↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
川野課長の憂鬱〜ブルーでライトな横浜凱旋〜  作者: 桃山あんづ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/53

好きって言ってるでしょ?

布団に潜り込み、久し振りにシクシクと涙する川野。


山本と復縁して以来、こうして恋に泣くことは無かったのだが。




ピンポーン―


川野が布団を涙で濡らしていると、家のインターフォンが鳴った。


思い当たる者は、一人しかいない。


しかし、今顔を合わせたところで、感情が爆発してしまい、ろくな事にならないだろう。


出来れば出たくないと、顔まで布団を被る川野。




ピンポーン―


インターフォンがもう一度、鳴った。


全く動く様子を見せない、川野。


実は、自分は早々に山本の家の合鍵を貰っていたが、ここの合鍵は彼に渡していない。


なぜなら、部屋が片付いていない事が多いので、知らないうちにその惨状を、彼に見られたくないからだ。


布団に潜り込んだまま、居留守を使おうとする川野。




ピロリロリン♪―


今度は、スマホに電話が掛かって来た。


肝心な時に、あれだけ黙り込んでいた男が今更、何を話そうと言うのか。


ひょっとして、別れ話でもするのか⋯?


内容が気になってしまい、川野は思わず、電話を取った。



「⋯⋯もしもし。⋯どうしたの?」



少しかすれた怠そうな声で、ゆっくりと川野が尋ねた。



「⋯もしもし。⋯家にいるなら、開けてくれない?」



ぶっきらぼうに、言葉を返す山本。


これまで、この様な彼の拗ねた姿は可愛いと感じていたのだが、今は何だか、それがあまりにも幼稚で大人げない態度に見えて、煩わしく思えてしまう。



それでも、家の中にいるのがバレた以上、玄関の前まで来ている婚約者を、無下にするわけにはいかない。


仕方なく川野は、玄関のドアを開けた。



ガチャ―


ガッ―



扉を開けた瞬間、山本は川野をキツく抱き寄せた。



「ちょっと⋯ちょっと!止めてよっ!」



突き放そうとしても、山本の腕力には敵わず、川野は思わず声を張り上げた。



「ヤダッ!⋯⋯光、俺を嫌いにならないで。」



「離してっ!」



「昨日の事、ちゃんと謝るからっ!光は悪くないのに怒って、本当にごめん。他の男の匂いが付いてて、冷静でいられなかったんだ⋯。俺が嫌な態度したのに、実家まで着いて来てくれて、ちゃんと挨拶してくれて、ありがとうっ。」



そう言って山本は、川野の唇に、唇を近付けた。


唇が近付いても、瞬きもせずに彼を真っすぐ睨み付ける川野。


彼女の頑なな態度に、山本は視線を逸らし、ついには口づけをするのを躊躇い、体を離した。



「昨日の事は、元々そんなに怒ってない。挨拶も、自分が行きたくて行ったの。でもね、私はもう、あなたを愛せないかも。何でか分かる?」



冷たい視線で、容赦なく山本を責め立てる川野。

戸惑う、山本。



「俺に愛想尽きた?挨拶で、あまり喋らなかったから?それとも、他に気に入らない事あった?ちゃんと謝るから、教えてっ。」



「そうじゃない!⋯⋯何で彩さんの事、前もって何も話してくれなかったの?お兄さんの事も、話したがらなかったし、私と同い年という事も、今日、初めて知った。⋯⋯哲也君てさっ、彩さんの事、好きでしょ?女性として。」



山本の顔が一瞬、強張った。


その表情を見逃さなかった川野は、想像はついていたものの、さすがにショックを受けた。




終わった⋯。

今度こそ、終わってしまった⋯。



でも、もう涙は溢れて来ない。


どんなに愛した男でも、ずっと前から想っていた他の女性を、こっそり自分に重ねる男なんて、こちらから願い下げだ。



「やっぱり、そういう事ねっ。じゃぁ⋯。」



川野は、自身のこめかみを片手で触り、別れの言葉を考えながら、淡々と話し出した。


その時だった。




サッ―


ガサガサッ―


山本が急に、川野を横抱きの状態で持ち上げ、靴を脱ぎ捨て、部屋へ上がりだした。



「ねぇっ!話、聞いてた?図星でしょ?図星っ!だからもう、こんな事しないで!」



必死に言葉で抵抗する川野だが、高所恐怖症のため、高身長の山本に抱きかかえられたら、それほど身動きが取れない。




ボフッ―


川野を軽々と寝室のベッドへ運び、山本は彼女に、覆い被さった。



「⋯⋯好きって言ってるじゃん⋯⋯。光の事、大好きって、ずっと言ってるじゃん。」



そう言って、川野に口づけをしようとする山本。


彼の答えに納得の行かない川野は、即座に口を硬く紡いだ。



山本は口づけを諦め、ガバッと体を起こし、ベッドの端に腰掛けた。



「分かった、認める!認めるよ⋯。俺は彩ちゃんの事、好きだったよ。でも、それは兄貴と付き合うか、付き合わないかの、かなり昔の事。俺がまだ、中学生の頃。淡い初恋っていうの?でも、兄貴の恋人になってからは、それほど⋯。」



「そりゃぁ、お兄さんの彼女を好きだなんて、公には言えないよね?それでずっと、片思いしてたんだ。」



言葉に詰まる山本の気持ちを、代弁するかのように語る川野。



「そんなに引きずってないよ!俺、女の子に困ったこと無いし。いやっ、別に女の子を取っ替え引っ替えしてた訳じゃないけど!それに⋯。」



山本は、ベッドに横たわりながら、険しい顔で自分に冷たい視線を向ける、川野の頭を撫でた。



「今日、俺が彩ちゃんの姿を見てソワソワしたり、光を出汁に使って、彩ちゃんの気を引こうとしたりしてた?そんな事、してなかったはずだよ?⋯俺は何より、皆に祝福されて、光と晴れて結婚できるのが嬉しくて、ずっと幸せを噛み締めてたんだっ。」



そして再び、山本は川野に覆い被さり、口づけをした。



自分のかけた疑惑が、山本の言い分では、半分真実で、半分真実では無かった事を、複雑に思う川野。



彼を信じて良いのだろうか⋯。

淡い初恋は、本当に長年、続いていなかったのだろうか。


疑い続ける川野の目を、真っすぐ見つめ返す山本。



「やっと夫婦になれるんだ。光は、誰にも渡さない。俺だけのものだよ。⋯⋯ずっと、独り占めしたいくらい、愛してる。」



そう言って彼の唇は、川野の唇を執拗に求め、そのまま彼女の首筋へと、這い出した。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。