第四話 殺すと言われたのに生存率が上がった
気づいたら、体が吹き飛んでいた。「痛ぇ……」壁に寄りかかるように転がったまま、視線を上げる。そこには階数表示。(……8階)割れた窓の向こうを見上げる。どうやら俺は、さっきドローンにぶつかった衝撃で下の階まで吹っ飛ばされたらしい。「おい」俺は頭の中に向かって呟いた。
「さっきから脳内で喋ってるお前、名前は何て呼べばいいんだ。」
『私の名前はEVE、あなたからは、そう呼ばれていました』
(EVE…どうやらそう呼んで居たらしい)俺は息を吐く。
「ここから脱出できるルートを再計算しろ、最短でだ」一瞬の沈黙。そして――『解析完了』
EVEの声が落ちる。そして――
『生存確率:測定不能(1%未満)エラー:規格外イベント検知』
「……は?」俺は固まった。(1%未満ってなんだよ……)その時だった。足音が止まる。すぐそこだ。階段の向こう。空気が“重い”。圧というより、熱。チリチリと肌を焼くような
殺気。
(あれは……オーラ、ってやつか?)冗談みたいな感想が頭をよぎる。
『神代悠人、あなたはこの1%に賭けますか?』悠人は息を呑む。そして
「やるしかないだろ」
『承知いたしました。前方:カレン・アークライト後方:不確定領域、後方へ進んでください』
「……は?」
『推奨ルートです』
「不確定領域って何だよ!!」だが考えるより早かった。俺は反射的に――カレンとは逆方向へ走る。
⸻
廊下を蹴る。痛みはある。でも止まれない。曲がり角。さらに奥へ。
(どこでもいい、どこでも――)
その瞬間。視界が“切り替わった”。目の前に――――――黒髪の少女。仮面を付けている。人間のはずなのに、人間っぽさが薄い。黒いロングヘアが静かに揺れている。顔は鬼のような仮面で覆われている。
だが。隙間から覗く瞳だけが異常だった。――冷たい。そして、妙に“綺麗”だった。
「え、、」
考える前に、少女が動く。ドンッ!!視界が弾けた。衝撃。痛み。遅れて理解する。殴られた。
「ぐあっ!!」俺の体は壁に叩きつけられる。肺から空気が全部抜ける。(は?今の……何だ?)
一瞬遅れて思考が追いつく。――女の子、だよな?
背中に走る激痛が、その現実を嫌というほど教えてくる。壁にめり込んだんじゃないかと思うほどの衝撃だった。まともに呼吸もできない。
(女の子が出していいパワーじゃないだろ、これ……)
俺が知っている女子高生は、人を壁まで吹き飛ばしたりしない。
少なくとも、俺の世界では。少女は無言のまま立っていた。黒髪が静かに揺れる。鬼のような仮面。
その奥から覗く瞳だけが、異様なほど冷たい。まるで俺を人間として見ていない。その時だった。EVEの声が一瞬だけ乱れる。
『警告します。未知戦力、分類:漂流者』
「おい……マジかよ……」思わず乾いた笑いが漏れる。未来都市に転生したと思ったら、武装部隊に追われて、赤髪の化け物みたいな女から逃げて、今度は仮面の少女だ。しかもEVEですら正体が分からないらしい。痛みよりも状況の方が意味不明だった。少女が一歩前へ出る。
その動作は静かだった。だが、それだけで空気が張り詰める。そして仮面の奥から、冷たい声が響いた。
「悠人。話を聞いた後、おまえを――殺す」心臓が止まりそうになる。
いや、待て。今なんて言った?話を聞くまではいい。その後がよくない。全然よくない。むしろ最悪だ。転生初日に死亡フラグを回収する予定なんてなかった。そう思った、その瞬間。EVEが割り込むように告げた。
『生存確率上昇』
『87%』
「……は?」
思わず聞き返した。目の前には俺を殺すと言った少女。状況はむしろ悪化している。なのに――
生存確率だけが、ありえないほど跳ね上がっていた。




