう下まで降りて行ったみたいだぜっ。お前、あまり待たせると怒られるぞ!ほらっ、行くぞっ!」


川野を急かすように、彼女の背中を押し出した増岡。


「えっ、あの人もう降りちゃった?ヤバっ、行こう!」


ただでさえ、機嫌の悪そうな湯川を待たせる訳には行かない。

やむを得ず、考えるのを後回しにして、川野は急いでエレベーターに向った。




「あぁ⋯、良かった。」


川野と増岡が、駐車場に駆け付けると、会社ビルの端の方で、気難しい顔をして煙草を咥える湯川が立っていた。


「お待たせして、申し訳ございません。社長とお話ししてたもので⋯。」


「おうっ、お疲れ。しかし、嫌な時間だったな〜。」


湯川が、溜め息混じりに煙を吐いた。


「そうですね〜。」


川野も、外の空気を吸ったせいか、どっと疲れが押し寄せて来た。


「おいっ、一本吸うか?もう吸えないか。」


湯川に煙草を差し出され、モジモジとする川野。


「う〜ん⋯⋯今日だけっ。一本頂いて良いですか?」


「そうか!よしよし。」


川野の可愛げのある態度に、湯川の機嫌が少し直ってきた様だ。


カチッ―


「ふぅ~⋯⋯。」


貸してもらったライターで火を点け、川野はゆっくりと煙草の煙をふかした。



「何だ、そんなにうっとりした顔して。そんなに煙草がうまいのか〜?それなら、喫煙者に戻ってしまえよ。」


湯川は、元喫煙者仲間だった川野をからかう様に、そう言った。


「えへへっ、今だけで良いんですっ。お陰様で、元気になって来ました!」


まさかここが、山本との出会いの場ですなんて惚気たら、湯川に羽交い締めにされてシバかれそうなので、川野はそれ以上、何も言わなかった。



「なんだか、湯川次長と川野がこうして煙草を吸っていると、昔に戻ったみたいだな〜。」


増岡が2人を眺めながら、寂しそうに笑った。


きっと、横浜支社にいた新人時代の頃の様に、湯川と川野と増岡が3人揃って仕事をする機会は、もう二度と訪れないのだろう。

皆、いつの間にか年を取り、支社の異動を経験して、それなりの役職について、少しずつ別の道を歩んでいる。


人生、長いようで、意外とあっという間に過ぎて行く。




「そうだな⋯そうだっ!」


増岡の顔をじっと見ていた湯川が、何かを思い付いた様に声を上げた。


「よしよし!今度、営業部で飲み会をしよう!俺の知ってるヤツだと⋯増岡のとこの佐渡だろ?あと、うちからは山口と恵梨を誘って⋯。本社の奴等は、可愛げが無いから誘わないでおこうっ。」


「えっ?恵梨?本島さん??」


湯川が本島を下の名前で呼んだ事に、戸惑った増岡が川野に視線をやった。


“違う!違う!湯川次長の彼女じゃない!”


川野は、顔を横にブンブンと振って、増岡にジェスチャーをした。


「場所は都内で良いか?そうなったら、後は日程調整だな。増岡、幹事頼むよ!はははっ!」


すっかり機嫌が良くなった湯川が、豪快に笑った。



「あっ、はいっ!佐渡に聞いてみます。じゃあ、川野は山口と本島さんに聞いておいてっ。」


「了解⋯。」



何だか話が、思わぬ方向に行ってしまい、渋い顔をする川野。


まず最近、自分は山口と上手く接する事が出来ていない。


それに、せっかく本島が新しい恋に向かおうとしている時に、佐渡と再会させて良いものだろうか⋯。


当然、目の前の湯川と増岡は、ここまでの事情を全く知らない。


1人、新たな問題を抱えた川野は、久々に外でワイワイと飲めるという楽しみより、憂鬱の方が圧倒的に勝ってしまうのであった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。