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川野課長の憂鬱〜ブルーでライトな横浜凱旋〜  作者: 桃山あんづ


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気が合う2人

お茶するだけと言われた割に、酒の入った湯川の話を、2時間ほど聞き続けた川野と山口。


「俺なんかの話を、ちゃんと聞いてくれて、ありがとなっ。」


湯川は普段、弱音を吐かない強い男というイメージを持たれているので、本人もそれを自覚し、なかなかこの行き場の無い寂しさを、吐き出せる機会が無かったようだ。

その思いを正直に言葉に出来たことで、随分とスッキリとした表情をしている。

もちろん前回の様に酔っ払って、醜態を見せることは無かった。



「俺は私鉄だから。お疲れ!また明日なっ。」



そう言って湯川は、片手を挙げて挨拶をしながら帰って行った。


その後ろ姿を見送り、ほっと胸をなで下ろした川野。



「山口君は、地下鉄だよね?途中まで一緒に帰ろっか。」


「そうですねっ。ここからだと、あそこの通りを抜けた方が、駅近いです。ところで姉さん、お酒をよく我慢出来ましたね。デザートもいらないんですか?」



山口がニコっと笑った。

大酒飲みで食いしん坊の川野の事を、よく知っているのだ。


「確かに。あんなに美味しい点心食べながら、よくお酒、我慢したよね〜。山口君も、本当は飲みたかったんじゃない?甘いものくらい買っていこうかなっ。」




中華街の通りは、美味しそうなもので溢れている。

スイーツ店も多く、つい目移りしてしまう。



「姉さん、杏仁ソフト好きでしたよね?食べますか?」



通りを歩きながら、山口が声を掛けて来た。



「あぁ~美味しそう!でもなぁ〜、お土産も買うから、甘いもの食べ過ぎになっちゃうかな?」



杏仁ソフトの看板を眺めながら、悩ましい表情を浮かべる川野。



「そうでしたねっ⋯⋯。じゃあ、お土産なら、エッグタルトはどうですか?」



山口は少し考えた後に、そう提案した。



「良いねっ!そこのお店に置いてたっけ?行こう!」



川野は機嫌良く、エッグタルトや胡麻団子を売っている、菓子店に入った。



「すみません、エッグタルト6つお願いします。4つと2つに分けて下さい。」



山口が店内を見渡している間に、さっさと買い物を終えた川野。



「よしっ、山口君、帰ろうっ。」



「もう良いんですか?姉さん、相変わらず行動が早いですねっ。」



川野のせっかちな姿に少し戸惑いながら、山口が言った。


菓子店を出て、再び歩き出す2人。



「山口君、これっ、お土産。」



そう言って川野は、エッグタルトが2つ入った方の紙袋を山口に差し出した。



「えっ?僕の分まで⋯。ありがとうございます。何だかすみません。昼間、タコ焼きをご馳走してもらったばかりなのに。」



「いえいえっ。今日はソフトクリームお預けになったけど、次は一緒に食べようね☆」



「じゃあ、次は馳走させて下さい。楽しみにしてますからっ。⋯では、僕はここで。お疲れ様でしたっ。」



山口は、嬉しそうな、寂しそうな、複雑な表情をしながら、地下鉄への階段を降りて行った。




川野も駅に着き、電車に乗った。


本来なら、湯川と同じ私鉄を使った方が、通勤が楽なのだが、こちらの電車の車窓から眺める風景が好きなため、あえて会社から距離のある、JRを利用している。




横浜駅でいつも通り赤い電車に乗り換え、最寄り駅まで帰って来た。


改札を出て、歩き出す川野。

山本はまだ、増岡と佐渡と飲んでいるのだろうか?


自分も久しぶりに同席したい気持ちだが、親しい間柄とはいえ、3人が盛り上がっている所に、いきなり入り込む勇気はない。


川野はコンビニで缶ビールを2つ購入し、そのまま大人しく、帰宅した。




カチャ、ガチャン―



「ただいま〜。」



川野が帰って来てから1時間ほど経った頃、ほろ酔いでご機嫌な山本が帰って来た。


時刻はもう23:00を回っている。



「おかえり〜。楽しかった〜?」



寝支度まで済まし、ソファーにもたれTVを観ながら、購入した缶ビールを全て飲み干した川野は、眠そうにしている。



「光〜!会いたかった〜。チュッ、チュッ。はぁ~、イイ匂いっ。」



川野に抱き付き、強引に頬にキスをする、いつもよりテンションが高めの山本。

その姿を面倒臭いと思いながらも、可愛さが勝って、つい頭を撫でてしまう。



「私も会いたかったよ〜。ねぇ、まだお腹に余裕ある?甘いもの買ってきたから、一緒に食べない?」



そう言って川野は姿勢を起こし、ローテーブルに置いていた紙袋から、エッグタルトを取り出した。



「えぇ~、偶然!俺はね、光が好きなアップルパイ買ってきちゃった☆」



そう言って山本は、床に置いた袋を川野に見せた。



「えへへっ。気が合いますね☆ありがと〜っ!」



「手、洗ってくるねっ!」



山本は嬉しそうに微笑み、洗面所へ向った。



職場が離れ、山本が寂しい思いをしていないか、気にしていた川野だったが、こんなにニコニコして帰って来る彼の姿を見ると、その心配も吹き飛んで行く様だった。


しかし、彼がいつもより機嫌が良いのは何故なのか?


飲み会が相当、楽しかったのか?

だとすると、何の話題で盛り上がったのか⋯。



非常に興味を示す、川野であった。




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