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川野課長の憂鬱〜ブルーでライトな横浜凱旋〜  作者: 桃山あんづ


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14/50

山と海

川野がほんの少し優しさを見せた事で、朝からすっかり機嫌が良い湯川。


彼の声は低く大きいため、普通の会話をしていてもどこか威圧感があり、話している相手は怒られている様な感覚に陥るのだが、今日は終始、控えめで穏やかな声色でニコニコとしているため、周りの者は逆に恐怖を覚えていた。



「光〜。GWの案件だけど、どちらに入りたい?俺とお前はここへ来たばかりだから、サポート役になるけど。」


キャスターのついた椅子を、座ったままスーッとスライドさせ、湯川が川野に近付いて来た。


「はいっ!」


普段は湯川に、大きな一声で呼び付けられる側なので、急に彼から近付かれてビクついた川野は、つい大きな声で返事をしてしまった。


「お〜いっ、何だよその反応。さては、ボーッとしてたな?はははっ。」


川野の引きつった顔を覗き込み、笑う湯川。


「いえ⋯。すみませんでした。」


とてもじゃないが、上司に“あんたの異様さに驚いたんだよ”なんて、言えない。


気を取り直して、川野は、差し出された企画書に目を落とした。


「う〜ん、どちらも良い企画ですね〜。迷います。」


「そうだよな〜。俺も迷ってるんだよ。」



そのGWの案件とは、以下の通りだ。



・緑に囲まれた公園で開催する子供向けのイベント


・海辺の公園で開催する地元アーティストの野外演奏会



どちらも、大変でやり甲斐のあるものだ。


仕事人間の2人にはどちらの案件も、どっぷりと首を突っ込みたいくらい、魅力的に映っている。


「では⋯。湯川次長は、こちらに入って頂けないでしょうか?色々と、ご指導下さればと思います。川野課長ではちょっと⋯。」


本島が、声を掛けて来た。


確かに、湯川は次長になるだけあって、様々な事が出来る男で、特に音楽イベントは得意だ。

音響も照明も、舞台の設営も、彼の手に掛かれば安泰だ。


現在は東京第二支社の課長をしている増岡は、新人時代に湯川から、設営のイロハを叩き込まれていた。


川野と増岡の面倒を見ていた湯川は、こうした設営のセンスは、増岡の方に才があると見抜いたためだった。



「そうか?じゃぁ、本島のご指名とあらば⋯こっちにするよ。」



湯川は、これまた機嫌良さそうに返事をした。


本島の席の奥で、嫌そうな顔をしている佐々木。

佐々木は、本島と他社員2名と共に、演奏会の方の案件をメインで取り組んでいるのだ。




本島は、本当は極力、自分と一緒に仕事をしたくないだけなのだろう。

一緒に働き出してまだ2週間も経っていない、湯川の本当の凄さを、知っているはずが無いのだから。


まぁ、仕方ない。こちらも同じ気持ちなのでちょうど良い。

企画は面白そうだったが⋯。


しかし、自分より7歳も若くて役職も下なのに、彼女はなんで、あんなに偉そうなのか?



川野はそう頭の中で、ブツブツと文句を言いながら、顔を曇らせた。



「姉さ、あっ⋯。川野課長は、こちらに入ってくれるんですね?さっそく一緒に仕事出来るなんて、嬉しいですよ!宜しくお願いします。」



ムスッと黙り込む川野を見兼ねて、山口がフォローした。



「そうよ〜!川野ちゃんがこっち来てくれて嬉しい!よろしくねっ。」



木村さんも遠くの席から、元気良く励ましてくれた。



「すみません、ありがとうございますっ。宜しくお願いします!」



周りに気を遣わせてどうするのか?


これではいけないと、嫌な気持ちを振り払い、川野は立ち上がって頭を下げた。





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