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川野課長の憂鬱〜ブルーでライトな横浜凱旋〜  作者: 桃山あんづ


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21/50

五月晴れ

5月3日

今日からGWのイベントが始まる。

企画・営業部のメンバーが総出となる、3日間だ。



「山口君、キッチンカーは全て誘導出来たよ。設置場所もバッチリ!ゲームコーナーの方はどう?」


川野は、Tシャツにジーパンという動きやすい姿で、首に巻いたフェイスタオルで額の汗を拭いながら、山口に駆け寄った。


彼はこの企画のリーダーなので、普段は出さない大きな声を出して、現場指示をしていた。


「ありがとうございます!すみませんが、こっちも宜しくお願いします!」


「よっしゃ、任せて!」


山口と2人で、ゲームコーナー用の白いタープテントを張っていく川野。


嬉しいことに、今年のGWは3日間とも晴天らしい。


早朝だというのに、すでに日差しは眩しく、爽やかな風が辺りの若葉達を、サワサワとなびかせている。



「ふふっ、姉さん、ねーさんっ!ポールをもっと後ろに動かしてくださいっ。」


どこか可笑しそうにしている、山口。


「えっ?何、何!?」


風に煽られ不安定なポールを、男前な険しい顔で必死に掴みながら、山口を凝視する川野。


山口の声が、葉のかすれる音に打ち消されてよく聞こえないらしい。


「あのっ!もっと後ろ下がりまーす!」


川野の顔芸に、必死に笑うのを堪えながら、山口が叫んだ。




この調子で、何とかタープテントを4つ張り、重りで厳重に固定して、ゲームコーナーのスペースは設置完了だ。



「あとは、中の設置だけだねっ。順調、順調!」



軍手をした両手をパンパンッと叩き、川野がニッコリと笑った。



「予定より早く、準備が終わりそうですね!ウォークラリーのチェックポイントの設置は、今井達が回ってくれてるので、もうすぐ終わると思います。そしたら各担当ごとに、ゲームコーナーを設置して行きましょう。」



川野と同じ様に首に巻いた、フェイスタオルで顔を拭いながら、山口も微笑んだ。



「なんか、新緑の季節って良いよね〜。淡い緑が、とても綺麗。もちろん、色とりどりの花も綺麗なんだけどね。」



「そうですね〜。なかなか普段、こうして緑に囲まれること無いですけど、気持ちの良いものですね〜。」



「⋯本島さんと湯川次長、大丈夫かなぁ?さすがに主催者がいる前で、派手な言い争いはしてないと思うけど⋯。心配になっちゃうよっ。」



まったりしかけた川野だったが、本島達の方のイベントが上手く行っているのか、ふと不安が過ってしまった。



彼女達のイベントは、横浜支社から程近いベイエリアの公園で行うのだが、直前までのチームの様子を見ていると、とても穏やかとは言えない雰囲気であった。


本島も湯川も、意見が衝突すると譲らない傾向があり、度々話が進まなくなる。

そこで折り合いをつけて、良い方向に持って行ければ良いのだが、結局、本島がリーダーという事で、湯川のアドバイスを全く受け入れないのだ。


湯川は、あれこれと口を出し過ぎな所もあるのだが、決して本島の粗探しをしている訳ではない。


しかし本島にとっては、湯川の一言一言に威圧感があり、自分を全否定されているような感覚になるようだ。



「心配な気持ちは、僕も同じです。ただ、こちらも人手が足りないくらいなので、向こうの様子を見には行けませんからね。⋯落ち着いたら、佐々木さんに連絡入れてみましょうっ。」



山口は、心配する川野の気持ちを和らげるように、そう言った。



「おはよ〜っ!朝からお疲れ様ですっ。順調に行ってる?」



川野と山口が、広場で立ち話をしていると、元気な女性の声が響き渡った。


木村さんだ。

木村さんはパート社員なので、ここからイベントを手伝ってくれる。

今日は、11歳と8歳の息子2人を連れて来ている。


一緒にイベントを手伝ってくれるそうだ。



「おはようございます!わぁ〜、2人ともまた大きくなってるっ!おはよ〜っ。今日は来てくれてありがとうっ。」



木村さん親子に、川野はニコやかに挨拶をした。


川野は、この息子達を幼い頃から知っている。

2人の写真を度々見せてもらったり、こうしてイベントに来てくれたりするので、川野は勝手に親戚の叔母の様な気持ちで、2人の成長を楽しみにしていた。


「うわ、光だ。」


「光だ。」


「こらっ!大智、真!ちゃんと、さん付けしなさい!光さんでしょ?」



ふてぶてしい態度を取る息子達を、叱り飛ばす木村さん。


この兄弟も、もちろん川野の事を覚えている。

幼少期は、素直でとても可愛かったボーイズだが、年齢が上がっていくにつれて、少々生意気になって来ている。



「ごめんなさーい。ねえ、光さん、あれやって。」




川野に謝りつつ、ニヤニヤとお願いして来る兄の大智。



「あれやって!」



とりあえず、大智の口真似をする弟の真。



「えっ、恥ずかしい〜☆」



川野は珍しく頬を赤らめ、モジモジとぶりっ子をすると、周りを警戒しながら、2人の方に向かってウホウホとゴリラの真似をした。



「あーはははっ!光、超ウケる~!」


「ギャハハハ!超ウケる~!」



あっさりと笑い崩れる2人。


チョロいぜ。

このモノマネをしておけば、ツカミは完璧だ。

どんなに年頃になろうと、男の子にとって、この手のネタは大好物だ。


いつもの顔に戻り、腰に両手をあてながら、笑い転げる2人を誇らしげに眺める川野。



「はははっ!姉さんの顔芸は、いつ見ても飽きないですっ。」


山口も、川野の渾身のモノマネを喜んでいる。



「喜んでくれて何より!さぁ、準備を進めましょうかっ。」



人の喜んだ顔が大好きな川野は、満足げに微笑むのであった。





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