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川野課長の憂鬱〜ブルーでライトな横浜凱旋〜  作者: 桃山あんづ


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28/49

お迎えに参ります

本島との仕事が決まり、憂鬱な気分の川野。

そんな彼女にはもう一つ、気が乗らない事があった。



「ごめん!定時で上がりたかったんだけど、残業になった。1時間で終わらせるからっ!ホントにごめんっ。」


電話越しで謝り倒す山本。


「大丈夫だよっ。お兄さんはどうする?駅まで迎えに行った方が良いかな?」


急な残業は、仕方の無いことだと重々承知しているので、川野は優しく返した。


「そこまでしなくて良いよっ!あぁ〜でも、兄貴は方向音痴だからな。家に入れたこと無いし。一応、住所は教えたんだけど。」


「そっか。⋯じゃあ、駅の改札まで迎えに行くから、お兄さんに言っておいて。」


「ありがとう!ごめんねっ。じゃぁっ!」



山本はそう言って、慌ただしく電話を切った。



小さな溜め息をつく川野。

そうだ、今日はあの哲也の兄である優也が、家へ訪ねて来るのだ。


優也は川野にとって、未知なる存在だ。


一度会っただけで、彼の人間性をちゃんと理解出来るはずがないのは当然だが、なんてったってチャラそうだ。

あの、穏やかなご両親に生み育てられたのだから、悪い人ではないと思うが⋯。

チャラい男が苦手な川野は、彼とちゃんとした会話が成立するか不安なのだ。


「哲也君のお兄さんだし、大丈夫っ。頑張ろう!」


そう自分に言い聞かせ、川野は家を飛び出した。




外は、久々の雨が降り出していた。

小雨なのだが川野は念の為、優也の分の予備の傘を握りしめている。



約束の時間になった。


帰宅ラッシュ時のため改札が混雑する中、優也が通り過ぎないように必死に目を凝らしながら、人混みを見渡す川野。


すると、キャップを深々と被った高身長の男が、改札から出て来た。

その姿は、デニムのワイドパンツにエンジ色をベースとしたチェック柄のシャツを合わせた、何ともお洒落な古着スタイルだ。


そして、ウェーブのかかった黒髪を肩まで下ろしている。


(え、えっ?あの人かな⋯。ロン毛だったっけ!?声掛けて違ったら、舌打ちとかされそう⋯。)


川野は、優也の料理人の姿しか見たことが無いので、本人かどうか確信が持てず、声を掛けようか非常に迷っていた。


その男は、どんどんと川野に近付いて来る。

優也なのか?優也ではないのか?


じっと彼を眺めながら、なかなか声を掛けられない川野。


とうとう間近まで歩いて来たその男は、片手で自身のキャップのつばを上げ、川野の顔をグッと覗き込んだ。



「やっぱり、光ちゃんだ。」



ニコッと笑ったその顔は、紛れもなく優也であった。


先日の、テンション高めでキャッキャしていた電話時とは打って変わり、低めの声で非常に落ち着いている。


そのギャップに、呆気に取られる川野。

思わずフリーズしてしまいそうだ。



「お兄さん!今晩は。今日はここまでご足労頂き、ありがとうございますっ!」



とりあえず挨拶だけは丁寧にしようと、川野はぎこちなく頭を下げた。



「ふふふっ、固い固い!同い年なんだから、優也って呼んで。先に家に上がると哲也が気にすると思うから、どっかの店でお茶でもする?俺としては、料理の盛り付けをしたいから、早く家に入れて欲しいんだけど。光ちゃんは、嫌かな?」



そう言って優也は、片手に持った紙袋を2つ、グイッと持ち上げた。



「えっ?ありがとうございます!すみません、料理まで。雨も降ってますし、家に直行しましょう。その袋、どちらか持ちます!傘はこれ使って下さい。」



川野は、優也の柔和な態度や気遣いが素直に嬉しかったため、一気に歓迎モードへと変わった。


決して、絶品であろうプロの料理に釣られた訳ではない。



「ふふっ、ありがとっ。光ちゃんも俺の事、警戒してると思ってた。意外と信用してくれるんだね〜。」



優也はどこか嬉しそうに、再びキャップのつばを深々と下ろした。




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