五月晴れ
5月3日
今日からGWのイベントが始まる。
企画・営業部のメンバーが総出となる、3日間だ。
「山口君、キッチンカーは全て誘導出来たよ。設置場所もバッチリ!ゲームコーナーの方はどう?」
川野は、Tシャツにジーパンという動きやすい姿で、首に巻いたフェイスタオルで額の汗を拭いながら、山口に駆け寄った。
彼はこの企画のリーダーなので、普段は出さない大きな声を出して、現場指示をしていた。
「ありがとうございます!すみませんが、こっちも宜しくお願いします!」
「よっしゃ、任せて!」
山口と2人で、ゲームコーナー用の白いタープテントを張っていく川野。
嬉しいことに、今年のGWは3日間とも晴天らしい。
早朝だというのに、すでに日差しは眩しく、爽やかな風が辺りの若葉達を、サワサワとなびかせている。
「ふふっ、姉さん、ねーさんっ!ポールをもっと後ろに動かしてくださいっ。」
どこか可笑しそうにしている、山口。
「えっ?何、何!?」
風に煽られ不安定なポールを、男前な険しい顔で必死に掴みながら、山口を凝視する川野。
山口の声が、葉のかすれる音に打ち消されてよく聞こえないらしい。
「あのっ!もっと後ろ下がりまーす!」
川野の顔芸に、必死に笑うのを堪えながら、山口が叫んだ。
この調子で、何とかタープテントを4つ張り、重りで厳重に固定して、ゲームコーナーのスペースは設置完了だ。
「あとは、中の設置だけだねっ。順調、順調!」
軍手をした両手をパンパンッと叩き、川野がニッコリと笑った。
「予定より早く、準備が終わりそうですね!ウォークラリーのチェックポイントの設置は、今井達が回ってくれてるので、もうすぐ終わると思います。そしたら各担当ごとに、ゲームコーナーを設置して行きましょう。」
川野と同じ様に首に巻いた、フェイスタオルで顔を拭いながら、山口も微笑んだ。
「なんか、新緑の季節って良いよね〜。淡い緑が、とても綺麗。もちろん、色とりどりの花も綺麗なんだけどね。」
「そうですね〜。なかなか普段、こうして緑に囲まれること無いですけど、気持ちの良いものですね〜。」
「⋯本島さんと湯川次長、大丈夫かなぁ?さすがに主催者がいる前で、派手な言い争いはしてないと思うけど⋯。心配になっちゃうよっ。」
まったりしかけた川野だったが、本島達の方のイベントが上手く行っているのか、ふと不安が過ってしまった。
彼女達のイベントは、横浜支社から程近いベイエリアの公園で行うのだが、直前までのチームの様子を見ていると、とても穏やかとは言えない雰囲気であった。
本島も湯川も、意見が衝突すると譲らない傾向があり、度々話が進まなくなる。
そこで折り合いをつけて、良い方向に持って行ければ良いのだが、結局、本島がリーダーという事で、湯川のアドバイスを全く受け入れないのだ。
湯川は、あれこれと口を出し過ぎな所もあるのだが、決して本島の粗探しをしている訳ではない。
しかし本島にとっては、湯川の一言一言に威圧感があり、自分を全否定されているような感覚になるようだ。
「心配な気持ちは、僕も同じです。ただ、こちらも人手が足りないくらいなので、向こうの様子を見には行けませんからね。⋯落ち着いたら、佐々木さんに連絡入れてみましょうっ。」
山口は、心配する川野の気持ちを和らげるように、そう言った。
「おはよ〜っ!朝からお疲れ様ですっ。順調に行ってる?」
川野と山口が、広場で立ち話をしていると、元気な女性の声が響き渡った。
木村さんだ。
木村さんはパート社員なので、ここからイベントを手伝ってくれる。
今日は、11歳と8歳の息子2人を連れて来ている。
一緒にイベントを手伝ってくれるそうだ。
「おはようございます!わぁ〜、2人ともまた大きくなってるっ!おはよ〜っ。今日は来てくれてありがとうっ。」
木村さん親子に、川野はニコやかに挨拶をした。
川野は、この息子達を幼い頃から知っている。
2人の写真を度々見せてもらったり、こうしてイベントに来てくれたりするので、川野は勝手に親戚の叔母の様な気持ちで、2人の成長を楽しみにしていた。
「うわ、光だ。」
「光だ。」
「こらっ!大智、真!ちゃんと、さん付けしなさい!光さんでしょ?」
ふてぶてしい態度を取る息子達を、叱り飛ばす木村さん。
この兄弟も、もちろん川野の事を覚えている。
幼少期は、素直でとても可愛かったボーイズだが、年齢が上がっていくにつれて、少々生意気になって来ている。
「ごめんなさーい。ねえ、光さん、あれやって。」
川野に謝りつつ、ニヤニヤとお願いして来る兄の大智。
「あれやって!」
とりあえず、大智の口真似をする弟の真。
「えっ、恥ずかしい〜☆」
川野は珍しく頬を赤らめ、モジモジとぶりっ子をすると、周りを警戒しながら、2人の方に向かってウホウホとゴリラの真似をした。
「あーはははっ!光、超ウケる~!」
「ギャハハハ!超ウケる~!」
あっさりと笑い崩れる2人。
チョロいぜ。
このモノマネをしておけば、ツカミは完璧だ。
どんなに年頃になろうと、男の子にとって、この手のネタは大好物だ。
いつもの顔に戻り、腰に両手をあてながら、笑い転げる2人を誇らしげに眺める川野。
「はははっ!姉さんの顔芸は、いつ見ても飽きないですっ。」
山口も、川野の渾身のモノマネを喜んでいる。
「喜んでくれて何より!さぁ、準備を進めましょうかっ。」
人の喜んだ顔が大好きな川野は、満足げに微笑むのであった。




