深夜スイーツセット
「⋯どうしようか?」
「⋯どうしよっか。」
テーブルに、エッグタルト4つとアップルパイ2切れを並べ、考え込む川野と山本。
お互い、外で散々美味しいものを食べて帰って来て、だいぶ腹も膨れている。
甘いものは別腹と言うが、さすがに全部は食べられない。
「ごめんね。エッグタルト好きだから、1つじゃ足りないと思って多めに買って来ちゃった⋯。」
「いや、俺こそ、光はどっしりした食べ応えのあるケーキの方が喜ぶかなと思って、勝手に買って来ちゃったからっ。」
「アップルパイ大好きだから、嬉しいよっ!」
「ふふふっ。じゃぁ、今日はエッグタルト1つずつ食べて、アップルパイ1切れを半分こしよ?残りは明日の朝にでも。」
そう言って山本は、翌日に回すスイーツ達を冷蔵庫に仕舞いに行き、アップルパイをカットするナイフと、フォークを持って、ソファーに戻って来た。
それぞれの皿に盛られた、甘い香りを漂わせる、艶々のエッグタルトとアップルパイ。
「コーヒーと紅茶どっちにする?」
川野は、電気ポットでお湯を沸かしながら尋ねた。
「光はどっちが良い?」
「私は、たっぷりお茶も飲んできたから、コーヒーにしようかな。」
「じゃぁ俺も。コーヒーが良いなっ。」
「はいよっ。」
温かいコーヒーを添えて、深夜スイーツセットの出来上がりだ。
「いただきますっ。(サクッ、モグモグ)⋯んっ!美味しい!エッグタルトって、あまり食べる機会なかったけど、ハマりそうっ。シュークリームとも、プリンとも食感が違う、カスタードがまた良いねっ。」
そう言いながら山本は、あっという間にエッグタルトを完食した。
「そうそう!ここの店は、タルト生地もサクサクで軽やかで、美味しんだよね〜。また買ってくるよ!さて、私はパイから行こうかな。(モグモグ)⋯んふふ♪美味しいー!私、アップルパイはシナモンが効いてるのが特に好きで。とっても好みっ!」
そう言いながら川野も、あっという間にアップルパイを完食した。
これ以上は、あまり食べれないと言っておきながら、美味しい物はやはり、意外とペロリと食べられてしまうものだ。
「光〜、ところでさぁ。湯川次長とのお茶会はどうだったの?」
アップルパイにフォークを入れながら、山本が尋ねた。
「お茶会はね、人生と仕事について?湯川次長がずっと語ってたよ。まぁ、勉強になる事もあったし、点心も美味しかったから行って良かった。」
川野は、湯川が浮気されて離婚したという話を、今ここで山本に詳しく話すのは違うと思ったので、そっと胸に仕舞った。
「そっか。」
どこか、ホッとした様な表情を浮かべる山本。
「哲也君の方は?今日は増岡達と、どこで飲んでたの?佐渡君は元気にしてる?」
川野は山本の方の飲み会が、どれほど楽しかったのか、とても気になっていた。
「今日は、あの新年会やった居酒屋に行ったよ。泡盛もけっこう飲んだし〜。ふふっ、2人があの時の真相とか教えてくれてっ。当時はかなりムカついたけど、改めて聞くと可笑しくなっちゃって、面白かったよ♪」
あの時の真相とは、川野と山本が喧嘩別れをして、ウジウジしていた時期に行われた新年会にて、増岡と佐渡が川野を口説く素振りを山本に見せつけ、相当なヤキモチを発動させた事だった。
「えぇ~!?何それっ!オカシイとは思ってたけど⋯。増岡が私を下の名前で呼ぶ事なんて他になかったし、佐渡君だって様子が変だったし。でもまさか、哲也君に向けてそんな事やってたの?恥ずかしい〜っ。」
鈍感な川野は、この話を聞いてようやく、増岡と佐渡があの時、単に自分をからかっていた訳では無く、山本との復縁を画策してくれてたのだと理解した。
そして、せっかく2人がくれたチャンスを、あっさりと台無しにして、山本を泣かせた自分の行動を思い出し、耳を真っ赤にした。
「その節は、色々とすみませんでした⋯。」
姿勢を正し、深々と頭を下げる川野。
「ふふふっ。今となっては良い思い出ですよっ、川野さん。」
そう言って山本は、意地悪そうな笑みを浮かべ、残りのアップルパイを頬張った。




