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第十三章 接続

フェンリルが消える。

空気が裂けるような移動。

次の瞬間には神楽の目の前に現れている。

反応できない。

爪が空を裂き、肩口をかすめる。

布が破れ、血が散った。

「っ……!」

着地した瞬間、膝が崩れた。

次の瞬間。


標的が変わった。

神楽ではない。

フェンリルがEVEへ向かう。

「っ、EVE!!」

悠人の叫びと同時に、EVEが反応する。

右腕からエネルギーを展開。防御フィールド。

だが。

フェンリルの一撃はそれを“押し潰した”。

ドンッ!!

衝撃だけでEVEの身体が吹き飛ぶ。

地面を削りながら後退する。

フィールドが砕けるように崩壊した。

片腕の配線が火花を散らす。

悠人はフェンリルを指さしたまま続ける。

「右前脚だ!!そこに全部集まってる!!」

EVEが即座に解析を走らせる。

『再解析』一瞬の沈黙。

『黒雷による貫通不可現行出力では装甲破壊不能私の砲撃でも同様中枢破壊まで到達しない』

フェンリルが動いた。

一瞬。

空気が消えるような感覚。

次に見えた時には、神楽の目の前にいた。

「っ……!」

反応が遅れる。

神楽が刀を構える。

ガキィッ!!

爪と刃がぶつかる。

衝撃。

受け止めきれない

そのまま二人まとめて吹き飛ばされた。

地面を転がる。

砂埃が舞う。

神楽とEVEの身体がほぼ同時に悠人の近くへ滑り込むように倒れた

神楽が咳き込みながら起き上がる。

血を拭う。

そして悠人を見る。

「あなたが諦めるなんて、まるで別人を見てるみたい」

静かな声だった。

責めるでもない。

ただ事実を確認するような言い方だった。

悠人は何も言えない。


喉が詰まる。

EVEもゆっくりと上体を起こす。

配線の火花がまだ腕から散っている。

それでも、目はまっすぐ悠人を見ていた。フェンリルが近づく。

一歩。

また一歩。

ただ歩いているだけなのに、空気が削れていくような圧があった。

逃げ道があるはずなのに、身体が動かない。

神楽がゆっくりと刀を握り直す。肩で息をしていた。

それでも視線は外さない。

「で? 何かいい案あるの?」

掠れた声だった。

EVEは神楽ではなく、悠人を見ていた。少し間を置いて言う。

『ひとつだけある』

神楽が眉を動かす。

「……は?」

EVEは淡々と続ける。

『それは、悠人が私とRAIGINを接続すること』

少し間を置いて、EVEは続けた。

『ただし今のあなたでは、私を扱える器じゃない最悪、そのまま壊れる。死ぬわ』

言葉は冷静だった。だからこそ現実味があった。

神楽が小さく息を吐く。

「つまりやるか、死ぬかってことね」

EVEは頷かない。ただ事実を言う。

『成功すれば中枢破壊まで届く出力は出せる』

悠人はフェンリルを見ていた。赤い双眼はもう観察ではない。次で確実に殺す目だ。

喉が渇く。心臓がうるさい。

それでも目は逸らせない。

神楽が横目で悠人を見る。

「本気?」

EVEも静かに言う。

『覚悟はある?』

悠人は一歩前に出る。足が震えているのに止まらない。

「ああ、やってくれ」

神楽は何も言わない。

EVEはゆっくりと手を伸ばし、悠人の頭部に手を当てた。

そして静かに言う。

『接続プロトコル、開始』


♦︎


颯太は走っていた。

息が切れているのに止まれない。

(早く……伝えないと)

胸の奥が嫌な音を立てている。

A級RAIGIN。

その単語だけで、足が勝手に前へ出た。

「十文字さん!!」

飛び込むようにその場へ出る。

周囲の空気は異様だった。

戦闘の痕跡だけが残り、何かが暴れた跡だけが広がっている。

そして、そこに十文字がいた。

壁に叩きつけられたまま動けない。

分厚い装甲はひしゃげ、あちこちから火花が散っている。

「てめぇ……何者だ」

十文字が低く唸る。

その視線の先にいたのは、仮面をつけた男だった。

「漂流者だよ」

軽い声。

この状況そのものに興味がないような響き。

「私人殺しとかしないから、もう行くね」

そう言って、男は歩き出そうとする。

颯太は慌てて駆け寄った。

「大丈夫ですか!? A級RAIGINがこの周辺を徘徊してます!」

息を整えながら必死に続ける。

「応援、呼びましょう!」

十文字はまだ立ち上がれない。

だが視線だけは鋭いままだった。

そのとき。

仮面の男――蒼空の内側で、独り言のような声が落ちる。

(A級……?)

蒼空の視線が颯太へ向く。

「そこの少年」

低い声だった。

「そのA級ってやつは、今どこにいる」

颯太は一瞬迷い、そして答えた。

「雷の鳴った方向に向かいました」

その瞬間。

空気が変わる。

仮面の奥から温度が消えた。

「……そうか」

短い一言。

次の瞬間、颯太は息を呑む。

殺気が一気に膨れ上がる。

「それは本当だな」

「は、はい……!」

返事をした直後。

蒼空は地面を蹴った。

視界から消えるような速度で一直線に駆け抜ける。

残されたのは、遅れて響く風だけだった。

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