ポディションが気になります
パンッ!―
「⋯もう一回やります。」
パンッ!⋯パンッ!―
「もう一回!」
「もう500円も使ってるよ〜。そろそろ終わりにしたら〜?」
川野は呆れた様に、顔をしかめた。
ムスッとした顔をしながら、射的を続ける山本。
格好のつく彼がコルク銃を構えると、きっと可憐に景品をゲットするのだろう期待されたが、実際は何度引き金を引いても、的を外してばかりだ。
「良いじゃんっ!お客さん、他にいないし(パンッ!)⋯あと4発か。(パンッ!⋯ボトッ)ヤッター☆倒れたっ!」
やっとの思いで、紙箱のチョコレート菓子をゲットして、すっかりニッコニコの山本。
先ほどまでの態度とは打って変わって、片手を前に伸ばし、無邪気に川野にハイタッチを求めている。
「(パチンッ、パチンッ)うふふっ、ゲット出来て良かったね♪⋯ところで、どうしたの?今日は実家に行くって言ってたよね?」
川野は山本のハイタッチを受け入れつつ、不思議そうにしている。
「それはっ、時間があったからだよ⋯。実家から車借りて来たんだ。明日と明後日は、彩ちゃんが旅行でバイト休むから、向こうに泊まって、兄貴の店を手伝うけどね。⋯俺が来て、迷惑だった?」
山本はそう言って、チラりと輪投げコーナーにいる山口の方を見た。
「迷惑な訳ないじゃんっ!嬉しいよっ☆」
「そっか、良かった。⋯これ、皆さんに差し入れ。」
川野に満面の笑みを向けられ安堵した山本は、冷たく冷えた箱入りの栄養ドリンクを差し出した。
「⋯⋯山本?⋯やっぱり、山本だよね?久しぶりー!」
今まで、怪訝そうな顔で山本の様子を伺っていた山口が、ようやく会話に入って来た。
「そうそう!⋯山口君だよね?」
山本は、少し自信無さげに尋ねた。
「そうだよ!ってか、同い年なんだから、呼び捨てで良いよっ。あの時より髪伸びてるから、最初は誰か分からなかったけど。懐かしいなぁ〜!」
新人研修以来、8年ぶりの再会で嬉しそうにする山口。
2人は配属された部署も支社も違ったので、勤務地が分かれて以降、一度も会う機会が無かった。
山本もどこか緊張気味だが、山口の好意的な反応に、照れくさそうにしている。
「ただいま戻りました〜。」
山本と山口が久々の再会を果たしていると、木村さん親子が、休憩から戻って来た。
川野はすかさず、木村さんに山本を紹介した。
山本をまじまじと見る木村さん。
「木村です。はじめまして〜!まぁ〜、あなたハンサムねぇ!川野ちゃんを末永く、よろしくお願いします♪」
そう言って木村さんはニヤリと笑いながら、川野に目配せをした。
「母ちゃん!俺、あっちに行きたかった!」
真が木村さんの腰にしがみつきながら、駄々をこね出した。
どうやら、休憩時間の間だけでは遊び足りなかったようだ。
「そうだね〜。でも、兄ちゃんとアスレチックでは遊んでも良いけど、遠くまでは行かせられないな〜。」
「ヤダ〜!俺もスタンプ全部集めたい〜!」
真はウォークラリーを回りたいと、べそをかき出した。
困り果てる木村さん。
行かせてやりたいのは山々なのだが、色々な人で賑わう広大な公園で、自分の目の届かない所へ2人をやりたくないのだ。
「だったら⋯、俺が一緒に行こうかなっ。初めましてだけど、俺で良い?」
一連の話を聞いていた山本が、手を挙げた。
真の目が、キラリと輝いた。
「イケメンっ、一緒に付いて来て!」
山本の手をギュッと握り、グイグイと引っ張り出した。
「俺も行くっ!」
慌てて後を付いて行く大智。
「こらっ!イケメンだけど、ちゃんと山本さんって呼びなさいっ!山本君、お願いしちゃって大丈夫?ごめんなさいね〜。ありがと〜!」
木村さんの言葉に振り返り微笑むと、山本は兄弟に引っ張られながら、山道へ消えて行った。
「⋯山本って、やっぱり優しい奴なんですね。姉さんさすが、お目が高いっ!⋯さてっ、木村さんが戻って来たので、次は僕が休憩行きますね。姉さんは、山本が帰って来たら、休憩に行って下さい。プライベートも大事ですからねっ。」
山口は、川野をからかうように明るくおどけると、ヨーヨー担当の今井に声を掛け、一緒に休憩に入って行った。
「山口君は、ホント常識人だね〜。色んな事が見えすぎるんだろうね。良い事なんだけどねっ。」
彼の後ろ姿を眺めながら、木村さんが心配そうに呟いた。
川野は思わず、彼女の方に視線を向けた。
「気にしないでっ、独り言よ〜。それより川野ちゃん、お客さん!」
木村さんの言葉が引っ掛かったのだが、その意味を聞けずに、川野は接客に戻された。
それから随分と時間が経ち、山本と木村兄弟が戻って来た。
所々で寄り道をして、たっぷりと遊びながら、ちゃんとウォークラリーのスタンプを制覇して来たようだ。
「わーい!キーホルダーGET!イケメン哲也、ありがとう!」
真がとても嬉しそうに言った。
「哲也さん、ありがとうございます!」
兄の大智は山本に対して、尊敬の眼差しを向けている。
「いえいえ、俺も楽しかったよ!」
山本は少し疲れているようだが、2人の遊び相手が出来て、本当に楽しかったようだ。
そして、木村さんにとても感謝されて、ニコニコと微笑み恥ずかしそうにしている。
「では、休憩に行って来ます!」
ちょうど山口も戻って来た所で、川野は休憩に入った。
「哲也君、何食べたい?私はね、もう目星は付けてるの。」
空腹に耐えながら、ずらっと並ぶキッチンカーをギラついた目で見渡し、川野が言った。
「ふふっ、タコスでしょ〜?光の食べたい物は、大体分かるようになったからねっ。俺も一緒のが食べたいな。」
「当たり〜!じゃあ、ランチは私がご馳走するね!」
そう言って川野は、足早にタコスのキッチンカーの行列に並んだ。
売り切れ寸前だった、タコスとフライドポテトを無事にGETし、近くの芝生エリアに座り込んだ。
肩を並べて、モグモグとタコスを食べ進める2人。
「⋯なんか、こうして昼間の公園でランチするの、初めてだねっ。」
「そうだね〜。俺と光は屋内デートが多かったからね。倉庫とかっ。」
「⋯⋯。」
山本の一言で、東京第二支社の倉庫内での、色恋沙汰をあれこれと思い出し、耳を真っ赤にする川野。
その姿を見て、意地悪な笑みを浮かべる山本。
「“姉さん”ねっ⋯。山口君は良い人だから、俺は別に大丈夫だけど。第二支社で弟ポディション狙ってた奴は、どう思うかな⋯?」
山本は川野のリアクションを面白がって、佐渡の事を持ち出して来た。
佐渡は、山本に川野の彼氏の座を奪われてから、川野の弟ポディションを確保する様になった。
しかし、川野の弟ポディションには、既に山口が長年存在していたのだ。
「良いじゃないのっ。弟は、何人いても可愛いでしょ?」
「恵介は落ち込むんじゃない?」
「佐渡君は、そんな事で落ち込みませんっ!なんで落ち込むのよっ。」
山本のしつこい問いかけに、川野は面倒臭そうにしている。
「へぇ~。⋯⋯じゃあ今度、山口君も誘って、皆でご飯でも行こうよっ。」
山本の口が、だんだんと尖って行く。
その様子を横目で見て、渋い顔をする川野。
「ねぇ、本当は哲也君がヤキモチ焼いてるでしょ?」
「⋯ちょっとだけねっ。」
「フッ。」
川野は、思わず吹き出してしまった。
婚約しているとはいえ、山本の嫉妬深さは健在なのだ。
「ねぇ、今日はありがとうね!来てくれて、すっごく嬉しかった。大好きっ!」
そう言って川野は、山本の腕に自身の腕を回した。




