第九章 旧東京第七区大戦
ドォォォォォンッ!!
轟音が旧東京に響く。廃ビルの壁面が吹き飛んだ。瓦礫が宙を舞う。その中心。十文字剛が豪快に笑っていた。
「ハハハハハッ!!」
拳を振るう。それだけで衝撃波が走る。アスファルトが砕けた。だが。相手はいない。
「おっと」
十文字が見上げた。虎の仮面を被った少女が空中に舞っていた。青い髪が風に揺れている。手には長槍。
「はえーな。面白れぇ」
十文字が笑う。蒼空は肩をすくめた。
「面白くないよ。そっちの攻撃、一発でも当たったら終わりだもん」
「避ければいいだけだろ」
「脳筋すぎるでしょ」
次の瞬間。蒼空の姿が消えた。ドンッ!!地面が弾ける。十文字の背後。長槍が一直線に突き出された。
ガキィィィィン!!
金属音。蒼空の目が見開かれる。槍が止まっていた。
十文字の腕。筋肉だけで受け止めている。
「うわぁ……」
思わず引いた声が漏れる。
「本当に人間?」
「どう思う?」
十文字がニヤリと笑う。
「人間やめてると思う」
「ハハハハハッ!!」
十文字は豪快に笑った。ゴキリ。肩を鳴らす。鈍い音が響いた。
「流石の速さだな」
十文字は槍を挟んだまま笑う。
「危うく顔に穴が空くところだったぜ」
そう言いながら。まるで余裕そのものだった。蒼空は少し引いた。その時。十文字が拳を握る。
「さあ」
口元が獰猛に歪む。
「早く見せてくれ」
風が吹く。十文字の視線が真っ直ぐ蒼空を捉える。
「お前のRAIGINをよ。《蒼槍の流星》」
蒼空の動きが止まった。
「あー……」
嫌そうな声が漏れる。
「やめて」
槍を肩に担ぎ直す。
「それ周りが勝手に呼んでるだけだから」
「そうなのか?」
「そうだよ」
十文字は楽しそうだった。
「いいじゃねぇか」
「よくないよ」
蒼空は深いため息を吐く。そして。槍を構えた。空気が変わる。先ほどまでの軽い空気が消える。
十文字の笑みが深くなった。
「おっ」
蒼空は槍を肩に担ぎ直した。そして面倒そうに言う。
「正直さぁ」
虎の仮面の奥からため息が漏れる。
「疲れるから本気出したくないんだよね」
本音だった。RAIGINを全開で回せば身体への負担は大きい。戦えないわけじゃない。だが疲れる。
だから蒼空は普段から全力を出さない。
それが彼女の戦い方だった。だが。
十文字は嬉しそうに笑った。
「そうか」
ゴキリ。拳を握る。
その音だけで空気が震えた気がした。
「なら」
十文字が口元を吊り上げる。
「俺は遠慮なくいかせてもらうぜ」
その瞬間だった。背中のRAIGINが光る。青白い光。
まるで心臓の鼓動のように。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
低い駆動音が旧東京に響いた。
【RAIGIN認証】
【全身神経接続】
【出力制限解除】
「LIMITER RELEASE」
ブゥゥゥゥゥン――空気が震える。瓦礫が跳ねる。
足元のアスファルトに亀裂が走った。
蒼空の表情から笑みが消える。
(嘘でしょ)
思わずそう思った。ただ立っているだけ。
それだけなのに。目の前の男が巨大な怪物に見えた。
背中の光がさらに強くなる。筋肉が膨張する。
血管が浮かび上がる。
「最高だ」
獣のような笑み。
「久しぶりのRAIGINだぜ。」
十文字が一歩踏み出す。
その瞬間。地面が砕けた。
ドォンッ!!
爆発。そうとしか思えなかった。
蒼空の瞳が見開かれる。
「速い――!?」
消えた。巨体が。目の前から。次の瞬間には。
十文字の拳が目前まで迫っていた。
「ハハハハハッ!!」
鬼神が笑う。蒼空は反射的に槍を構えた。
轟音。
衝撃。
そして。旧東京の空で。鬼神と蒼槍の流星の戦いが始まった。
♦︎
その頃。旧東京第七区中央区。
そこでもまた激しい戦いが繰り広げられていた。
神楽の刀が閃く。刹那。
刀身を走った青白い光が解き放たれた。
バチィィィィッ!!雷鳴にも似た轟音。
無数の電撃が大地を這いながらEVEへ襲いかかる。
アスファルトが砕ける。
廃車が吹き飛ぶ。だが。
EVEの姿は既にそこにはなかった。
『遅い』
淡々とした声。
電撃の網をすり抜けるように前進する。
一歩。また一歩。
ただ歩いているようにしか見えない。
しかし。その速度は異常だった。
神楽の瞳が僅かに細くなる。
(人間の動きじゃない)
次の瞬間。
EVEの姿が消えた。
ドォンッ!!
空気が弾ける。
神楽は咄嗟に刀を構えた。
ガキィィィィン!!
凄まじい衝撃。
足元の道路が陥没する。
神楽は数メートル後方へ滑った。
だが表情は変わらない。
(速い)
静かに分析する。
(あの速度なら機動型RAIGINのはず)
視線を走らせる。
脚。腕。首。背中。
どこにもRAIGINらしきものは見当たらない。
(見えない……?)
あり得ない。
RAIGINには必ず接続部位が存在する。だが。
目の前の少女にはそれがない。まるで。
人間そのものが異常な存在であるかのように。
神楽は静かに息を吐いた。
「仕方ないか」
小さく呟く。
そして距離を取った。EVEは追わない。
ただ無表情で見つめている。
神楽は刀を天へ掲げた。その瞬間だった。
空気が変わる。風が止まる。雲が動く。
まるで空そのものが引き寄せられるように。
黒い雲が頭上へ集まり始めた。
遠くで見ていた悠人が目を見開く。
「お、おい……」
嫌な予感しかしない。
「なんだあれ」
空が黒く染まっていく。
雷鳴が響く。ゴロゴロと低い音が大気を震わせる。
そして。神楽が静かに告げた。
「LIMITER RELEASE」
刀身が発光する。青白い光ではない。
闇のような黒。吸い込まれそうな漆黒だった。
「BLACK OUT」
直後。
ドォォォォォンッ!!
天から雷が落ちた。
真っ直ぐ。神楽の刀へ。
轟音が旧東京全域を揺らす。
黒い雷。あり得ない色。
刀身を中心に漆黒の稲妻が暴れ狂う。
周囲の建物の窓ガラスが一斉に砕け散った。
悠人は思わず叫ぶ。
「おいおいおいおい!」
背筋が凍る。
「雷!?」
いや違う。普通の雷じゃない。
「あれが黒雷……?」
神楽は静かに刀を構えた。
漆黒の雷が刀身へ絡みつく。
周囲の空気が悲鳴を上げていた。
地面が焦げる。空間が歪む。
EVEはその光景を見ても表情を変えない。
神楽は刀の切っ先をEVEへ向ける。
「消えて」
次の瞬間。




